「人生、顔じゃない」のに整形は増加...”矛盾”のわけ、識者に尋ねた
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Q.データによると日本は整形大国。一方で、ルッキズムを問題視する意見も少なくありません。矛盾しているようにもみえます。
「一概に矛盾しているとはいえません。ルッキズムとは、人種や年齢、障害を持つ人などに対する偏見や差別のこと。単に『美男美女か、そうでないか』の話ではなく、もっと根深い問題です。現在はルッキズムという言葉が日常化し、そのまま美容整形と直結させる考え方が目立ちます。ですが、自身を美しく見せたい願望とルッキズムを同じ俎上(そじょう)に上げるのは、少し乱暴な気がします。
欧米の調査では、労働現場で従業員の外見が雇用やキャリア、給与に影響するとの結果が出ています。ですから日本でも整形をする、イコール、社会的に得をしたいのだと早合点されがちです。しかし、私が約20年の調査を断続的に行うなか、どうやら動機はそこだけではないことが明らかになってきました」
Q.その違う動機とは、どのようなものでしょうか。
「自己満足です。美容整形の動機を繰り返し調査すると、有力と想定されていた『モテたい』『劣等感の克服』以上に『自己満足』と回答する人が多いことがわかりました。実際、インタビュー対象者のなかには『教えるまで誰も変化に気づかなかった』と話す人もいました」
Q.社会的に自分が得をしたいから施術を受けるわけではない?
「もちろん全員が自己満足のために受ける、という極論ではありません。美醜による差別に苦しまれて受ける人も、異性の目を意識して受ける人もおり、モチベーションは千差万別で複合的ということです。その人の持つ多様な願望のなかには、社会的に卓越化したいと望む部分が含まれているかもしれません。ですが、簡単に一元化はできません。
むしろ調査では『他者を出し抜きたい』よりは『受けてみて良かったよ』と家族や友人で勧め合い、シェアする傾向が女性を中心に強かった。若い層の一部では、シェアする感覚すらなく『そういえば、この前受けたよ』と、日常的な会話に登場するほどカジュアル化しています」
Q.なぜ、そこまで美容整形の平均的ハードルが下がっているのでしょうか。
「いくつかの社会的要因がありますが、一つは美容医療機器の発展です。90年代にはレーザーの美容機器が日本の各病院に輸入され『美容外科手術』のようにメスを入れる本格的な整形ではなく、レーザーや注射を使う『美容医療』が社会に浸透していきました。『プチ整形』なる言葉が生まれたのもこのころです。米国人と異なり、自然な効果を好む日本人の感覚にも合っていたのでしょう。
もう一つの大きな要因は、ソーシャルメディアやウェブの発展です。現在の調査では、10〜20代の女性の過半数が『美容整形情報をインターネットから得た』と答えました。また、先ほど整形の情報を家族や友人で共有するとの話をしましたが、同じ現状がSNS上でも行われています。そして、SNSに対する感想も総じて好意的という調査結果が出ました」
Q.時代の移り変わりとともに、どんどん整形が身近になっていく?
「是非は別として、身近になると思います。いまの若い層がより大人になったら、社会全体が『整形して何が悪いの?』いう方向に進む可能性はあります」
Q.一方、アンケート結果では、中年層の男性を中心に整形への拒否反応が多くみられます。75%以上が「整形を受けたくない」と答え、自由回答では「整形はくだらない」などの意見もありました。
「その結果は、従来社会で語られてきた整形に対する主流の言説だとも考えられます。ですが『美容整形する人にどんな印象を持つか』との質問には、最も多い34%が『どちらともいえない』と答えている。整形への嫌悪感は強くないと考えられます。またおそらく、10〜20代を中心にアンケートを取れば、もう少し整形に対して寛容的な意見が多くなると予想できます」
Q.さらに整形が身近になると、世の中はどうなっていくのでしょうか。
「もしも『整形して何が悪い』が潮流になれば、今度は『なぜあなたは整形しないの?』と圧力をかける差別が生まれるかもしれません。かつて整形に嫌悪感の強かった時代には、施術を受けた人が陰口をたたかれたように。誰もが整形をしやすい時代が訪れたとき、したくないという選択肢も尊重しなくてはいけません。
美容整形がルッキズムを促進するのではとの意見は、これまで何度も耳にしました。答えとしては、そういう側面もあるかもしれないとしか言いようがありません。では、美容整形をする人を差別するのはいいのかと。
世の中にはいろいろな美の価値観があっていいし、さらにいえば『美しい必要はない』という考え方もあっていい。一方で美しさを目指し、美容整形をする人がいてもいい。一重まぶたより二重が優れているなどと美を一元化せず、美の基準をもう少しバラエティーに富んだものにして『そこから漏れる人を排除しない社会』を目指すべきだと思います。要は多様性を受け入れる気持ちが大事。自分と違う人がいていいよねと皆が広い心を持つのが大切ではないでしょうか」
【関西大学総合情報学部 谷本奈穂(たにもと なほ)】
大阪府出身。関西大学総合情報学部教授。大阪大学人間科学部卒業、同大学院修了、博士(人間科学)。著書に「恋愛の社会学」(青弓社)、「美容整形と化粧の社会学」(花伝社)、「美容整形というコミュニケーション」(花伝社)など。
(取材・文/森田浩明)



