農林水産省の食堂「手しごとや 咲くら」で食べる、美味しすぎるクジラ料理
会社の福利厚生の一環として、ビジネスマンのお財布や健康の頼もしい味方になってくれるのが"社食"です。健康に気を使ったメニューを、リーズナブルな価格で提供してくれるのは、本当にありがたいですよね。
でも、営業などで外回りが多かったり、そもそも会社に社食がなかったりする方も多いのではないでしょうか。そこで利用したいのが公共施設にある食堂です。真っ先に思いつくのが大学などの学食ですが、若い人に混じって食事するのは、ちょっと気恥ずかしいですよね。
ということで、大人向け(?)の公共施設に面白そうな食堂はないかと探していたところ、農林水産省にランチだけ一般開放されている食堂があるのを見つけました。さっそくレポートしたいと思います。
セットメニューもアラカルトも食べられる、ワンランク上の"食堂"
今回お邪魔した「手しごとや 咲くら」があるのは、農林水産省 北別館の1階。東京メトロ霞ヶ関駅のB3a出口を出て、左手に100メートルほど歩くと入り口が見えてきました。官庁ビルの入り口で、看板などが出ていないので分かりにくいかもしれませんが、玄関の向こうに同じ建物に入っている「日豊庵」の「おそば」の旗が見えるので、それが目印になるかもしれません。
この玄関を入って右手に歩いていくと、「手しごとや 咲くら」が見えてきます。入り口脇には黒板がかけられ、週替わりのメニューなどが書かれていました。どうやら雨の日に「カレーセット」を頼むと、自家製プリンが付いてくるようです。
なお、このお店ではカレー、丼ぶり、御膳などのセットメニューを頼むこともできれば、ビュッフェスタイルで30種類以上あるおかずから好きなものを選んで、ご飯やみそ汁と組み合わせることもできます。農林水産省の職員食堂という立ち位置ながら、この多彩なメニューやスタイルへのこだわりぶり。これは期待が高まりますね!
一つ一つ手間をかけ、日本の本当の美味しさを追求する
今回はお店のオープン時間の間を縫って、総料理長の伊藤誉志さんにお話をお伺いすることができました。
「手しごとや 咲くら」では、農林水産省が提唱している「食事バランスガイド」(※)に賛同し、食料自給率の向上を目指しているとのこと。また、日本の伝統的な食文化も大切にしており、商業捕鯨の再開で話題になっているクジラについても、いくつかのメニューを提供しているそうです。
※食事バランスガイド:http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/about/between.html
「自給率をあげるには、日本で生産された食料を利用するだけでなく、それを活かした食文化を守る必要があります。数ある食材の中から、日本でたくさん採れた旬のものを提供するのが、やっぱり一番安くて美味しい。だから、私にとって食料自給率を上げるというのは、毎日変わる仕入れに合わせて、メニューも臨機応変に変えながら、一番美味しさを引き出す手法で料理を提供することですね。本当に手間がかかるんですが、決まったメニューを作るために安定供給できるからと、わざわざ海外から運ばれてきた食材を使うのは、やっぱり違うんじゃないでしょうか」(伊藤さん)
店内にある各メニューの表示には、自給率が書かれていました。ちなみに、この日に並んだメニューの中で自給率が高かったのは以下の2品。
【セットメニュー】
まぐろカルビ焼き御前(自給率61%/799Kcal/880円)
【ビュッフェメニュー】
煮込みビビンバーグ(自給率58%/356Kcal/380円)
伊藤さんによると、揚げ物や炒め物で使用する油については、どうしてもマレーシア産のものが多く、自給率を上げるのが難しいそうです。
通年で扱っているオススメメニューとのことだったので、今回は御前セットの「イワシ鯨ステーキ膳」(自給率56%/798Kcal/1000円)をチョイス。これに、ビュッフェから「クジラの竜田揚げ」(自給率39%/316Kcal/380円)を組み合わせてみました。ほかにも、クジラ系では「イワシ鯨竜田カレー」(自給率47%/815Kcal/750円)があるとのことで、これも機会があればぜひ試してみたいですね。
トレイに料理を受け取ったら、自分で席へと運ぶ一般的な食堂スタイルになっており、店内は100席ほどある広々とした空間になっています。今回はオープン前に撮影する時間をいただきましたが、ランチがはじまる11時30分頃には、一般の利用者のものと思われる行列ができていました。さらに、12時を過ぎると職員の方が食事をとり始めるため、店内はかなり混み合うことに。別日にお邪魔したときには、このお店目当てのツアーがあったようで、建物の入り口まで行列ができていました。日比谷公園でイベントがあるときにも、比較的に人の出入りが多くなるようです。ほんと、知る人ぞ知る人気店なんですねぇ。
柔らか、トロトロ、ごはんがすすむ!...クジラを本当に美味しく食べる2品
「イワシ鯨ステーキ膳」(自給率56%/798Kcal/1000円)は、「独特のクセのあるクジラを、一番美味しく食べられる料理」として考案したという、伊藤さん渾身の一品。「硬い肉」と思われがちなクジラを美味しく食べるために、コンフィ――低温の油でじっくりと火が入れられています。ここにごま油ベースのナンプラーソースをかけ、小葱、ピクルス、生姜、玉ねぎとキノコのソテーなどと一緒に食べるというスタイルです。
低温の油でじっくりと煮たクジラの肉は、まるでローストビーフのようなピンク色。しっとり、柔らかな赤身の食感が、クジラが"魚ではなく肉"であることを実感させてくれます。クジラ独特のコク、香りが楽しめるのに、それが主張しすぎないんですよね。ソースも単体で舐めるとナンプラーを感じるのに、全体として見事なバランスで和風テイストな味にまとまっているのが、本当にすごい......。クジラ独特の風味が何とも言えずに「美味しい」と感じられて、「牛肉より旨い」と伊藤さんが言っていたのも納得です。
マリネとも違う、しっかりとした食べ応えのある肉。これは確かにステーキですね、ごはんが思わず進んでしまいます。一緒に食べる付け合わせを変えれば味変もできて、最後まで食べ飽きませんよ!
そして、「ビックリ度は、ステーキよりも上」と伊藤さんが言っていた竜田揚げ。こちらは、玉ねぎのすりおろしにカレー粉などで味をつけて、クジラの肉を漬けてから揚げています。こうすることで、クジラの臭みが程よく抜けて、柔らかな食感になるそうです。
実際に食べてみて、確かに驚かされました。ステーキとはまた違う、アツアツでトロトロに柔らかなクジラ肉というのは、ちょっと他にないのではないでしょうか!味付けは本当に優しい味。カレー粉の存在を感じるけれど、あくまで味と香りの主役はクジラなんです。クジラをしっかり感じるのに柔らかい。なるほどだから驚かされたわけですね。
両者を比較するとクジラの味をダイレクトに味わうなら竜田揚げ、クジラを美味しく食べるならステーキといったところでしょうか。方向性は違いますが、どちらも本当に美味しいので、これはぜひ両方食べてほしい2品です。
取り調べのカツ丼、海軍カレーは食べられるか?
「手しごとや 咲くら」のランチ営業時間は11時30分~14時。これ以外の時間も営業はしていますが、ランチ時間以外は一般の方は利用できないそうです。実は、経済産業省の中にも出店していますが、こちらも一般の利用はできず、省内に用事があって入館証を発行してもらったときに、その足でなら利用できるのだとか。
なお、経済産業省にある「手しごとや 咲くら」は、自給率向上などのコンセプトこそ同じですが、提供しているメニューは全く違うそうです。そばやラーメンなどの麺類もあるそうなので、館内に用事があるときにはぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、ほかの官庁にある食堂についても、同じように館内に用事があって訪問しているときには利用できます。例えば、合同庁舎2号館には、「麺食堂」「職員食堂」「中華食堂 龍幸」「和食堂」などがあるようです。この庁舎には警察庁が入っているので、「取り調べのカツ丼を提供しているのか」を調べてみましたが、どうやらここには事務方しかいないため、取り調べは行われていないようでした。
また、防衛省にも「風人」という食堂があり、「カツカレーが人気」との情報をキャッチしました。ただ、海軍とのコラボはやっていないようです。横須賀まで行かなくても、市ヶ谷で海軍カレーが食べられないかと思ったのですが、ちょっと残念ですね......。
【取材協力】
手しごとや 咲くら
住所:東京都千代田区霞が関1-2-1 農林水産省 北別館 1F
営業時間:11時30分~14時30分
定休日:土曜、日曜、祝日、閉庁日(12月29日~1月3日)
※この情報は、2019年7月時点のものです。最新情報をご確認の上、お出かけください。