『まめとむぎ』の“音のこだわり”と、天才・岩崎う大さんに救われた育児の夜|太田勇の5分で読めるテレビの裏側日記

『まめとむぎ』の“音のこだわり”と、天才・岩崎う大さんに救われた育児の夜|太田勇の5分で読めるテレビの裏側日記

●『まめとむぎ』絶賛放送中

始まりました、『まめとむぎ』。第一話もTVer総合2位となり、好調な滑り出しで何よりです。観てくださった皆さま、本当にありがとうございます。

今回は、このドラマで意外とこだわったことについて書こうと思います。「音楽」です。

なぜ音楽にこだわったのか。理由は大きく二つありました。

まず一つ目。『まめとむぎ』の原作者・谷口菜津子先生のもう一つの大ヒットドラマといえば、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』です。当然、同じ谷口先生原作ということで比較もされるでしょうし、僕自身、「あの大人気ドラマに一体、どうやったら勝てるんだろう?」と考えました。あれだけのヒットドラマに、真正面からコメディで勝負しても、なかなか勝てそうにない。

そしてもう一つが、深夜ドラマとしての問題です。『まめとむぎ』には、谷口先生の面白い原作がある。そして、齋藤飛鳥さんと富田望生さんという素晴らしい主演二人がいる。なので、いわゆる「ウェルメイドなドラマ」を作ること自体は、それほど難しくないと思っていました。ここでいうウェルメイドとは、温かくて、笑えて、ちょっと泣けて、家族みんなで安心して見られるようなドラマです。

でも、それをそのまま目指してしまうと、プライムタイムのドラマと戦うことになる。当然ですが、予算が違います。ロケーションの数も違う。出演できる俳優の人数も違う。撮影にかけられる時間も違う。
同じ料理を作ったら、材料費の高い店にはなかなか勝てない。
じゃあ、どうするか。違う料理を作るしかない。そこで目をつけたのが、「音楽」でした。映像を見ている人が、音楽を聴いた瞬間、
「あれ?なんか普通のドラマと違う」と思う。
その小さな違和感を作れたら、予算とは別のところで勝負できるんじゃないか。だったら、音楽だけ聴いて「このドラマだ!」とわかってもらえるくらい、まったく違うものにしよう。

プライムタイムだと、どうしても音楽にもある程度の「分かりやすさ」が必要になります。でも深夜ドラマなら、むしろちょっと変なことをやってもいい。ということで、『まめとむぎ』の音楽を、南米系、さらに一部アフリカ系の匂いがするものにしようと決めました。決めたはいいものの、僕も南米音楽の専門家ではありません。なので、めちゃくちゃ聴きました。ちなみに、これが最初に劇伴チームと打ち合わせをしたときの資料です。

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クラシックギター、カホン、シェイカー、ボンゴ、コンガ、バンドリン、クアトロ、アコーディオン……。「カホンとシェイカーが居酒屋に置いてあって、料理中にその音が入ってきてもいいんじゃないか」なんてことまで書いています。

チーフ監督の畑中さんも、事前に自分で音楽リストを作って送ってくれて、それに僕が探した曲を足して、劇伴チームとの打ち合わせに持っていきました。そして言いました。
「とにかく、最初の数秒を聴いただけで、“普通のドラマと違う”と思える音楽にしてください」
劇伴チームの反応は、「……なるほど」という感じでした。もう少し正確に言うと、
「え?グルメドラマですよね?女の子二人主演ですよね?」という困惑です。

そりゃそうです。しかも劇伴というのは、一人の方が全曲を作るとは限りません。音楽プロデューサーから、それぞれの作曲家に発注していくこともあります。当初お願いしようとしていたのは、作品の内容から考えて、ピアノ系の音楽などを得意とする作曲家さんでした。当然、南米の楽器なんて普段ほとんど使わない。
「近い楽器でやってみます」となりました。
……が、やっぱり難しかった。

最終的には別の方にもお願いすることになりました。最初に作ってもらうテーマ曲。たしか、5回くらい直してもらいました。もちろん、毎回ちゃんといい曲でした。でも聴くと、どこかに、
「とはいえ、女の子二人のドラマだし」
「とはいえ、グルメドラマだし」という“優しさ”が残っている。僕はそのたびに、
「すみません。この“女の子二人感”をもう少し減らしてください」
「もう少し普通じゃなくていいです」
「もっと変で大丈夫です」
みたいな、作曲家さんからしたら相当困るであろう注文を繰り返しました。

以前、音楽の打ち合わせで自分でも一番しっくりきた言い方があって、
「今はイタリア料理を南米風にアレンジした感じなんです。そうじゃなくて、最初から南米料理を作ってほしいんです」とお願いしました。

でも、そこまでやって、ようやく今の音楽になりました。しかもこれはテーマ曲一曲だけの話ではありません。劇伴全体です。なので『まめとむぎ』は、普通のテレビドラマではあまり耳にしない楽器やリズムが、かなり頻繁に聞こえてくると思います。

そして、もう一つやってみたかったことがあります。音楽を、画面の外から流すだけにしない。楽器そのもの、演奏する人そのものを、ドラマの中に出してしまうことです。イメージとして近いのは、映画「メリーに首ったけ」。あの映画では、ストリートミュージシャンが画面に現れて演奏し、その音楽がそのまま映画のBGMになっていく演出があります。
『まめとむぎ』でも、それをやっています。
実は最初の資料にも、
「半分即興っぽい演奏でもいい。テンポが少し揺れる。呼吸が聞こえる。カホンのノイズが入る。指が弦に擦れる」と書いています。
普通、劇伴は映像の“外側”にあります。でも、演奏者が画面の中にいると、劇中の音とBGMの境目が曖昧になる。人物と同じ場所から音が鳴っているので、音楽が後から付け足されたものではなく、その店、その街、その瞬間から自然に生まれているように感じられる。

さらに面白いのが、視聴者が一度「この世界では、どこから音楽が始まるか分からない」と知ると、店内の物音や街の音まで、ちょっと音楽っぽく聞こえてくることです。実際、最初の参考資料でも「生活音と音楽が混ざる感じ」や、「ドアや椅子の音が音楽とリンクする」演出を参考にしていました。
こういう遊びは、効率だけ考えれば、やらない方が楽です。演奏者を呼ばなきゃいけない。撮影もしなきゃいけない。芝居や編集とも合わせなきゃいけない。ましてや、予算に限りのある深夜ドラマです。でも、だからこそ、「深夜ドラマだからできない」ではなく、「深夜ドラマだからやる」にしたかったんです。
大きなセットも作れない。
何十人も有名俳優を出すこともできない。
だったら、音を聴いた3秒で「このドラマ、なんか違う」と思わせる。そんなところにお金と手間を使ってもいいんじゃないかと思いました。

そんなわけで、『まめとむぎ』。発酵料理がおいしそうとか、齋藤飛鳥さんと富田望生さんの掛け合いが面白いとか、もちろんそこも見ていただきたいのですが、もう一つ、「今日の音、なんか変じゃない?」と思ったら、そこもたぶん狙ってやっています。「音楽」という、もう一つの見どころ――いや、“聞きどころ”にも、ぜひ注目してみてください。

●今月のオススメエンタメ
今月は、ちょっと変則的な「オススメエンタメ」です。オススメしたいのは、3つあります。

・劇団かもめんたる第16回公演『ピノキオの元カノ』。
・岩崎う大さんのエッセイ『家族コント』。
・9月18日放送『マツコ&有吉 かりそめ天国』の「U字工事プレゼンツ!う大ファミリーが行く!鬼怒川旅ベストプラン」。

全部、岩崎う大さんです。別にう大さんからお金をもらったわけでもう大さんの作品をテレ東でやるわけでもないです。

始まりは、う大さんのXの、ある投稿でした。う大さんには3人のお子さんがいて、これまでう大さんのお母さんが孫の面倒を見るために同居していたそうです。それが、一番下のお子さんも大きくなったので、最近家を出ていった。
そのとき、お母さんから、
「一番かわいい時期を見させてくれてありがとうね」というようなことを言われた、という投稿でした。
これを読んで、泣きそうになりました。というのも、今、うちには6歳と0歳の子どもがいます。
とにかく大変です。
「子どもが二人になっても、大変さは2倍じゃないよ。1.5倍くらいだよ」
みたいなことを生まれる前は言われましたけど、大ウソでした。少なくともうちは、体感2.5倍くらいです。毎晩、ようやく次男を寝かしつけたと思ったら、長男がやってきて起こす。長男に悪気はない。だから怒ってはいけない。分かっている。でも、怒る。そして後悔する。

……みたいな話を書き始めると、今月のP日誌が「太田家育児日誌」になってしまうので、この辺でやめます。

とにかく、そんな毎日を送っている時に読んだ、
「一番かわいい時期を見させてくれてありがとうね」
が、ものすごく刺さったんです。今は「大変だ」としか思えないこの時間も、あとから振り返れば、「一番かわいい時期」なのかもしれない。そう思った直後でした。

う大さんから、劇団かもめんたるの公演のお誘いをいただきました。
行きたい。めちゃくちゃ行きたい。でも、「子ども二人いて、ちょっと難しいです」と返信しました。
そこから、育児トークになりました。僕が「長男が宿題をとにかくやってくれないんですよ」と言ったら、う大さんから、
「昨日、次男が英語のテストで16点で、一緒に風呂入りました」と。
天才・岩崎う大も、家では16点の英語テストと向き合っている。ちょっと安心しました。そんなわけで、劇場には行けなかったのですが、『ピノキオの元カノ』は配信で観させていただきました。

面白かったです。劇団かもめんたるって、僕の中では、う大さんの「奇才」を好き勝手に爆発させる場所ではなく、その奇才をちゃんと僕らにも分かる「エンタメ」にしてくれる場所という印象があります。今回もまさにそうでした。
人間社会で信用されているAIマネキンたちは、基本的に正しいことを言う。ところが、そこに突然、「嘘をつけるAI」が現れる。そのAIは「ピノキオ」と呼ばれ、やがて役者となる。ここから恋愛が入り、家族が入り、さらには「劇団」の話まで入ってくる。残念ながら配信も10月4日までなので、この日誌が出る頃には終わっていると思います。オススメしておいて観られない。オススメエンタメとしてどうなんだ、という話ですが、劇団かもめんたるは定期的に公演をやっていますので、気になった方は次回ぜひ。

そして、このときのう大さんとのやりとりで、「僕の書いた『家族コント』、よければ読んでください」と言われました。即、買いました。これも面白かったです。個々の家族エピソードももちろん面白いのですが、僕が一番好きだったのが、う大さんが「自分には父親だという自覚がない」ということを書いているところでした。
これが、ものすごく分かる。僕も、子どもに対して便宜上「パパ」と言います。「パパがやるよ」とか。でも、自分が「父親」になったという感覚は、いまだにあまりありません。毎年、父の日が来ても、「あ、父さんに連絡しなきゃ」とは思う。でも自分が「父の日」の対象者になっていることには、いまだにピンとこない。子どもは間違いなくそこにいて、毎日世話をしているのに、自分の中身だけは昔とそんなに変わっていない。その感覚をう大さんも書いていて、「あ、これ僕だけじゃないんだ」と思いました。

で、『家族コント』を読み進めていた、まさにその頃。たまたまテレビをつけていたら、う大さん一家が出てきました。
「え?」となりました。

9月18日の『マツコ&有吉 かりそめ天国』。「U字工事プレゼンツ!う大ファミリーが行く!鬼怒川旅ベストプラン」という企画でした。実際、う大さん一家は毎年鬼怒川を訪れているそうなのですが、う大さんがペーパードライバーなので、これまでは徒歩圏内しか行けていなかった。それをハナコ岡部さんの運転で巡る、という企画です。

『家族コント』が出た頃より、当然、子どもたちは大きくなっています。でも、本に出てきた人たちが、そのままテレビの中にいる。
これがめちゃくちゃ面白かった。特に次男。ワードチョイスが、妙にう大さんっぽい。
「あ、遺伝してる」と思いました。そして娘さんは、父親のことを「う大」と呼ぶ。これも本のまま。

ちなみに番組では、有吉さんからも、幸せそうな家族の姿を見て「この幸せがあって何であの芸風……?」と突っ込まれていました。

ということで今月は、いつもとちょっと違う「オススメエンタメ」でした。今月も自分の拙い文章を最後まで読んでくださってありがとうございました。

※このページの掲載内容は、更新当時の情報です。
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