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テレ東プラス連続ウェブ小説:「30代の女子会。恋も仕事も家族も大事ー三者三様、女の生き様」

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テレ東プラス

2018.10.4

第五話 いくつになっても女子は女子~この女子会は不滅です~


美和子は、クッキングシートにとろけるチーズを均等に広げると、ブラックペッパーをかけレンジに入れる。これで2分ほど温めれば、おつまみにぴったりなパリパリチーズができ上がる。手軽にできる割に子供が喜ぶおやつとしても優秀だ。
「あ、これ僕が好きなやつ!」
ジュースを取りにキッチンへやってきた翔太が、レンジの中を覗いて目を輝かせる。
「翔太の分もあるよ。でも先に、沙紀ちゃんと梨花子ちゃんに出してあげようね」
「OK!」と言うと翔太は、冷蔵庫にあるオレンジジュースを注いで、自分の部屋へ戻っていこうとする。
「翔太もこっちにいたらいいじゃない」
「うん。でもゲームやりたいし。それに今日は『女子会』でしょ? 男子の僕がいないほうがいいよ」
また、大人びたことを言うのね......美和子はそう思って肩をすくめた。


沙紀と梨花子はリビングで、美和子が作った料理を堪能しながら会話を弾ませている。
「まさか沙紀から、婚活したいなんて言われると思わなかった」
「まあ、仕事も一段落したし。そういうことを考えてもいいんじゃないかなってね」
「うん。いいと思う!」
でき上がったパリパリチーズを持ってやってきた美和子も、梨花子に同意する。
「いいね、婚活」
「美和子までそんな嬉しそうにして。なんか、親戚のおばさんたちに囲まれてるみたいな気分......」
「誰がおばさんよ」
梨花子が、ツッコミをするように沙紀の肩を手の甲で軽く叩く。


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沙紀から連絡を受けた美和子は、ちょうど翌週の水曜から旦那が出張に出かけるので、ウチでやらないかと提案した。それならあまり時間を気にする必要もないので、美和子にとって都合がいい。


梨花子は唐突に、自分のバッグから花柄のクリアファイルを出すと、挟んである紙を沙紀へと差し出す。
「これをいつでも見えるところに貼っておくといいよ」
そこには、梨花子の達筆な文字で何かが書かれている。


【婚活必勝の『3上手』の掟】


一.癒し上手
二.聞き上手
三.喜び上手


これで幸せを掴むべし......


「......何これ」
訝しげな顔で紙を見つめていた沙紀が、その表情を崩さず梨花子に視線を移す。
「その3か条を守ればイケる。あと、常に笑顔も忘れちゃダメよ」
梨花子は満足げに言うと、お猪口に日本酒を注いだ。
沙紀は紙をそっとテーブルの上に置く。
「梨花子の気持ちは嬉しいけど、これだと男性が求める女性像に自分を合わせにいくっていうか、なんか媚びてるっていうか」
「うん。それでよくない? 沙紀のサバサバ感じゃ、なかなか相手見つからないよ?」
的を得た言葉にカチンときた沙紀は、梨花子のほうを向いて居直る。
「今の私じゃダメってこと?」
「ん~、沙紀は『デキる女感』が出過ぎだから、相手が引いちゃうかなあって」
「はあ?」


(沙紀、完全にキレてるし......。梨花子も言い方考えてよ......)
例のごとく、好戦的な沙紀と梨花子に挟まれた美和子は、いつでも二人を止められるように心の中で準備をした。


沙紀はワインを一口飲んでグラスを置くと、梨花子に向かってちょっと意地悪な顔をして微笑んだ。
「人の心配してる場合かな? 梨花子こそいつまでそうやって遊んでるつもり?」
「私は、遊んでるんじゃなくて選んでるの」
梨花子はパリパリチーズを小さく割り口に入れると、「あ、美味しい」と言って、小さく手をばたつかせる。
「で、そうこうしているうちに、『若見え』のアラサー独女になっちゃったってわけね」

「はあ? アラサー独女って、それはお互い様でしょ?」
「梨花子は結局、延々とチヤホヤされたいだけでしょ。そのためなら相手が『友達の好きな人』でも構わず気のあるフリしちゃうんだから」


まさか沙紀がその話題を出してくるとは思わず、その場が一瞬、凍った。
「今さらその話!?」
「私が好きだった岩瀬君も、梨花子の『3上手』の掟ってやつで横取りしたじゃない」
「だからそれは誤解だって言ったよね?」
「さあどうだか!」
沙紀は勢い任せにワインを飲み干すと、荒々しく息を吐いた。


二十歳の時に起きた『岩瀬君事件』は、当時の三人にとっては友情を揺るがす大問題だった。しかし、沙紀が岩瀬君を好きだったことを梨花子は本当に知らず、知ってすぐに岩瀬君との関係を切ったことで、なんとか友人関係を修復することができた。
ごくたまにネタとして話題にのぼることはあったが、まさか沙紀がいまだに気にしていたとは......。


美和子は、どうやってこの場を収めるべきかを考えるが妙案は浮かばず、成り行きをただ見守っていた。
「沙紀......もしかしてそのことずっと引きずってたの?」
意外にも梨花子は、沙紀の様子をうかがっている。
「別に。ただちょっと、思い出したから言ってみただけよ」
「......沙紀。あの時は本当にごめんなさい」
梨花子は深々と頭を下げた。その態度に、今度は沙紀が軽く驚く。
「謝るとか......なんか調子狂うじゃない」
張り詰めていた空気が、一瞬にして緩んだ。
美和子はホッと胸をなで下ろし、思い出したように二人に話しかけてみる。
「そうだ。キッシュ作ったんだ。食べる?」
「キッシュ! いいね!」と梨花子が即答すると、沙紀も「いただこうかな」と続けた。
席を立った美和子を、梨花子が目で追いかける。
「結局さ、いつでも一番平和で幸せなのって美和子だよねえ」
美和子はぎくりとして身構える。どうやらまたターゲットが変わったらしい。
「そうかもね。キッシュを手作りする生活とか、羨ましいわ」
沙紀も素早く、梨花子に同意する。二人がタッグを組んで、またしても美和子がとばっちりを食う格好だ。
「美和子って私たちと違ってバランスよく生きてるよね。恋愛に振り回されずしっかり旦那さんを掴まえたわけだし」
「私も本当は、仕事と恋愛のバランスをうまく取れたらいいけど、そう簡単にはいかないものよね。だから早々に主婦を選んだ美和子の潔さを尊敬する」


美和子の頭の中で、何かがぱちんと弾ける音がした。耐えきれずに両手でテーブルをバン!と叩いて立ち上がる。
「羨ましい羨ましいってね、だったらグタグタ言ってないでとっとと結婚しなさいよ!」

予想もしなかった美和子の大声に、沙紀と梨花子が固まってしまう。


「子育てがどんなに大変か。毎日同じことの繰り返しがどんなに退屈か。ママ友同士のくだらないマウントに付き合わされるのがどんなにストレスかわかる? 確かにこの生活を選んだのは私自身かもしれないよ? けどね、私だって恋愛で振り回されたり、バリバリ仕事しとけばよかったなって思うことだってあるの! 専業主婦が楽で素敵な毎日だと思わないで!」


怒号が飛んだ後、ほんの少しの静寂を破ったのは、ひょこっと顔を出した翔太だった。
「大声出してどうしたの?」
翔太の無邪気な声で美和子はハッと我に返り、今の話を聞かれたのではないかと焦り出す。沙紀と梨花子もつられてアワアワしはじめた。
「テレビ見るんだから静かにしてよね」
翔太は三人があっけにとられる中、リビングのソファの中央に陣取って、テレビの電源を入れる。ちょうど『THE★カラオケバトル』の一人目が歌いはじめるところのようだ。「中1男子だって。すげー」。翔太はすっかりテレビに夢中でテンションが上がってしまったようだ。
困惑する三人の耳に、聴き覚えのある曲が流れ込む。
「あ、『青春アミーゴ』だ!」
美和子たちがカラオケで必ず歌うこの曲のタイトルを、小さい頃からその場にいた翔太はしっかり覚えていた。
画面の中の男の子は、デュオで歌う曲を器用に一人で歌いこなしている。
『俺達はいつでも2人で1つだった』を『私達はいつでも3人で1つだった』に変えて歌うのが、学生時代の三人のお決まりだった。


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「美和子。さっきはごめんね」
「私たち、美和子の優しさに甘え過ぎたわ」
沙紀と梨花子が申し訳なさそうにしている。
美和子が「全然。私こそ怒鳴ったりしてごめん」と言ったのをきっかけに、誰からともなく笑い出した。
「ハタチくらいの頃は、30歳ってすっかり大人だと思ってたけど、実際はあの頃と何にも変わってないよね。まだまだこうやって騒ぎたいし、踊りたいし」
美和子がそう言うと、二人は強くうなずく。
「いくつになっても、女子は女子だよ」
梨花子の言葉に、美和子と沙紀は笑いながらうなずいた。
テレビでは、高得点を獲得した男の子が嬉しさのあまり飛び跳ねている。それに合わせるように、翔太を囲みながら『女子三人』もキャーキャーと飛び跳ねる。
三人はそれぞれ、心の中で思う。きっと自分以外の二人も同じことを思っている。
「この女子会はきっと、10年後、20年後もずっと続くよね」


(完)


作/穂科エミ
イラスト/大野まみ


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