編集者との作品づくりに失敗。ネットが最後の希望だった。SNSで評判を呼ぶ漫画家「藤岡拓太郎」

藤岡拓太郎というクリエイターの名前を知らなくても、あなたはすでに彼の作品を見かけたことがあるかもしれない。笑いの中にある、そこはかとない日常への慈しみや哀れみ。漫才コンビのお笑いネタのようであり、まるで俳句や一編の詩のようでもあるフリーフォームな漫画は、Twitter上でたびたび拡散され、評判を呼んできた。そして2017年9月、初の著作『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』(ナナロク社)が出版された。そんな今注目すべきクリエイターの1人である藤岡拓太郎の作品とインタビューをここにご紹介したい。
クリエイタープロフィール:
藤岡拓太郎/ギャグ漫画家。1989年5月31日、大阪生まれ。大阪在住。2009年、『親父のテーマ』で赤塚賞佳作受賞。2010年、「ジャンプNEXT!2010SUMMER」に『五郎丸ジーンのミッドナイト・ジーン』掲載。2014年からwebでの活動をスタート。2017年9月、1ページ漫画をまとめた初の単行本『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』(ナナロク社)を刊行。
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[Twitter] @f_takutaro
ギャグ漫画家ではなく、「文章だけで笑いを作る」作家を目指していた

――藤岡さんが作品を作りはじめたきっかけはなんだったのでしょうか?
漫画は小学生の頃から描いていたのですが、高校生の頃から「文章だけで笑いを作る」作家を目指すようになって、小説や妄想エッセイのようなものを書き続けていました。でも「笑える小説」「笑える文章」を対象としたコンテストや登竜門的なものもなく、これはなかなか世に出るのは難しいぞと判断した20歳(2009年)の頃に、「いったん漫画で有名になってから文章の笑いをやろう」と思って、ギャグ漫画のコンテストに作品の応募を始めました。本格的にギャグ漫画を描き始めたのはその時です。最初に送ったギャグ短編が運よく赤塚賞(少年ジャンプのギャグ漫画新人賞)の佳作に選ばれて、そこからギャグ漫画のことばかり考えるうちに、今日に至るまで「文章だけで笑いを作る」という夢はどこかへ吹っ飛んでしまっています。そのうち、こんどは漫画のほうを置き去りにして、再び文章だけを書き続けるようになるかもしれません。
――藤岡さんの日記などでは映画や漫画に関する言及が多く、かなりのインプット量がある印象です。もともとそうした作品に触れるのが好きだったのでしょうか?それとも漫画を描きはじめてからでしょうか?
映画とお笑いは学生時代から好きで、たくさん観ていました。ギャグ漫画を描きはじめてからは、何か盗める技術はないかと、そういう目でも作品や芸を見るようになったと思います。

――藤岡さんが通っていた大阪芸術大学はアニメや漫画界に名だたるクリエイターを輩出しています。学生時代にはそうした歴史や文化を感じられることはありましたか?
入学したくせに「大学から学ぶものは何もない」と変なトガりかたをして、大して授業も出ないままに家でも観れるような映画のDVDを大学の図書館で観るばかりで、2回生の時に漫画の賞をもらったらさっさと中退してしまいました。何を考えていたのでしょうか?
――藤岡さんの作品からは東京やその他の地域の作家から出てこない独特の空気を感じますが、創作活動を通し、大阪出身ならではのローカル性をご自身で感じられますか?
自分の漫画の空気が大阪出身ということと関係があるのかどうか、分かりません。関西弁は多く出てくるけど標準語で喋っている作品も多いし、舞台は全国どこにでもあるような風景だし・・・。自分の中のローカル性というのはあまり感じたことがないです。
ネット大喜利で笑いの腕を磨くも、漫画の基礎は身につかなかった。葛藤の日々を超えて

――藤岡さんはネット上の活動で広く知られるようになった作家だと思います。著書『夏がとまらない』では漫画を描かず「ネット大喜利」に費やした日々についての文章も掲載されていましたが、ご自身の作品や活動にインターネットが与えた影響を教えていただけますか?
ギャグ漫画を描いている人間がレベルアップしていくには、芸人さんと同じで、ウケることとスベることを繰り返していくこと(つまりどれだけ客前に立つか)だと思うのですが、僕はなかなかその機会に恵まれませんでした。赤塚賞をもらったはいいものの、その受賞作が載ることもなく、新作を描いても、もらえる反応は担当編集者からの意見だけ。目指す雑誌を変えたりもしたけれども、2009年から2013年までの5年間で漫画を客前で披露できたのは、2010年に15ページの短編が掲載された一回きり。そんな中で、きちんとウケて、きちんとスベれていると実感できていたのは、インターネット大喜利の世界にいる時だけでした。おもしろい人たちと夜な夜な大喜利を繰り返していたことが、自分の中の笑いの基礎を作ってくれたと思います。(とはいえ、いくら大喜利を繰り返しても「漫画の基礎」は出来上がりません。そのためにはペンを握らないといけないのですが、描いたところでお客さんがいないので、やっぱり大喜利に向かってしまう。こんな日々がいつまで続くのだろう?と思っていました)

――活動方法としてのインターネット、その魅力や、逆にデメリットを感じられることはありますか?
うまくいけば雑誌の読者数をも超えるぐらいの人々に作品を届けることができるインターネット、SNSは、編集者と一緒に作品を作っていくというやり方が合わなかった自分にとって、最後の希望でした。とにかく漫画を読んでもらいたいし、何よりそれをしないと自分の漫画が面白くなっていかないという思いが爆発して雑誌の世界に見切りをつけ、2014年にやっとホームページとTwitterを開設し、そこで漫画の発表を始めました。
読者からのコメントに加えて「リツイート」と「お気に入り」の機能があるTwitterは、ギャグ漫画家にとってこれまでにはなかった、うってつけのメディアだと思いました。芸人にとっての寄席とまでは言わないけど、かなりダイレクトに読者の反応が分かる舞台だなと感じています。(と言いながら、リツイートとお気に入りは自分はもう要らないかなと思うことも最近は時々あるのですが)
ダイレクトに反応が返ってくるということは、もちろん心ない言葉も飛んでくるわけで、そういうものをへっちゃらでかわせるようになるまでが、なかなか大変だと思います。ギャグ漫画を描いてる人間なんてたぶん全員ガラスのハートで、特に描き始めの頃なんか友達も恋人も仲間もいなくて、そんな時に刺さった悪口の矢は的を得ていようが得ていまいが、100の称賛をもらったとしてもなかなか抜けない。一人で作品の発表を始めるようになって、僕はそこのところが一番しんどかったかもしれません。
評価される叙情性。だが、やりたいことは「人を笑わせたい」

――笑いをメインとしながらも、それだけでない悲哀や可愛らしさが藤岡さんの魅力だと思います。ご本人が作家活動を通してとして"描き出したいもの"のイメージは抱かれているのでしょうか?
やりたいことはずっと「人を笑わせたい」ということだけで、悲哀や可愛らしさは、笑わせようとして描いた作品に自然とくっついてきているもの、という感じです。

――藤岡さんの作品には、読者に近いごく一般的な存在として子どもが配され、そこにちょっとした不条理やネタをもたらす人物としておじさんやおばさんが描かれることが多い印象です。おじさん、そしておばさんとは、藤岡さんにとってどのようなモチーフなのでしょうか?
笑いを作りはじめた10代後半の頃、自分の若さが嫌でした。10代~20代の芸人さんなら、より、そうなのだと思うのですが、若さゆえの自分の顔と佇まいのこの、厚みと味わいのなさ、説得力のなさ。コントで校長を演じても校長に見えなくて、ボケが全部上滑りする。自分は顔を出して演技することはないですが、自分の絵柄が「若い」と感じて、早く年をとりたいなあと思っていました。おじさんに憧れながらネタを考えていたから、自然とおじさんが多くなっていったのかもしれません。

――また、著書のタイトル、表紙、最後に掲載されている作品など"夏"も重要なモチーフである印象です。夏とは藤岡さんにとってどのような季節でしょうか?
1ページ漫画集『夏がとまらない』は実はそんなに夏の作品は入っていないのですが、確かに一番好きな季節で、夏の漫画も多く描いています。最近の夏はいくらなんでも暑すぎるので、いい加減にしろ、怖いんですけどと思っているのですが、それでも夏に感じるはかなさ、セミや花火もしかり、死に一番近い季節のようで、それがなんか自分の笑いとつながりやすい気がして、そこに惹かれている感じがあります。

クスッと笑いながら読み進めていると、時折ハッとさせられる表現やセリフ、表情が飛び出す藤岡拓太郎の漫画。Web上でその作品は十分に楽しめるが、紙の本としてこだわりを持って作られた単行本『夏がとまらない』ではまた一味違う表情を楽しめる。

企画スタートから出版までを作家自身が綴ったメイキング「夏がとまらない」日記と合わせて、ぜひ手にとってみてほしい。

そして現在8月26日(日)までの期間限定にて、東京・高円寺のアートギャラリー「CLOUDS ART+COFFEE(クラウズ アート プラス コーヒー)」で1ページ漫画展が開催中。約70枚の手作り1ページ漫画パネルを展示(原画も15作ほど)。『夏がとまらない』のサイン本、ポストカード、大丈夫マンポスター、フリーペーパー、来場者限定カードも置かれているとのことで、ぜひチェックしてみてはいかがだろうか。
「コーヒー吹き出さないよう気をつけ展」
2018年8月14日(火) ~ 8月26日(日) ※8/20(月)はお休み
CLOUDS ART+COFFEE(クラウズ アート プラス コーヒー)
東京都杉並区高円寺北2-25-4
営業時間:10時~18時
定休日:月曜日