「終活」の初めの一歩”エンディングノート”を若いうちから書くといい理由
近年、「終活」という言葉を耳にするようになって久しいですが、終活といえば漠然と、「自分が死んだ後に残された人が困らないように、お金のことも含めて色々と整理しておく......」。こんな風に考えている人も多いのではないでしょうか。たしかにその考え方で間違いではないようですが、具体的にどうすればいいのか気になりませんか?
今回は、葬儀社勤務を経て、エンディングコンサルタントとして数々の「お別れ」に立ち会ってきた柴田典子さんに「終活」について伺ってきました。
生活情報番組「なないろ日和!」(毎週月~木曜日 午前9時28分~放送中)では、毎回さまざまな専門家がレギュラー出演。柴田さんは「はじめて喪主になったら」「揉めない相続」などを分かりやすく解説し、視聴者からの反響も多数。
「終活」とは人生について考えること
誰しもいつかは訪れる「死」。その日が来るまで目を反らすことは容易ですが、いざ、その時が来たら「ああすればよかった」などの後悔も残りそうです。そうならないためにも、「終活」は必要な気がしますよね。それでは、どのように始めればいいのでしょうか。
「終活とは『死に支度をすることではなく、今の生き方を考える』ことが大切だと思っています。老後資金には何千万円必要だとか、色々と情報が入ってきますが、あの金額を聞くと恐ろしくなりますよね?(笑)。でも、あれは一般的に60歳で定年したことが前提の金額。自分はいつまで働くか、ローンをどうするか?と考えることから、終活は始まっているんですよ。(柴田氏、以下同)
そんな風にいわれると、ちょっと気持ちが軽くなりますよね。柴田さんは、今の生活を正面から見ることが必要だといいます。
「"終活"という言葉が重く感じられて、言葉そのものを嫌う方もいます。私は言葉にこだわりません。なぜならピンとこなければ、動けないと思っているから。もっと良い言葉があればそれでもいいと思いますが、今のところそんな言葉もないですしね」
若い人こそ「エンディングノート」を書こう
暴飲暴食、ヘビースモーカーでも100歳まで長生きする人がいるように、運動をして、食生活にも気を使っていたのに、不慮の事故で早世してしまう人もいます。「死は突然やってくるからこそ、準備をしておくことが必要だ」と柴田さんはいいます。
「今の若い世代は、携帯電話にすべての情報が入っていますよね。それは、逆にいえば、携帯がないと何も分からないということ。交通事故でお子さんを亡くされた方が、子どもの友達に知らせたいけれど、『交遊関係がわからない!』そんなご相談をお受けすることも多々あります。
友人全員の連絡先を書き留める必要はなくて、誰と誰に連絡すれば、全員に伝わる。その程度のことは、残しておいてほしいですね。また、ネット上でパスワードが必要なものなども、きちんと整理しておくことをオススメしています。
パソコンのパスワードなど、専門の業者に頼めば開けてもらうことも可能ですが、こうした作業にもお金がかかるし、遺された家族が混乱する元にもなります。とはいえ、パスワードを財布の中に入れたり、パソコンに貼り付けたりするのは不用心です。きちんとした場所に保管しておくことをお忘れなく。
急死以外でも、脳梗塞になると、しゃべれない、記憶がなくなる、半身が麻痺するなどの後遺症が残り、意思疎通ができなくなってしまうこともあります。そういう時のためにも、エンディングノートは若くて元気なうちに書いていただきたいですね。
エンディングノートの書き方は?
お話を伺っていると、「今すぐエンディングノートを書かなくては!」という気持ちになります。とはいえ、書くことがいろいろありすぎて、整理しながら書くのは難しそうです。
「私は次の3冊を用意することをすすめています。
1冊目は、飲んでいる薬のことや医療に関する情報、◯◯病院に行きたいなどの希望を書き込んだもの。これは玄関など救急隊員が見えるところに置いてください。
2冊目は、介護のことや葬儀の希望など『生きている時に家族に知っておいて欲しいこと』を書き込み、家族が見られる場所に。
3冊目は、財産についてや家族や友人たちへの思いをつづった「死んでから見てほしいこと」を書き込んだもの。これは、信頼できる人に「保管と執行」を頼むのが理想。
いずれも、死んだときのことばかりを考えていてもエンディングノートは書けません。一番初めにお話ししたように、"今の生き方"について考えると、必然的にどうすればいいのか、見えてくると思います」
とても合理的です! 目的別に分けることで書きやすくなりそうです。エンディングコーディネーターの柴田さんご自身は、どんな「終活」をしているのか気になります。そこには、叔母様を送り出した、柴田さんの経験が大きく影響しているといいます。
「私はものの片づけから始めています。叔母が亡くなった時に荷物の整理が本当に大変だったんです。冷蔵庫の中に残っていた瓶詰の中身を出して、瓶を洗って、分別して......と、ゴミを捨てるだけでも膨大な仕事量でした。
『全部捨ててしまおう』と思っても、コートのポケットやカバンの中からお金が出て来ると、一概に全部捨てることもでなくなって、1つ1つ確認する作業が加わります。最終的には業者さんに頼んで処分してもらいましたが、数十万円かかりました。だから、まずはモノを捨てるところから始めています」
経験者ゆえに、断捨離を勧める柴田さんのもとには、アルバムの処理に悩んで相談に来られる方も多いとか。
写真とかアルバムはすべて捨てるのも気が引けるし、かといって全部残しておくこともできない。となると、選ぶのに時間がかかるんです。だから、遺された家族のために、自分で整理しておくといいですね」
スマホやパソコンの中にたまっている写真も同じこと。自分でも整理しきれなかった莫大な量の写真データも、マメに整理しておくことが必要だと思い知らされます。
親と死について語ることは難しくない?
これまでは、自分の終活について伺いました。順番通りにいけばその前に親を見送ることになります。でも、親に対して「終活している?」とはなかなか聞きにくいものです。
「『もしもの時の延命だけはどうしたいか教えて』という感じで話をふってみてはいかがでしょうか。ご高齢の方の間では"延命"ついて話すことって、意外と定番のネタになっているんですよ。
体が弱って死ぬばかりでなく、交通事故などの死は突然、予期なく訪れます。たとえば、『お母さんに伝えておきたいのだけど、もし私が植物状態になったら、無理な延命はして欲しくないと思っているの。でもお母さんが先生から"もう無理"といわれたら私たちは凄く迷うと思う。一応お母さんの考えを聞かせて』そんな聞き方をすれば聞きやすいのではないでしょうか。財産などについては『預貯金の金額は見せなくてもいいけど、まとめとおいてね』といっておくのもいいでしょう。
終活を考えたとき、年齢は関係なくまずは延命について知ることが大切です。今、ご高齢の方が入院すると、生死に関わらない場合でもまず、『延命はどうするか』を聞かれる傾向があるんです。私のもとにも、そのような相談をいただくケースが増えてきました。でも、病院は命を救うところなので、自分が思っている延命とは全然違う方向に行くことがあるということを知っていただきたいですね。そうした部分をきちんとご説明するのが私の仕事でもあります。
子どもとしては、親の延命については考えさせられることも多いでしょう。でも、親が意思表示をしてくれれば、延命を選ばなかった時でも心の負担が少しでも減りますよね。それがエンディングノートのいいところなんです。それを基本に、子どもたちがどうするか考えられる。まずは、ご自身のことも含めてご家族で"延命"について考えてみてはいかがでしょうか」
終活を語る上で、エンディングノートの必要性がよく分かりました。まずは、自身のいざというときの「延命」について考えてみてはいかがでしょうか。それと並行して、銀行カードやネット関連のパスワード、写真データの整理もお忘れなく。
今後も番組では、柴田さんから「人生のエンディング」に関する注目すべき情報をお届けしていきます。OAもどうぞお楽しみに!
取材協力:エンディングデザインコンサルタント柴田典子さん
http://officeshibata.jp/profile.html
ブログ「柴田典子の葬儀の話でごめんなさい」
おもな著書『3冊でできているエンディングノート「アクティブノート」』(シバタ・オフィス出版)、『喪主ハンドブック―90分でわかる!』(主婦の友社)、『家族・親族のお葬式前後にやることがわかる本』(PHP研究所)。3/5に『人生の最期に迷惑をかける人 かけない人』(PHP研究所)がリリース。