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世界のエンタメ最前線:『アトランタ:略奪の季節』

エンタメ

テレ東プラス

2018.10.25

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ゲーム、アニメ、漫画、J-POP、アイドルなど、独自のエンターテインメントを生んでいる日本。その一方で世界のエンターテインメント情報が不足していると見る向きも少なくない。ここでは、そうした世界のエンターテインメントの最新動向を、映画・音楽ジャーナリストとして活躍する宇野維正氏をナビゲーターに迎えお届けしたい。今回紹介するのはドラマ『アトランタ:略奪の季節』。本作から見えてくる世界のエンタメ最前線とは?


宇野維正
1970年生まれ。東京都出身。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集部を経て、映画・音楽ジャーナリストとして活動。著書に「1998年の宇多田ヒカル」(新潮社)、「くるりのこと」(新潮社)、「小沢健二の帰還」(岩波書店)がある。



ポイント
1.過去のどんなコメディにも似ていない、オリジナルかつ高品質な作品
2.世界が注目する才能、ドナルド・グローバーが制作統括・主演・脚本・監督
3.本作ほか話題の映像作品を手がける日本人作家ヒロ・ムライの存在


──本作はどのようなドラマなのでしょうか?(本作に注目すべき理由は?)


宇野:ここ数年、ドラマ、映画、音楽と全方位的にその才気を爆発させているアーティスト、ドナルド・グローバーがショウランナー(制作統括)と主演と脚本と監督を務めているアメリカのコメディドラマです。タイトルの『アトランタ』はジョージア州アトランタのこと。トラップと呼ばれる新しいラップ・ミュージックが台頭して以降、アトランタは世界で最も注目されている音楽都市となっています。本作で描かれているのも音楽業界の話が中心。主人公アーンは、ラッパーとしてブレイクしかけている従兄弟アル(ステージネームはペーパー・ボーイ。ペーパーはドル札を意味しています)のマネージャーです。それだけ聞くと、華やかなショービジネスの世界でのラッパーとその取り巻きのドタバタコメディのようなものを想像するかもしれませんが、基本的には彼らの気怠い日常描写が続きます。ラップのミュージックビデオのようなシャンペンや水着の美女や高級車はまったく出てきません。主人公は常にお金に困っているし、別れた恋人(二人の間には娘もいます)との関係に悩んでいるし、運にも恵まれていない。笑いの質としてはシュールコメディの部類に入ると思いますが、その描き方が過去のどんなコメディにも似ていない、オリジナリティとクリエイティビティの結晶のような作品です。


──主演のドナルド・グローバーとはどのような人物なのでしょうか?


宇野:『スパイダーマン ホームカミング』や『ハン・ソロ スターウォーズ・ストーリー』といった大作にも出演しているので日本では映画俳優として認識している人もいるでしょうし、音楽ファンならばチャイルディッシュ・ガンビーノという別名で音楽活動をしていることも知っているでしょう。今年彼がリリースした「This Is America」はビルボードのヒットチャートでナンバーワンになって、ここ日本でもそのメッセージ性の強い過激なミュージックビデオが大きな話題となりました。しかし、もともと彼が最初に世に出たのはコメディ作家、コメディ俳優として。つまり、ジャンルをクロスオーバーして活躍しているドナルド・グローバーですが、『アトランタ』は今なお彼の表現の中心にある作品です。ブラックカルチャーにおいてクリス・ロックやデイブ・シャペルといった人気コメディアンが果たしてきた役割はとても重要なものでしたが、その系譜に彼の存在を位置づけることも可能でしょう。それだけではないところが、ドナルド・グローバーのすごさでもあるのですが。



──エミー賞、ゴールデングローブ賞といった受賞歴も含め、本作はアメリカで非常に高評価を得ています。このドラマのどこがそんなに評価されているのでしょうか?


宇野:現在のアメリカのテレビドラマは、『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ウエストワールド』のような、ハリウッド映画以上の製作費や時間をかけて作品世界と脚本を精巧に作り上げた大作がドラマの可能性や地位を高めている一方で、30分1話完結というコメディドラマの既存フォーマットの中からも、『アトランタ』のように驚くほど革新的で実験的な作品がアニメーション作品も含めいくつも生まれています。エミー賞やゴールデングローブ賞は各賞をドラマ部門とコメディ部門(ゴールデングローブ賞はコメディ・ミュージカル部門)に分けていますが、つまり、いわゆる一般の「ドラマ」と同じだけの作品的価値が「コメディドラマ」のジャンルにあると認めているわけです。そのような風土があるからこそ、ドナルド・グローバーのような監督もできて、脚本も書けて、演技もできて、歌も歌えて、ラップもできる、特別な才能が出てくるのです。


『アトランタ』が高く評価されている理由は、コメディ表現の新しさだけでなく、麻薬、銃、貧困、教育、母子家庭、人種差別、セレブリティーカルチャーといった、そこで取り扱う問題の多様さと、その提示の仕方の切れ味の容赦のなさにあります。扱っているテーマが近い作品としては、同時期に『ムーンライト』や『ゲット・アウト』といった商業的にも批評的にも大きな成果を収めた映画作品もありましたが、『アトランタ』はそれらの作品と比べてもまったく引けを取らないどころか、続きもののドラマ(現在はシーズン2にあたる『アトランタ:略奪の季節』まで発表)ならではの特性を活かして、問題のより深いところにまでメスを入れていきます。


──ドナルド・グローバーとともに『アトランタ』の主要エピソードの監督を務めている日本人、ヒロ・ムライとはどのような人物なのでしょうか?


宇野:ドナルド・グローバーの活動において注目すべき点は、ブラックカルチャーの歴史と社会的役割にとても自覚的な表現者でありながらも、音楽活動においてはスウェーデン人のルドウィグ・ゴランソン(『ブラックパンサー』や『ヴェノム』などを手がけている映画音楽家でもあります)が、映像作品においては日本人のヒロ・ムライが、右腕的な存在として欠かせないパートナーであることです。先ほど挙げた「This Is America」も、ソングライティングとプロデュースはルドウィグ・ゴランソンとの共作で、ミュージック・ビデオの監督はヒロ・ムライが務めています。


ヒロ・ムライの父親はアルファレコードの設立者である村井邦彦。グループサウンズ全盛期の人気作曲家として、そして荒井由実やYMOを世に送り出した敏腕プロデューサーとしても知られる、日本のポピュラーミュージック史に大きな足跡を残している方です。もっとも、ヒロ・ムライは9歳で東京からLAに渡って以来、ずっとアメリカをベースに生活をしているので、これまで日本のエンターテインメント界との関わりはありません。


今年、ロンドンでドナルド・グローバーのチーフマネージャーとミーティングをする機会があったのですが、彼はいかにも頭が切れそうなアメリカ人の若いエリートタイプの白人でした。『アトランタ』でも描かれているように、ラップのシーンには仲間は黒人ばかりで「ファミリーで一緒に稼ぐ」というビジネス・スタイルをとっているアーティストが多いのですが、その裏側を描いた『アトランタ』を作ってるドナルド・グローバー本人が、そういう身内的なノリとはまったく違う、超プロフェッショナルな環境で仕事をしているのは興味深いことですね。


『アトランタ:略奪の季節』


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『アトランタ:略奪の季節』
FOXチャンネルで毎週日曜ひる12時から放送中
※上記放送は2018年11月18日までとなります。


Huluでも各話35日間限定にて随時公開中
https://www.happyon.jp/atlanta


(c)2017 FX Networks. All Rights Reserved.

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