音楽のプロに習う「新しい音楽の見つけ方」feat. ビートインク白川雅士さん

「◯◯をしてみたいけど、どうすればいいの?コツはあるの?」そんな疑問は、その道のプロに直接習ってみましょう。今回は『新しい音楽の見つけ方』を教えてもらいます。
「新しい音楽、一体どれを聴けばいいの!?」
近頃「魅力的な新しい音楽を聴いてみたいけど、どうやって探していいのか分からない」という声をよく聞きます。CDを聴くこと=音楽を聴くだった時代が終わり、ダウンロードやYouTube、定額制の聴き放題サービス(サブスクリプション)など、音楽に触れるための選択肢が増えました。しかし、その分「どうやって新しい音楽を見つければいいのか分からない」という混乱も少なくないようです。
困ったときはその道のプロに聞いてみよう!ということで、音楽のプロに『新しい音楽の見つけ方』を教えてもらうことに。今回の先生は日本を代表するインディペンデント系レーベル「ビートインク」の白川雅士さん。青山で十数年クラブを運営後、ビートインクの宣伝と「何でも係」を担当することになったという人物です。レコードレーベルのスタッフには、どんな作品をリリースし、どのようにプロモーションするかを判断するために、音楽知識のほか新しい音楽を聴く耳が求められます。その第一人者として活躍する白川さんのポリシーは「昔の音楽は聴かないようにしている」というものだそう。
「昔の音楽は聴かない」その理由は?
──白川さんは古い音楽を聴かないようにしているとのことですが、その理由とは?
僕は50歳過ぎていますが、これまで小学校の高学年からずっと音楽を聴き続けてきた積み重ねがあるんですよね。年を取るとどうしても保守的になってしまうもので、自分が若かった頃の音楽などを聴いて「これが一番俺にとって気持ちいい音楽だ」と思ってしまいがちなんです。そしてそこで止まって戻って来られなくなっちゃうんですよ。
──青春時代に聴いていた音楽ばかりを聴くようになってしまう、と。
もちろんリスナーとしてはそれでもいいんですけど、僕の場合は新しい音楽を広めていく仕事をしているので、それではダメなんです。今のトレンドやそこに対する感覚は常に研いで行かないといけないので、新しいものを聴くように積極的に心がけているんです。
──プロとしての修行のような部分が大きいわけですね。
でも、昔のものなんていつでも聴けるんですよ。全部アーカイブされるんだから。最新の音楽が"最新"であるのは一瞬だけ。だから常に耳は研いで行かないとなと思ってますね。
──なるほど。
そしてレーベルの人間としては、新しい音楽を聴くだけじゃなく、気持ちも若くないといけないんです。例えば、今の音楽のトレンドは90年代なんですけど、その90年代ってハウスやヒップホップなどクラブミュージックの基礎ができた時代なんですよね。僕はその時代をリアルタイムで通っているから、今の90年代っぽい音楽を聴いて「オリジナルのアレは超えてないよね」となりがちなんです。でも、いま20歳の子たちは90年代っぽい今の音楽を聴いて「これヤベー!かっこいい!」って思ってるわけです。そこは逆に「彼らのセンスを信じましょう」と、僕は一歩引くようにしています。そういうところは常に気をつけていますね。
──音楽ではたびたび新しいトレンドが出てくると「これは◯◯の焼き直しじゃん」っていう意見が出てきますよね。
そうそう。でもそれは否定しちゃいけないなって思いますね。少なくともそれに夢中になってる若い人たちにとってはすごく新しいものなんだから。それにうちのスタッフを見ても、いま25歳くらいの若いスタッフにとっては全ての音楽が並列なんですよね。彼らにとってビートルズもカルヴィン・ハリス(編注:2018年現在世界一のギャラを誇るDJ/プロデューサー)も「良いものは良い」っていう同列の存在なんです。そこにはさらに「アニソンも良いよね」みたいな、これまでは違う分野だと考えられてきた音楽も入ってくる。そうした"フラット"な状態から、それぞれの音への感覚を自分の中で育てていくのが重要ではないかと思います。「俺はこういうのが好きだな」っていうのを、音楽経験として蓄積して行って欲しいですね。今はそれがどんどんできる時代ですから。
新しい音楽を探すには"人気のプレイリスト"に注目するのがおすすめ
──白川さんは音楽に関する情報をどのように入手していますか?
レーベル業務の中で、ライセンスを結んでいる海外のレーベルから「今度これを出すから聴いてみてくれ」という連絡が入ってくるほか、Spotifyなどの人気プレイリストを一通りチェックすることが多いですね。それを次々と聴くほか、パッと見て字面で判断することもあります。やたら再生回数が多いとか、曲名やアーティスト名で「これは何だろう?」とか「なんでこれが入ってるんだろう?」と気付くことも多いですね。さすがに24時間という有限な時間を使うためにBandcamp(編注:アーティスト本人が直接リスナーに音楽作品を販売できるサービス。レーベル契約のない新人アーティストがここから発掘されることも少なくない)までは追えていないんですけど。
──となると一曲を全部通して聴くというよりは、スキップしながら次々と聴いていく感じでしょうか?
そうですね。そこは申し訳ない気持ちがありますが、どうしても時間が足りないのでそうなっちゃいますね。
──配信でのリリースが中心となってからは、話題作すべてを追いかけることすら不可能な時代になりましたよね。そうした膨大な数の新作が発表されるなか、新しい音楽を探すのにオススメな聴き方はありますか?
みなさん使っているかどうか分からないのですが、Spotifyはそうした音楽の聴き方には悪くないと思います。特に今月のニューリリースを集めたようなプレイリストを聴いて、ピンときた音楽を深掘りしていくのが良いのではないでしょうか。YouTubeでもAmazonでもおすすめの作品が出てきますが、ああいうレコメンドを使うのもありだと思いますよ。音楽へのタッチのしやすさは昔よりも全然簡単になっているはずで、後はどのように「こういう音楽を聴きたい」というのを見つけていくかではないでしょうか。
まずはタップ/クリックして聴いてみよう!
──自分も「最近良い音楽ない?」という質問をよく耳にしますが、良い音楽はたくさんあるんですよね。とりあえずスマホでタップでも、PCでクリックでもすれば聴ける時代なので、まずはどれかを聴いてみることから始まるのかなと思うのですが。
そうなんですよ。どれも良いんですよ。「どうしたらいい?」って聞かれても、まずはどれかを聴くしかない。昔と違って店に行く必要はないし、買わなくてもいいんだから、まずはタッチしてみてほしいですね。ここ数年だとアメリカのラップが強いので、そうしたトレンドから入ってるのも良いと思います。
──最近は海外の有名アーティストが山下達郎や竹内まりやに言及したり、「YOUは何しに日本へ?」でも海外の音楽ファンが大貫妙子のレコードを探しに日本に来たりと、明らかにインターネットやYouTubeのおすすめ欄が多様な音楽へのアクセスを簡単にしているのを感じます。
YouTubeのおすすめ欄の影響力は間違いなくありますね。70年代や80年代の日本の音楽は潤沢な予算があったので贅沢な録音の作品も多く、海外の人が直感的に「これいいね」と思ったんだと思います。山下達郎や大貫妙子など、逆に海外のDJやマニアのほうが詳しかったりしますからね。
──まさにその通りですね。
当時の日本の音楽は国内市場だけで十分だったので、海外展開に積極的ではなかったのですが、時を経て発見されましたね。僕らが呼んで来日したミュージシャンに「昨日どこ行ったの?」と聞くと、ディスクユニオンやいろんなレコード屋さんに行っていて、日本に住んでいる僕らより詳しかったりするんですよ。そうしてなんでもフラットになっている時代だからこそ、やっぱりとりあえず音を聴いてみて欲しいですね。
白川さんおすすめの〈ビートインク〉リリース作品

Tom Misch『Geography』
トム・ミッシュのアルバムは「万人みんな好きだろう」と思う作品です。20年前にジャミロクワイが出てきたときの感覚、分かりやすく言えばSuchmosに近いものがあると思います。まだ22歳なのにこのセンスを持っているのには驚かされますね。

Kamashi Wasington『Heaven and Earth』
カマシ・ワシントンは今とても売れているジャズなのですが、懐古主義に陥らず"今の耳"で聴ける説得力あるジャズとなっています。データ的にも20代後半~40代までと比較的若い層のリスナーがしっかりと聴いてくれていて、フジロック出演じもロックファンが「これヤベー!」と騒いでいましたね。

Oneohtrix Point Never『Age Of』
自分の耳の冒険心を試すならOPNでしょう。「何ですかコレ?」と思う部分もあると思いますが、それを紐解いていくと納得行くという、パズルを解くような楽しさがある音楽です。作品ごとに作風も違うのですが、それはOPNが自分を常に更新しているという証拠です。作品のアップデート毎にお客さんも「がんばるぞ!」と思わないと着いていけない刺激的な音楽です。