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「職人」であり「ビジネスマン」? 現代をサバイブするメディアアーティスト・市原えつこ

ライフ

テレ東プラス

2019.8.1

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「喘ぐ大根」こと「セクハラ・インターフェース」が、そのシュールなエロさで大いに話題を呼んだ、メディアアーティストで「妄想インベンター」の市原えつこさん。巫女の衣装に身を包み、次々とインパクト満点のアート作品を生み出す彼女だが、元Yahoo! JAPANのデザイナーという経歴の持ち主だ。古巣で培ったマーケティング感覚を活かし、アーティストとして能動的に発信を続ける市原さんに、現代のクリエイターに必要なサバイバル戦略について話を伺った。

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女子高生やTikTokerも"メディアアーティスト"?


──「メディアアーティスト」って、耳にはするのですが、実際どういうものなんでしょう?

市原えつこ(以下、市原):ものすごくざっくり説明すると「先端テクノロジーとアートを掛け合わせた活動をしている人」です。もっと本質的なことをいうなら、メディアテクノロジーが私たちの社会や人間をどのように変えていくか、といったテーマに焦点を当てて自覚的に表現活動を行うのが、メディアアーティストだと思います。

昔は美術って、キャンパスに描くとか、彫刻だとか、方法が限られていたんですけど、今のメディアって日々変化しているじゃないですか。メディアがいかに人間や社会のあり方を変えるのか......テクノロジーを使った表現という意味なら、もはやTikTokerもメディアアート感あります。誰もが当たり前にメディアを使った表現をしているこの時代、SNSの独自の使い方を発明していく女子高生たちなんかは、かなりメディアアーティスト的だと思うこともありますね(笑)。

例えばTikTokerでも流行にただ乗っかってダンス動画をアップするだけじゃなくて、メディアの特性をメタ的に捉えてハックしたり、新しい使い方を見出している方にはメディアアーティスト性を感じます。

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──そういわれると親しみが持てますね。もっと"エンジニア的"なものかと思っていました。

市原:そうですね。もちろん、職能として高度なエンジニアリングを得意とするタイプのアーティストも多いですが、私自身も文系出身のメディアアーティストですし、いろんなタイプのプレイヤーが出てきていると思います。海外にはロサンゼルスでロボットを開発したり漫画を描いたりしながらYouTuberもやっている、非常に多才な女性アーティストもいらっしゃいます。

取引先が3社必要なのはアーティストも同じ


──市原さんは巫女の格好で活動されていますよね。

市原:目に見えない世界とか、現代社会で隠されているものとか、人間の信仰とか宗教とかがずっと私のテーマなんです。それを例えばカチッとしたスーツを着ながら表現するのって、違和感があるじゃないですか? 一見してテーマが伝わりやすいので、本職の巫女さんが着ている衣装で活動してるんです。

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ちょっといやらしい言い方をすると、キャラクターとして認知してもらいやすいという理由もあります。私はそんなに特徴のある顔をしていないので(笑)。いつもこれを着てると、アイコン化して覚えてもらいやすい。


──イメージ戦略なんですね。

市原:注目を集めると、自分のやりたいことがやりやすくなるので。誰だって、わかりやすくビジネスになることはやりたいじゃないですか?

でも、私は「奇祭をやりたい!」とか、一見何の役に立つのかよくわからないことをやっている自覚があるので(笑)。ニッチで酔狂なプロジェクトにちゃんとお金も人も集めて実現するには、逆にある程度は戦略的になる必要がありますね。定期的にメディアに出ているのも、その方が何かとプロモーションしやすいから、好きなことがやりやすくなる。

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大昔は、アーティストや音楽家って1人大きなパトロンがいたらよかったかもしれないですけど......現代では、大口のパトロン1人との癒着ってリスキーですよね。お金のためにパトロンのご機嫌や意向を伺ってばかりなのは嫌だし。アーティストに限らず、フリーランスで働くにも、大口の取引先1社の状態は非常に危ない。フリーランスや中小企業の行動原則として「取引先を最低3社は持て」って言いますけど、アーティストも同じです。

もちろん、メディアに出ると、思わぬところで物議を醸したり叩かれることもあるし、いいことばかりではないんですけど。他人から見てよくわからないことを「どうしてもやりたい!」という変な人は戦略的に使うしかないですね(笑)。

──クリエイターはフリーランスの極みなんですね......‬。

市原:クリエイターって職人でありつつ、タレントのような人気商売の側面もあるし、同時にビジネス事業者として経営やマネジメントもできないといけないので。

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拡散しやすく燃えやすいTwitter


──SNSなど、よく使うツールはなんですか?

市原:私の場合だと、ビジネスの用途で利用しているのはFacebookです。新規の案件や取材のお申し込みをFacebookのmessenger経由でいただくことも多いですね。

Twitterは情報を拡散するには最適なんですけど、ダイレクトにお仕事に繋がるかと言われると少し違う気がしていて。Facebookは顔見知りや業界の人に向けた発信ですけど、Twitterはもっと薄く広い、不特定多数の層に届けるようなイメージです。1つの投稿がバズるとフォロワーがガツンと増えたり、ファンの方が可視化されたり、コミュニケーションをとりやすいツールですね。

──Twitterで「これがウケた!」みたいな作品ってありますか?

https://vimeo.com/41101694
(セクハラインターフェース動画)
※音が出ます。

市原:最初に拡散されたのは、触ると大根が喘ぐ「セクハラ・インターフェース」ですね。2015年につくった「デジタルシャーマン・プロジェクト」は、2012年に「セクハラ・インターフェース」を発表したときより、SNS上での発言に対して慎重になっていた気がします。

──慎重になるというのは?

市原:平たくいうと意図せぬ炎上を防ぐためのリスクマネジメントで、まずは言葉選びですね。「家庭用ロボットに故人を宿らせる」って、言葉を間違えると死者への冒涜だと思われかねないので......。自分自身、祖母を亡くした直後に作った作品だったんですけど、実際に大切な人を亡くした人が、「この情報を出した時にどう感じるか?」「本当に傷つく人はいないか?」というのは、すごく気をつけました。

「セクハラ・インターフェース」を発表した2011年ごろは「ソーシャルメディアがこれからくるぞ」という時期で、Instagramもまださほど普及していない、Twitterの黄金期。おもしろがってくれる人にどんどん繋がっていった感触がありました。

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マーケ感覚と営業精神はクリエイターにも


──「セクハラ・インターフェース」を拝見すると、大根そのものが妙にエロい気がしてきます(笑)。

市原:そうなんですよ(笑)。かつて日本の農村では、村の女性に野菜を渡して、握り返したら夜這いOKっていう風習があったり、子宝安産で有名な待乳山聖天では大根がアイコンになっていたり、性と大根って意外と繋がってたんです。

──なぜかわかる気がします......‬。

市原:その「なんかわかる」という感覚が日本人的なんだと思います。「大根にエロスを感じる」なんて現代じゃ大きな声では言わないですけど、風土に染み付いた感性なんじゃないかな。

「大根を喘がせる」ってなんとなく恥ずかしいじゃないですか? 私は実はゴリゴリのフェミニストで、大学時代に女性に対する性的な欲望の押し付けへの怒りゆえ、逆に辱めたい気持ちがあって(笑)。当時私の持っていたフェミニズム思想と日本の性文化には相容れない部分も多くて、そもそもはそういうエロが嫌いで気持ち悪いから敵を知るために調べはじめたんです。でも、性器崇拝の神社とか、秘宝館とかいろいろ行くにつれて、だんだん「これはおもしろいんじゃないか?」と思いはじめて(笑)。

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──それまで言語化されていなかったけど、みんなが共感できることだったからバズった。

市原:当時は意識的じゃなかったんですけど、そうですね。あとは、想像以上にみんなタイトルに食いつくんだなって。「セクハラ・インターフェース」は「セクシュアル・ハラスメント」という深刻な問題を「セクハラ」という軽くてポップな言葉に略しちゃう感じがいかにも日本っぽい、と皮肉をこめてつけたタイトルだったのですが。こういった意味がわからないようものでも、意外とおもしろがって取り上げてもらえました。「セクハラ・インターフェース」がウケたことで、その後も戦略的に作品を広めていこうと思いました。

──戦略的というと?

市原:タイトルをつけるときに、水と油みたいな、逆の属性の言葉をあえて組みあわせてみたり。もともと学生時代にコピーライティングの勉強もしていたので、その学びは生かさせている気がします。広告代理店的な感覚はアーティストにも重要かもしれません。

昔は、アーティストやクリエイターって、大きな会社にマネジメントされるのがスタンダードだったと思いますが、今は個人がメディアで発信してビジネスを作って、ファンを獲得できますから。表現者としての純粋さやカリスマ性だけじゃなくて、マーケティング感覚や営業精神を多面的に持っていく人が増えていくんじゃないかな。そういう人の方が生きていきやすい気がします。

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100年先の欲望を先取りする


──SNSでハネる人とそうじゃない人って何が違うんでしょうか?

市原:私もすごくSNSに強いわけではないのですが、Twitterの「トレンド」に合わせて、時事性に乗っかった投稿している人は強いですよね。あとは、恋愛モノとか、共感されやすい題材を扱ったり。歌手の西野カナさんが若い女の子にマーケティングして、共感度の高い歌詞を書いているって素晴らしいなと思ってます(笑)。ビジネスとして真っ当なやり方だと思っています。

──トレンドの波をすかさず抑えることが重要なんですね。

市原:もしくは、これから、潜在的に「みんながこういうことを欲しているんじゃないか」っていうのを察する洞察力ですね。話題性だけだと徐々に飽きられてしまうので、違う切り口をみつけることは大切だと思います。

大学生の時、尊敬している先生が「アーティストは、その変態性から100年後の人間の欲望を先取りするんだ」といっていて、すごく納得しました。例えば、オペラで、人造人間を溺愛してしまう男の話を授業で紹介していただいて。今だとまあ想像できる話なんですけど、数百年前の戯曲ですからね、鳥肌です!

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自分がやりたいことをやりつづけるためには、自分が楽しいだけではいけない。
一見、浮世離れした風貌だが、そんな印象含めて戦略的に自己イメージを操作している市原さん。
後日公開の後編では、満を持して動き出した彼女の新たなプロジェクト「仮想通貨奉納祭」から、ライフハックだという生き霊払いの方法など、ちょっとオカルトな話までたっぷりと聞かせてもらった。

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プロフィール
市原えつこ
メディアアーティスト、妄想インベンター。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。2016年にYahoo! JAPANを退社し独立後、フリーランスとして活動している。主な作品に喘ぐ大根「セクハラ・インタフェース」「デジタルシャーマンプロジェクト」(文化庁メディア芸術祭優秀賞、アルスエレクトロニカ栄誉賞)など。

現在、キャッシュレス時代の新しい奇祭「仮想通貨奉納祭」実現に向けて、クラウドフェンディングを実地している。
https://readyfor.jp/projects/kisai

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