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チョコレート業界に起こりつつある「革命」。10年後に訪れそうな”ロマネ・コンティの世界”とは?

グルメ

テレ東プラス

2019.7.4

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チョコレート界に革命の気配がただよっている。豆の仕入れから加工、製造、販売までをワンストップで手がける製法「ビーン・トゥ・バー」が台頭し、チョコレートの世界に"ワイン化"の波が押し寄せているというのだ。

その火付け役となっているのが、東京に店舗を展開するチョコレート専門店「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」。カカオの豊かな果実味を感じるチョコレートは、国内での人気にとどまらず、国際的な品評会でも数々の賞に輝いている。

今回、Minimalの代表・山下貴嗣さんにインタビューしたところ、知られざるチョコレート業界の今と昔、そして壮大な未来図についてお話を伺うことができた。

チョコレート業界の変遷と「ロマネ・コンティの世界」


――ビーン・トゥ・バーというスタイルは、今までのチョコレートの製法とどこが違うのでしょうか?

これまでのチョコレート業界における製造システムは"分業制"で、一次加工メーカーと二次加工メーカーに分かれていました。豆を各国で買い付けて、クーベルチュールというチョコレートの材料を大量生産するのが一次加工メーカー。それを買い付けて、消費者の手に渡るお菓子の形に変えるのがパティシエやショコラティエ、製菓会社などの二次加工メーカーです。

こうした流通構造を一気通貫させたのが、ビーン・トゥ・バーというスタイルです。商社を通じて産地を指定したり、チョコレート菓子の作り手が自ら産地に足を運び、豆を直接購入する。これにより素材の違いを楽しむ新たなチョコレートが登場し、コーヒーで言うところの"シングルオリジン"のような「フィリピン100%」「ニカラグア100%」などの表現も生まれました。

――それはイノベーションですね。実際に食べてみると、味わいも大きく違いました。

一般的なチョコレートは"足し算"の論理で作られています。カカオに油分、ミルク、香料、乳化剤などを足していくことで、美味しさを創造するわけです。一方で私たちMinimalのビーン・トゥ・バーは"引き算"の論理です。豆の煎り方や挽き方、わずかな分量のバランスなどで、素材のポテンシャルを引き出していく。すると、フルーツの種であるカカオ豆本来の果実味や個性的な香りが、チョコレートに宿ります。

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https://www.instagram.com/p/Bpy9NjQFb9w/

その一方で、カカオ農園には最終的な完成イメージを逆算して、オーダーを出していきます。土地の性質や気候、農園の皆さんのキャラクターといった個性をダイレクトに表現できるのが、ビーン・トゥ・バーの大きな特徴ですね。


――ビーン・トゥ・バーの登場によって、どんな現象が生まれるのでしょうか?

今までのチョコレートは、ロープライスの中から選ぶか、ショコラティエさんの高級品かの二者択一でした。その中で、ビーン・トゥ・バーが登場したことで、チョコレートの嗜好品という側面がより深まったと思います。土地ごとの味わいの違いを楽しみ、ワインやコーヒーとのテイスティングを探求する。美味しさという結果だけでなく、味わう過程が楽しめるようになるわけです。

Minimal_20190704_03.jpghttps://www.instagram.com/p/BlAk7BthdFg/

10年後か20年後かはわかりませんが、チョコレートにもロマネ・コンティのような世界が訪れるのではないでしょうか。

――ロマネ・コンティの世界ですか。

「今年はこの土地のこの農園のこの一角で栽培した豆が美味しい」という報道が広まる中、1から100のロットナンバーを振られた板チョコが製造される。そのたった1枚の板チョコがオークションにかけられ、数万円の値打ちで落札される――。そういうストーリーが現実のものになるかもしれません。"スター農家"が登場する可能性もありそうですね。ワインにはヴァン・ナチュール(自然派ワイン)のような農園の個性を尊重する文化がありますが、それと同じことがチョコレートで起きても不思議ではありません。

チョコレートの世界もやがてその道を辿り、当たり前の文化として醸成されていくのではないでしょうか。もちろん、膨大な時間はかかります。高級ショコラも100年や200年の歴史を積み重ねて、ようやく普及しました。私たちがよく話すのは、2100年にクラフトチョコレートが文化になったとき、その創世記を作ったかもしれないって言えたらいいなって。すごく面白い仕事ですよ。

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ナイフを突きつけられたことも。農園の開拓で経験した「泥臭い物語」


――日本においては先人のいないクラフトチョコレートの製造。ここまでの道のりには、苦労も多かったのではないでしょうか。

最初は飛び込み営業に近かったです。チョコレートの見本市に出店している農家から名刺をもらったり、ヨーロッパの品評会で賞を取っている農園を片っ端から調べたりして、ダイレクトメールを送っていました。とはいえ、農園の多くは発展途上国。右も左もわからないうちは、お金を騙し取られたことや、現地でナイフを突きつけられたこともありましたね。シャワーは水ですし、最近もニカラグアでダニに足を15箇所くらい刺されました(笑)。

――海を渡って農園に身ひとつで飛び込み、交渉する。一筋縄ではいきませんね......。

壁はまだありますよ。私たちは"逆フェアトレード"と呼んでいますが、Minimalでは農園の豆を市場価格の2〜3倍の値段で買っています。ただ、それでも豆を売ってもらえないことが頻繁にあるんです。

というのも、カカオ豆の生産国の大半は発展途上国で、ニューヨークやロンドンの先物取引のマーケットで価格を決められています。いいものも悪いものも同じような値段で買い叩かれ、100トン売ってようやくペイできるような産業構造になっているんですね。だから、農園としては3倍の値段で1トンの豆を私たちに売るよりも、3分の1の価格で100トンの豆を業者に売るほうが儲かるわけですよ。

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――その逆境をいかにして乗り越えたのでしょうか。

地道な信頼の獲得です。大切にしていたのは「嘘をつかないこと」ですね。懸命に農園を回っていれば、やがて価値観を共有できる農園に出会えます。彼らの豆を有言実行で買い続け、その量を毎年1キロずつでも増やしていく。些細かもしれないけれど、毎年しっかりと顔を合わせにいく。すると徐々にビジネスパートナーとして認められ、豆の栽培にも情熱を注いでくれるようになりました。彼らの豆を使って品評会で入賞すると、本当に喜んでもらえるんですよ。最近は農園から声をかけていただくケースもあります。

――それにしても、何気なく口にしているチョコレートの裏側に、そんな産業構造があったとは驚きました。

今の農園はいわば、自分たちで作ったものの価格を自分たちで決められない状態なんです。でも、クラフトチョコレートが全世界に普及すれば、価格の決定権も農園側に移っていくと思います。巨大な市場が形成されるので、貧富の差も縮まるかもしれません。

私たちは今すごく意義のある活動をしていると信じていているんです。全世界に文化を根付かせるような大それたことはできませんが、クラフトチョコレート黎明期の渦の中心部にいるのも確か。私たちが渦を広げて、私たちにインスパイアされた誰かがまた渦を広げてくれれば、誰を傷つけることもなく世界が少しずつ良くなっていきます。そんな仕事ができたら素敵ですよね。

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文化の醸成に必要な「ブランドの力」


――文化を醸成する上で、単なる「美味しいチョコレート」の枠組みを出られるかが鍵になりそうです。

そこで私たちが重要視しているのが、Minimalというブランドの世界観に触れてもらうこと。多くのフェアトレードが長続きしないのは、最終的には美味しさや価格といった"縦軸の競争"で埋もれてしまうからです。100円で美味しいチョコレートを食べられる世の中で、あえてMinimalを選択したくなるようなブランド体験、嗜好品としてチョコレートを食べる面白さを伝えていかないといけません。

――美味しさ以外の付加価値を提供していくんですね。

ブランドはお客さまの内側に存在するもの。心のなかにしか存在しないので、私たちが「こんなブランドです」って闇雲に主張しても仕方ありません。実際の体験を通して、徐々に私たちの世界観を好きになってもらえるような工夫が必要です。

店舗の板チョコを試食し放題にしているのも、まずは食べて興味を持ってもらうためですが、大切なのはそこから生まれるコミュニケーションです。裏側にあるストーリーや誕生秘話、作っている人や現地の舗装されていない道などの写真など、いろんなものをお客さまとシェアすることで、「買って食べる」以上の奥行きをお楽しみいただけたらと思っています。オンラインショップ全盛期にあって店舗を構えているのは、それが大きな理由ですね。

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――なるほど。人と人との繋がりは、実店舗にしかない強みですね。

私たちのスタッフは、全員が「作り手」だと思っています。製造チームは、Minimalのビジョンを実現する新たなチョコレートを作る。販売スタッフは、ビジョンを実現するファンやお客さまという仲間を作る。ビジネス担当は、そのための仕組みやプラットフォームを作る。Minimalはひとつの作品なんですよ。だから、私たちはあくまでも自分のことを「作ることを生業にする人間」と定義しています。

――サービスやおもてなしも含めて、Minimalという作品を作っていくと。

日本人のものづくりって、とてつもない武器だと思っています。日本人のきめ細かさやディテールにこだわる姿勢、おもてなしの精神はどの国も真似できません。「和を以て貴しとなす」や「わびさび」といった独特の感性も大好きなんですよ。

これから少子化でGDPが減り、さらに中国などが台頭すれば、日本がグローバル社会でプレゼンスを発揮することはますます難しくなるでしょう。でも、ホスピタリティやチームワークを活かしたサービス業、伝統工芸や機械工業など、日本人の繊細さによって実現できるものはたくさんあります。これをシーズにして世界に誇れるものづくりをしていき、尚且つそれをブランド化して付加価値をつければ、外貨もしっかりと稼げるはずです。

チョコレートもそう。西洋を中心に11〜12兆円もの市場があるものを、日本人の得意な引き算の論理で再定義したら、面白いことになると思うんです。これからも世界をあっと言わせるものを作って、地道に仲間を増やしながら、クラフトチョコレートという文化を当たり前のものに育てていきたいですね。

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