一期一会の女性たちの裸を撮る写真家「クロダミサト」

性や女性のあり方、人の感情をテーマに制作を続けているクロダミサト。これまで特定の人物を撮ることが多かった彼女が2017年から取り組んでいるのが、SNSで募集をかけ、そこにコンタクトしてきた女性たちを起用したヌード撮影だ。2018年10月5日(金)から神保町画廊で開催されている「裸婦明媚(らふめいび)」では、今年撮影した19名の女性のヌードが展示されている。このシリーズを通じて、彼女は何を表現しようとしているのだろうか。

クリエイタープロフィール:
クロダミサト/写真家
1986年三重県生まれ。2009年に「キヤノン写真新世紀」グランプリを受賞する。2010年京都造形芸術大学情報デザイン学科を卒業し、2012年東京工芸大学メディアアート専攻を修了。代表作に「沙和子」「沙和子 無償の愛」「HER」「美しく嫉妬する」などがある。
[Webサイト]http://kurodamisato.com/
[Twitter] @kurodamisato
19名の女性のヌードをインスタ的に撮影して見えてくるもの
クロダミサトはどこまでも赤裸々だ。2009年、セックスをした男性との私的な関係性を写し出した「He is ···.」でキヤノン写真新世紀グランプリを受賞。代表作の「沙和子」では、友人に男性向け成人誌のヌードモデルのようなポーズを取らせた。続く「HER」や「美しく嫉妬する」などにも共通するのが、彼女と近しい間柄にある人物が被写体になっていることだった。つまり、彼女に裸を見せることに抵抗がない関係性にあるからこそ成立する"何か"がそこにあったわけだ。

(画像提供/クロダミサト)
しかし、2017年から少しモードが変わる。神保町画廊で開催された「クロダミサト ヌード写真展」で、これまで関係値のなかった女性の裸を初めて撮影する。そして、2018年になってもその撮影は延長された。今回の展示は、モードが変化して以降に撮り溜めたものを「裸婦明媚」と名付けたものとなる。
見ず知らずの女性の裸を撮るという行為。その先で彼女自身が見つけたものとは。
――今回の展示では、19名の写真がバラバラに配置されているので、観ているうちにパズルを解いていくような不思議な感覚になりました。どうしてこのような方法での撮影をはじめたのでしょうか?
もともとInstagramが面白いなと思っていたんですね。みんな写真を次々に上げていくけれど、見返すことってあんまりないじゃないですか。"インスタ映え"という言葉も一時性が強い印象があるし。そうしたInstagramの持つ写真の文化性と、女性の"若さ"という価値が消費されていくイメージが似ているなと思って。それでInstagramの手法で女性の写真を並べたら面白いんじゃないかというアイデアが浮かびました。だから、すべてiPhoneで撮影していて、加工もInstagramのフィルタを使っているんです。

――あえてiPhoneで撮影し、Instagramで加工...! これまで手がけた作品と大きく異なる手法ですが、これまでの撮影と何か違いはありましたか?
あんまりなかったですね。私自身、そもそも既成のものを使っている気持ちが薄いのかもしれないです。それを言ったら、カメラというもの自体が既成のものだから。
――フィルタは同一のもので統一するのではなく、人によってトーンを変えていますよね。フィルタが統一されていないことでグラデーションになっているのも面白いと思いました。
そうですね。肌の色とか雰囲気で合う合わないがあるので、それぞれにマッチしたものを使うようにしました。

――個人的に男性よりも女性の方が身体へのコンプレックスが強い気がしているのですが、ちょっとした手の位置とかポーズでそういうものが垣間見れるような気がしました。
もちろん撮影したうちの何人かからは、局部を撮らないでほしいとか、顔と身体を一緒に写さないでといった要望がありました。でも、ほとんどの人は「自分の身体だから」と割り切って生きている気がしました。

私自身が彼女たちの美しい姿を残したいという気持ちが強かったので、もし作品の中にコンプレックス性を強く感じたのであれば、その意志が関係しているのかもしれません。
――ちなみにクロダさん自身はコンプレックスはありますか?
実は私、コンプレックスが全然なくて。だからと言って自信満々かと聞かれると、それはまた別の話なんですけれど。少し前にあるメディアの企画でコンプレックスについて質問があったんですけれど、考えても考えても何も浮かばなくて。
――そうなんですね(笑)。
私のことよりも気になるのが子どもが産まれてから自分のコンプレックスを子供に押し付ける人で。なんだか目についてしまうんですよ。実は私の母がそうでした。母は21歳のときに兄を出産して、それ以降はずっと家庭のために生きてきたんです。だから、私にしたいことをしてほしいという気持ちが強くて。そういうことってけっこう多いと思うんです。「自分が実現できなかった夢を叶えてほしい」、みたいな。だから私は「できるかぎりそういうことはしないようにしたいな」と思っています。
――では、子どもが産まれたことでクロダさん自身が変わったということは?
それもあんまりなくて。それこそ、子どもが産まれたら価値観が変わるっていろんな人から言われていたので、楽しみにしていたんですけれど。結局、私は私だなっていう感じです。娘もすごくドライで。私がたまに「お母さんのお腹にいたときの記憶ある?」って聞いたりすると「知らない」とか「覚えてない」って。でも、その通りだなって。ただ、いろいろ考えるきっかけにはなりました。前まではコンプレックスとは何かを考えることで止まっていたんですけれど、子どもが産まれたことで、自分の子どもはどういったことをコンプレックスに感じるか、そのとき私は親としてどういった行動を取るべきなのかを考えるようになりました。今は「そんなことで悩んでいるの?」と一蹴したりしないようにしたいと思っています。また、待機児童のことを考えたり、社会との繋がりを意識するようにもなりましたね。
むしろ私が撮らされている感覚になった。女性たちがヌードを撮られたがった背景
――これまでクロダさんは、個人的な繋がりのある人のヌードしか撮っていなかったと思います。こうして一期一会で出会った人の裸を撮る体験はどうだったのでしょうか?
去年も今年も、この神保町画廊を借りて撮影をしているんですけれど、着替えとか誓約書へのサインとかを含めて一人あたり1時間抑えていたんです。でも、実際の撮影自体は5分くらいで終わるんです。だから、残りの時間を利用して「何で撮影に協力してくれたんですか?」といった素朴な疑問を投げかけてみたんです。そしたら、けっこう意外な答えが返ってくることが多かった。私としては、「若い頃の身体を撮っておきたい」といった記録的な意味合いが強いかなと予測していたのですが。

――でも、違ったと?
はい。彼女たちのほとんどは、自分の体にすごく自信があるわけではないんだけれど、写真の力を信じているから脱げるという子が多くて。何かしら表現することに関わりたい。それで自分にできることを探したら、私のところに辿り着いたという感じで。そうやって裸になることで何かを表現しようと思う力強さに感動したし、それによって私もいつの間にか彼女たちに写真を撮らされているような感覚になりました。
――このシリーズは続けていく予定なんですよね?
そうですね。今は100人を目指して撮影しています。今は大体30人くらい撮影しているので、あと70人。神保町画廊の協力で撮影できているので、嫌がられないかぎりは続けていきたいですね(笑)。でも、最近はInstagramの規制がけっこう厳しくて。私としては写真を載せなくてもいいんですけれど、フィルタを使うには投稿しないと使えないから、どうしようか考えている最中です。

見ず知らずの女性を撮影するなかで、あらためて女性の裸が放つ強さを感じ取るようになったと強い眼差しを向けるクロダミサト。この撮影シリーズ自体、まだ未完成なまま進んでいる。これから2年、3年と月日を経るなかで、もしかしたら表現方法は大きく変わるかもしれない。だが、それが彼女自身の自然なあり方なのだろう。今、彼女は変化を楽しみたいのだ。
クロダミサト個展「裸婦明媚」は、神保町画廊で10月21日まで開催中。普通の女性たちが、生身の身体を通じて表現したかったものは何だったのか。ぜひその目で確かめてみてほしい。詳細は神保町画廊から。
神保町画廊
住所:東京都千代田区神田神保町1-41-7安野ビル1階
会期:10月5日(金)~21日(日)
開廊時間:13時~19時
休廊日:月曜、火曜