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「孤独死」の現場をミニチュアで再現する若き女性社員、その理由

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テレ東プラス

2019.10.10

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今年8月に発刊された書籍『時が止まった部屋』(原書房)が話題を呼んでいる。著者は孤独死やゴミ屋敷などの特殊清掃をする「遺品整理クリーンサービス」(東京・板橋区)に勤める、社員の小島美羽さんだ。

国内における孤独死は、年間で約2万8千件にも及ぶという(※)。その現状を多くの方に知ってもらいたいと、ミニチュア模型を使って表現している小島さんに、その意図を現場の様子と合わせてお伺いした。

※民間の調査機関「ニッセイ基礎研究所」が算出したもの。「自宅で死亡し、死後2日以上経過」した状態を孤独死と定義している。

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孤独死の現場に、残された猫たち


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──このミニチュア模型には4匹の猫が再現されています。残されたペットたちはどうなるのでしょうか。

「孤独死の部屋には、犬や猫などペットたちが残されているケースがよくあります。飼い主の死後、わずかなエサや水で耐えて生き延びている姿は、なんとも哀れでなりません。驚くのは、ご遺族の方の多くが『殺処分してください』とおっしゃることです。引き取りたくてもペット不可の物件にお住まいの場合もあれば、動物アレルギーがあるなど、それぞれのご事情があることと思いますが......。それにしても引き取り手がないのが現状です。犬のもらい手はよくありますが、猫はほとんどなく、保健所に連れて行かれることが多いので心が痛いです。孤独死と残されたペットの問題は解決の糸口が見えないのですが、弊社では殺処分されてしまうことがないよう、新しい飼い主さんを探しお引き渡ししています」

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──ペットが快適に過ごせる環境とは思えないほど、室内にゴミが散乱していたり、汚れが酷い状況です。こうした現場は多いのでしょうか。

「その通りです。ペットを飼っていて孤独死した人の多くが、多頭飼いしている傾向がみられますね。そして、大抵の場合、室内がゴミ屋敷化しています。このミニチュアでも再現しましたが、床一面にペットたちの糞尿がそのままとなっていることが多いですし、悪臭も相当なものです。キャットフードをあげた残骸も、そこかしこに散らばっていました」

体液が物語る、故人の最期の瞬間


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──最新作となるトイレのミニチュアですが、こちらはどういった状況だったのでしょうか。

「こちらはヒートショックで突然死された方の現場をミニチュアにしました。ヒートショックとは、温かいところから寒いところに行くなど、急激な温度差が血圧を変動させて起こる現象です。トイレでいきんだ時には、急激に血圧が上昇し、ヒートショックが起こりやすいようですね。この現場のように、節約のためか、暖房便座のコンセントが抜けた状態にあることも多い。寒い冬の時期にヒヤッとする冷たい便座の上に座ることで、突然死を招いてしまうこともあります。私はそうした予防策や注意喚起も伝えたくて、今回このミニチュア制作に取り組みました」

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──とても整頓されたステキなお部屋ですが、椅子の上に生々しい跡が。こちらでは何が起きたのでしょうか。

「こちらは高級マンションの一室で、経済的にも豊かな男性が孤独死した現場です。マンションの場合、気密性が高いため死臭などが室外に漏れ出すことがあまりないので、発見が遅れるケースが多い。しかも、この故人の場合は、家族と何年も疎遠になっていたようで、発見までに一ヶ月もかかったようです。持病があったのかはわかりませんが、椅子に座ったまま亡くなったことが伺えます」

遺品整理の仕事に就き、思うこと


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──27歳という若い女性が、どうしてこのような過酷な仕事に就こうと思われたのでしょうか。

「実は私の父も危うく孤独死するところだったことが、この職業に就くきっかけになりました。両親の別居により私は父親と2ヶ月ほど離れて暮らしていたのですが、高校生の時に母親が離婚の話し合いのために住まいを訪れ、そこで脳卒中で倒れている父親を発見しました。その後、父は亡くなってしまったのですが、母が家を訪れなければまちがいなく孤独死していたはずです。『そういう悲しい現状があるんだな』と身につまされたことが、この仕事に対する正義感につながったように思います」

──「正義感」とおっしゃいましたが、遺品整理の現場で思うのは故人のためでしょうか、それともご遺族のためでしょうか。

「最初は『故人の方のため』という思いが強かったです。自分が亡くなった後の部屋の状態も気がかりでしょうし、持病や事情があってセルフネグレクトになって、ゴミ屋敷化することも多い。そんな誰にも見られたくない生活の現状を、早くキレイにしてあげたいと思いました。もちろんその思いは今もありますが、仕事に就いてから数年が経った今では、ご遺族の方が早く前を向いて生きて欲しいという思いが強くなりました」

──孤独死の現場は非常に多いと聞きます。過酷な現場だけに、人手不足なのではないかと想像してしまうのですが。

「そうですね。就職を希望される方の多くは『清掃業なんでしょ?』という軽い気持ちで、誰にでもできると思いがちです。そうした方は、入社してもすぐに辞めてしまいます。私たちが扱っている案件は、まさしく"特殊"な清掃業。亡くなられた方の生活を感じることでもありますし、時には楽しそうな笑顔がおさめられた写真を拝見することもある。そこで過ごした故人のことに思いを馳せ、心を込めて作業するという気構えと寄り添える気持ちがないと、務まらないのではないかと思います。確かに大変な仕事ではあります。時にはご遺体の一部に遭遇することもあります。しかし、誰かがやらなければ、その方も浮かばれません。残された物をざくざく捨てればいいというのではなく、生きた証を尊重し、今を生きる人たちにつなげてあげる大切な仕事なんだということが理解できる方に、賛同してもらえたらうれしいですね」

書籍『時が止まった部屋』にこめた想い


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──『時が止まった部屋』(原書房)が発売されましたが、ここにはたくさんの想いが綴られていますね。

「私はミニチュアを制作することで、現状を知って欲しいと、誰にでも起こりうるからこそ考えるきっかけになって欲しいと思っています。例え家族とは疎遠になってしまったとしても、住まいの周辺にいる人たちとのコミュニケーションを大切にしてもらえたら。ヒートショックなどの危険を回避してもらえたら。持病がある方などは、自分の身に万一のことがあった場合、ペットのその後を考えてもらえたら。これまではミニチュアで表現してきましたが、今回は模型だけでは伝えきれなかった事例や思いを書かせていただきました」

──そもそも、どうしてミニチュアを制作しようと思ったのでしょうか。

「この現状を多くの方に知って欲しいという思いから、『エンディング産業展』に展示したいと独学で模型制作をはじめました。今年も新作を持って参加させていただいております。制作をはじめた当初は、何から作り出したらいいのかわからないほどでした。しかし、『精巧に作らなければ意味がない!』と奮起し、ホームセンターなどで材料を揃え、壁に本物の壁紙を使うなどして、なるべく共感できてリアリティが伝わるように工夫しています。普通に生活していれば、孤独死の現場に遭遇することはまずありません。しかし、この社会問題の現状を知ってもらい、ご自身の生活に置き換えて考えてもらえたらうれしいですね」

kodokushi_20191010_08.jpg▲「第5回エンディング産業展」(2019年8月20日~22日、東京ビッグサイト西2ホール)

小島さんがミニチュアを通じて伝えたかったこと。それは、会社の宣伝でも自身の作品コレクションでもなく、また亡くなった方へ捧げる鎮魂のためでもない。今を生きている人すべてに対する警笛なのだ。

人は誰でも死ぬ。しかし必ずしも誰かに看取られて死ぬとは限らない。だからこそ大事にしなければいけない生き方がある。それは、自分を気にかけてくれる人とのコミュニケーションだ。

最後に、小島さんはこんなことを口にしていた。

「私は孤独死っていう言葉をあんまり使いたくないんです。一人家の中で亡くなったからと 言って孤独だったとは限りませんし、ご自身が望んで自宅で亡くなる方も多いので、自宅死の方がふさわしいのかなと。その方が生きている人たちに自分のこととして、すんなり受け止めてもらえるんじゃないでしょうかね」

【プロフィール】
小島美羽
1992年埼玉県生まれ。2014年より遺品整理クリーンサービス東京(株式会社ToDo-Company)に勤務し、遺品整理やゴミ屋敷の清掃、孤独死の特殊清掃に従事。孤独死の現場を再現したミニチュアを2016年から独学で制作し、メディアやSNSで話題に。2019年8月には、初書籍となる『時が止まった部屋』(原書房/1400円)が発売された。

【取材協力】
遺品整理クリーンサービス(株式会社ToDo-Company)
株式会社 原書房

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