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カオスなエピソードや魅力的な登場人物が揃う!インドの大叙事詩『マハーバーラタ』を神話学者が解説します!

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テレ東プラス

2019.3.17

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2017年には歌舞伎座で『マハーバーラタ戦記』が上演、2019年には大人気ソーシャルゲームFGOにおいてインドの古代神話世界が重要な鍵を握る(と思われる)新章「創世滅亡輪廻 ユガ・クシェートラ 黒き最後の神」が配信開始。インドの大叙事詩『マハーバーラタ』、読むべきときが来ているのではないでしょうか――?

聖書の4倍近い長さもあってとっつきにくさもありますが、カオスなエピソードや魅力的な登場人物が揃う『マハーバーラタ』。神話学者の沖田先生にお話を伺い、世界観や見所を教えていただきました。

『マハーバーラタ』の基本情報

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●『マハーバーラタ』について
『マハーバーラタ』は紀元前4世紀~紀元後4世紀ごろに成立したサンスクリット語の叙事詩。『ラーマーヤナ』と並んでインド二大叙事詩に数えられ、ヒンドゥー教における最も重要な聖典の一つとされている。世界最大級のボリュームで、全18巻、約10万詩節からなる。「マハー」は「偉大な」、「バーラタ」は「バラタ族」を意味し、直訳すると「偉大なバラタ族の物語」。インドの宗教や哲学の原典としての価値も非常に高い。

●内容
人類が増えすぎて、大地の女神がその重みに耐えられなくなったことを発端に起こる大戦争を描く。

全体を通して、パーンダヴァ五兄弟(ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァ)とカウラヴァ百兄弟の王位を巡る対立が軸になっている。五兄弟はそれぞれダルマ神やインドラ神など、天空の神々の化身として誕生している。両家の争いは多くの神々や英雄、賢者を巻き込み、やがて18日間に渡る大戦争「クル・クシェートラの戦い」へと発展する。

『マハーバーラタ』は神と人の物語

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――沖田先生から見て、『マハーバーラタ』はどんな物語だと言えますか?

私は、"神と人の物語"なんじゃないかなと思っています。アルジュナもクリシュナも人の子として生まれますが、クリシュナのほうは神格化されています。インドラ神の化身ながらもあくまで人の子として描写されるアルジュナと、ヴィシュヌ神の化身としてのクリシュナ、ふたりの親友のような盟友のような、そのつながりの大切さを説いているのではないかと思うことがあります。

例えば、キリスト教では神は絶対的存在で、人間には絶対に超えられないものがあります。一方でヒンドゥー教では神も人も親しい友情関係を結んで行動を共にする。そういうものが表現されているのが『マハーバーラタ』なんじゃないかなと。

――インドでどのくらい読まれているのでしょう?

国民的な物語として広く受容されているということは言えると思います。『マハーバーラタ』がインドでテレビ放映されたときには、放映時間に道から人がいなくなったという話もあります。『サザエさん』的といいますか。

――少年漫画のような盛り上がりもあります。異能力バトルものと言いますか......。

武器もいろいろ出てきますしね! アグニ神の武器のアーグネーヤとか、ヴァルナ神の武器ヴァールナー。

――「五兄弟vs百兄弟」という設定も物凄いです。

実は、優れた少数と多数との争いは『マハーバーラタ』のなかでは繰り返されるテーマです。例えば、『マハーバーラタ』に載っている鳥と蛇が争う神話。鳥の母と蛇の母は姉妹で、鳥のほうの母ヴィナターはガルダという鳥を産みますが、蛇のほうの母カドゥルーは蛇(ナーガ)の一族を産み、こちらは千匹います。1対1000の戦い、構造が似てますよね。

――更にすごい......。ただ、作中に出てくる「化身」という表現がいまいち分からないのですが。

化身はアヴァターラとも言って、神が自分の分身を地上に下したっていうイメージなんです。特にヴィシュヌの化身に対して使われますね。神がまるごと地上に降りたというよりは、自分の一部分を地上に下している。本体は変わらず天界の神として存在しています。

民衆に愛された英雄カルナには義経との共通点が!?

――パーンダヴァ五兄弟のなかでも、特に三男のアルジュナがカルナと深い因縁を持つのには何か理由があるのでしょうか? ふたりは王家の御前試合でも武芸を競い合い、最終的にアルジュナはカルナを殺害しています。

確かに『マハーバーラタ』におけるカルナの行動は、全てアルジュナに対抗しているんですよね。「アルジュナがこうだから自分はこう行動する」というふうに動いています。

アルジュナはインドラの息子で、カルナは太陽神スーリヤの息子なんですが、インドラは雷雨の神なので、太陽神であるスーリヤとは元々相性が悪いんですよね。雷雨が起こったら太陽は隠れざるを得ない。自然現象にまで遡った仲の悪さです。

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――カルナはインドの人たちに特に人気がある英雄だと聞いています。

はい。私の夫の部下がインド人で「カラン」という名前なんですが、これはカルナが由来だそうです。本人に訊いたら「マハーバーラタの太陽の息子の名前をとても誇りに思っている」と。

でも原典を緻密に読んでみると人気のタネが分からないんですよね......。カルナは主に民間伝承のほうで悲劇の英雄という形になっていて、原典よりそちらのほうで人気が高まった気配をいろいろなところから感じられます。

――原典とは別にファンのあいだで盛り上がったということでしょうか。

カルナは日本でいう源義経のようなところがあります。民間で人気があったから伝説になって――あの、チンギス・ハン伝説ってご存じですか? 源義経は史実では岩手県の衣川で死んでいるんです。でもあまりにも人気があったから、民間の人々が「実は義経は死んでいなかった。大陸に渡ってモンゴルの英雄、チンギス・ハンになったのだ」という伝説を作ったんです。そのくらい愛されていたと言えますし、インド人におけるカルナ人気も、義経的なところがあるかもしれません。

今際の際にしゃべりまくったビーシュマおじいさん列伝

――『マハーバーラタ』の登場人物のなかで、沖田先生が個人的に印象的な人物はいますか?

ビーシュマおじいさんですね!戦争の初期に敵方で活躍した将軍で、パーンダヴァ五兄弟にとっては大叔父にあたります。ものすごく徳の高い無敵の英雄で、普通の手段ではまず倒すことができません。そこでビーシュマおじいさんが「女には矢を向けない」という誓いを立てていたのを利用して、前世が女性だったシカンディンを盾にしてアルジュナが倒すという策をとりました。

――それは、やや卑怯というか......。

善悪どうなってんだってことになりますよね(笑)。ビーシュマおじいさんは自分の死期を自分で決められるという恩寵を授かっているので、倒した後もすぐには死なないんです。致命傷を負って横たわったまま語った内容が『マハーバーラタ』のおよそ2巻分になります。

――今際の際が長すぎますね!?

そうなんですよ!2巻分と言えばかなりの膨大な量です。
(※『マハーバーラタ』は全18巻)

何度でも人生を生きていく、インド神話の魅力

――『マハーバーラタ』の印象深い人物やエピソードをたくさん伺ってきたのですが、とくにインド神話ならではの魅力というのはどういうところだと思いますか?

そうですね......。循環していく世界観、というのはすごく大きいと思います。インドの世界観はすごく円環的なんです。ブラフマーが世界を創造して、ヴィシュヌが維持して、最後にシヴァが破壊する。それで終わりではなく、そのあとまた新しく創造されて、維持されて、破壊されて――というのが繰り返されていきます。

――ほかの神話は循環しないのですか?

そうですね、古代世界においてごくシンプルな循環思想は普遍的ですが、それを特に強度に練り上げたのがインドだと思うんですよ。そしてこれは何か、救いのある思想だと思っています。

現代の我々は、一方向に進む直線的な世界観を生きています。生きて死んだらそれで終わり。あとは最後の審判を待つだけという一神教的な世界観は、何かちょっと怖いものがあると思うんです。

でもインドでは円環のなかで何度も生まれては死んでを繰り返す。苦しい人生を何回も生きなきゃならないので、それはそれで苦しい世界観だとインドの人自身は思っているんですけど、私はそこに救いも見出すことができるかもしれないなと。まさに輪廻転生。

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――それは『マハーバーラタ』に登場するような神や英雄であっても等しく当てはまることなのでしょうか。

そうです。結局みんな死んでしまうというか......インドにはシャーンタ・ラサという、なんとも言えない寂しさを表す感情があるんですが、これもひとつ『マハーバーラタの』大きなテーマですね。生きているあいだの業をカルマって言うんですけど、それに応じて時には神に生まれ変わることもあるし、人間に生まれ変わったり、あるいは動物とか虫とか、いろんなものに生まれ変わる可能性もあります。

アルジュナは神の化身として生まれた大英雄ですが、決戦のあとはだんだん力を失っていき、彼自身が愕然とするシーンがあります。神から授かったガーンディーヴァという弓も返還し、山に死出の旅に出るんです。アルジュナほどの優れた英雄であっても、最後には力を衰えさせて死んでいく。単なるハッピーエンドの英雄物語ではないところも、『マハーバーラタ』の深いところだと思います。


【プロフィール】
沖田瑞穂
神話学者、文学博士、大学非常任講師。主な著書に『マハーバーラタの神話学』(弘文堂)、「マハーバーラタ入門」(勉誠出版、2019年4月発売)、翻訳を担当した「勝利の詩 マハーバーラタ」(上下、原書房、2019年4月25日発売)など。
Twitter:@amrtamanthana

【トップ画像出典】
The Mahabharata, 19vols. for the first time critically edited by V. S. Sukthankar. Bhandarkar Oriental Research Institute (Poona), 1933-1966.

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