憑依体験から生まれる【人を泣かせるホラー】「怖がらせ隊」今出彩賀さんの哲学

ゲームクリエイターから転身して、ホラーアクター兼お化け屋敷会社社長として活動の場を広げる「怖がらせ隊」の今出彩賀さん(39)。
幼い頃から怖いものへの興味が尽きない今出さんは、なるべくしてこの道へ進んだとも言える。
「テレ東プラス 人生劇場」前編では、今出さんの半生に迫ったが、後編では、年商1億円以上に上る「怖がらせ隊」の活動、代表取締役社長として見据えた将来、さらには、彼女の心の奥底に眠る“深いホラー愛”について話を聞く。
【動画】中部地方最恐の廃墟!閉園から21年…新潟県ロシア村でロケを敢行
「カンブリア宮殿」で実現した“ゾンビ新幹線”
――夏はホラー最盛期! 今はどこでお化け屋敷をやっているのでしょう。
「今は鹿児島や広島、3日後には山形の遊園地でお化け屋敷が始まります(※取材日は8月5日)。遊園地や自治体、青年会議所、町おこしなど、今は全国を回っています。
例えば群馬県桐生市では、お祭りの時期に文化財の蔵を使って、地域の人たちのために無料のお化け屋敷をやりました。このご縁は3年間続いています。不景気で困っているという鉄道会社からのご依頼で“ゾンビトレイン”も企画しました」
――新幹線を貸し切った「ソンビ新幹線」も話題になりました。あれは、今出さんのアイデアですか?
「実は、一緒に会社を運営している岩名謙太とテレビを見ていたら、たまたま『カンブリア宮殿』が映っていて、新幹線の車両内でプロレスをやっていたんです。“これ、絶対お化けでもいける!”と思い立ってすぐJRに聞いてみたところ、話を聞いてくださることになり、トントン拍子で実現しました。
おそらく『カンブリア宮殿』を見ていなかったら、実現していないと思います(笑)。
“ゾンビ新幹線”は、めちゃくちゃ打ち合わせを重ねて、東京〜新大阪間の新幹線『のぞみ』の後方2車両を貸し切って実施しました。囚人ゾンビがチェーンソーを振り回し、ナルシストに自撮りしているインスタグラマーゾンビやホストゾンビなど、10種類以上のゾンビを出しましたが、好評でした」
――ホストソンビ! すごい発想!(笑)
「ソンビ化したイケメンホストがシャンパンに見立てたシャンメリーをカッコよくかざしたり、注ぐお芝居をしたりして、『よいしょ〜!』とシャンパンコールします。すると、姫カットの地雷系ゾンビが現れて、スマホを見ながら『担当から返信来な〜い!』と泣き叫ぶ(笑)」
――なるほど、ゾンビに社会風刺が効いているわけですね。ゾンビアクターたちの推し活を楽しむファンもいますか?
「たくさんいますよ。ホストゾンビ役の俳優のために、通路側の席を取ったファンの方もいました。“ゾンビ新幹線”は、海外メディアもいくつか取材に来てくれました」
恐怖の裏にあるのは【感情、思い出、愛情、記憶】
――前編でも少しお話しましたが、今出さんの今の活動の原点は、子どもの頃のホラー体験からきているのでしょうか。
「子どもの頃は、単純に“怖い”という感覚だったんですけど、ここ2年ぐらいは“自分が呪われているかも”と感じた時、“一体どんなヤツが憑いているんだろう…体を張って確かめたい!”という気持ちでやっています。
お化けの設定に、私の憑依体験を入れこむことも多いです。例えば、大型ショッピングモールで行ったイベントでは、戦国時代に部下の責任を取って自ら命を絶った霊を出しました。無念を抱いたまま死んでいった人の葛藤…ボロボロ涙が出てくるほどキツかった自分の体験を設定に落し込み、アクターにその体験談を伝え、お芝居で表現してもらいました。
こうしたホラーをつくっていくうちに、“お化けになった人も元々は人間”と考えるようになり、霊の人生や深いところまで思いを馳せるようになりました」

――非常に興味深い話ですね。まさかそこまでされているとは…。体や精神を持っていかれそうでもありますし、かなり苦しいことでもありますよね。
そんな今出さんがお化けをプロデュースする際、大切にしていることは?
「【感情、思い出、愛情、記憶】この4つを大切にしています。普通のホラープロデューサーは『恐怖体験を~』とかなんとか言うと思うんですけど、私の場合はまったく違います。
個人的な見解ではありますが、“人間は愚かな生き物だ”と思っているんですよ。愚かだからこそ争いが起き、その原因には、愛情や何かしらの感情が必ずある。そして、楽しいという感情の中には思い出があります。楽しかったという記憶は、記録ではなくずっと続いていくもの。だから私がつくったキャラクターには裏の設定があり、そこまできちんと計算しているので、“なんだこれ、感情をかき乱される”といった感想をよくいただきます。怖くて泣き崩れることもあるけど、誰かと一緒に手を握って楽しかった…そういう感情がいい思い出になると信じているので」
――今出さんの強い信念を感じます。そこまでする原動力はどこにあるのでしょう。
「“お化け屋敷をみんなに楽しんでほしい”という気持ちが大きいんですけど、実はそこには、自分の原体験が関係しているんですよね。
私が子どもだった頃、両親がよく夫婦げんかをしていたんですけど、そんな中でも、家族で遊園地に行き、お化け屋敷に入ると急に一体感が出るんですよ」
――それ、すごく分かります! 怖いから(笑)。
「『お父ちゃん怖い、みんなでくっついていこう』と言いながら、おばあちゃんも含めて家族みんながくっついて歩いて、『ギャーッ!』となる。『父ちゃんが騒ぐから、お母ちゃんが先に行っちゃってさ~』とか、決して消えない思い出とともに、家族の絆が生まれる。
ジェットコースターも楽しいけど、すぐ終わっちゃうから記憶には残りにくい。一方でお化け屋敷は、家族や恋人、友達が一丸となって乗り越えていくものなんですよね。そしてそういう思い出は、大人になっても覚えているものなんですよ。だから私は、そういう思い出を、もっともっとたくさんの人に届けたいです」
▲子どもの頃の今出さん――私も、小学生の時に行った遊園地のお化け屋敷、今は楽しい思い出として強烈に覚えています。最近は感情が容易に動かない子も多いから、そういう子どもたちにこそ、1度体験してほしいですね。
「そうですね。実は私自身、愛着障害、発達障害の傾向がありまして。実は自社イベントで『サイコキラーエスケープ』という生きづらさを抱える人たちに向けたホラーをつくったんですけど、『苦しい、苦しい…でも嬉しい』と言って帰っていかれたお客様もいて。
ここでも【感情、思い出、愛情、記憶】、“愛情ってなんだろう”というセリフをたっぷり盛り込み、再再演になるほど大きな反響をいただきました。
夏の繁忙期で一旦閉じましたが、どんなテーマでも、表現によっては伝わると実感したので、なおさら“今後もさまざまな形でホラーをやっていこう”と思いました」
▲「サイコキラーエスケープ」より――たしかに、ドラマでやるといささか押しつけがましいテーマも、疑似体験するお化け屋敷だと、より伝わりやすいかもしれませんね。最後に、今後、今出さんが考えていることがあれば教えてください。
「以前、大阪から韓国・釜山へ行くフェリー内でホラーイベントを実施しました。その時『やった! 初の海外進出だ〜』と盛り上がったんですけど、やはり海外のホラーのマーケットはとんでもなく規模が大きいらしいんですよ。
特にアメリカでは、ハロウィンは当たり前の文化として根付いているので、大型イベントを1年かけてつくることもあるそうなんです。みんなで“いつかアメリカに進出したいね”と話しています」
今出さんがつくる“心を揺さぶるホラー”が、世界を席巻する日は近いかもしれない。

【今出彩賀 プロフィール】
1986年生まれ、広島県呉市出身。呉三津田高等学校卒業。
2016年、お化け屋敷プロデューサー・岩名と出会い、【怖がらせ隊】へ加入。「シカバネ迷宮編」「シカバネ病棟編」「シカバネ狂」…など岩名作品に多数出演。
2018年10月31日ハロウィンの日「株式会社怖がらせ隊」を立ち上げ、代表取締役に。
2019年3月、竹書房「本当にあった愉快な話」にてお化け屋敷マンガ「お化け屋敷プロデュース怖がらせ隊が行く!断末魔の現場から」の連載を開始。
制作・化け物キャスト・デザイン・イラスト・特殊メイク・撮影・音声編集・動画・造型…など、怖いものなら何でもやるホラー人間。
(取材・文/谷亜ヒロコ)
※このページの掲載内容は、更新当時の情報です。