【公立小学校の実情】「動くな・しゃべるな」が子どもを追い詰める…『足型をはめられた子どもたち』とは?

長い夏休みが終わり、いよいよ新学期がスタート。この時期、学校生活や子育てに不安を抱える親御さんも多いのではないでしょうか。
いま教育現場では、子どもたちが“規律”という名の足型にはめられ、自分の考えや個性を失っていく現象が起きています。中には、「この位置に足を置いて座れ」という「足型」を設置している小学校も…。
そうした教育の歪みは、成長後の不登校や社会での生きづらさに直結してしまうことも――。

「テレ東プラス」は、教師の指導者として全国の小学校で飛び込み授業(示範授業)を行う菊池省三先生を取材。著書『足型をはめられた子どもたち』(講談社)が話題の菊池先生に、子どもの豊かな発想の育み方、2学期を迎えた親のあり方について、じっくりお話を伺いました。
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「型にはめる」教育が引き起こす、子どもたちの生きづらさ
――菊池先生の本を通して公立小学校の現状、多くの学級崩壊が起きているという実情を知り、衝撃を受けました。菊池先生からご覧になって、一番危機を感じているのはどういったところでしょう。
「子どもたちが多様化して先生方の指導が難しくなる中で、それを『型にはめる』ことで抑えつけようとする空気が、学校の現場で強くなっていることに危機感を感じています。
『動くな・しゃべるな・座っておけ』という昔ながらの残像にとらわれ、型にはめようとする教育が、いじめや不登校、学級崩壊、ぎくしゃくした人間関係といった諸問題の背景にあるのではないかと。
私は“話を聞いていれば成績は伸びる、できないのは本人のせい”という考え方を変えたい。子どもに責任を押しつけるのではなく、まずは学びの環境や関わり方から変えていきたいと思っています。
学校は人と人が対面でプラスの関わりをし、コミュニティを作る場所です。それが機能せず、言われた通りに動くだけという指示待ちのまま社会へ出ると、対人関係をうまく築けず、生きづらさを抱えてしまうことも。いじめや不登校の対処療法ばかり追うのではなく、予防として“コミュニケーション力を育てる教育”へ舵を切ることが、いま最も重要だと感じています」
――本の中でも、先生がパッと見た瞬間、その子どもがどういう特徴を持っているのか、何を考えているのか、察しているシーンが多く登場します。型にはまって意見が言えなくなっている子どもには、どのような表情または特徴が見られるのでしょうか。
「私が質問をした時、子どもの顔を前から見ると、明らかに2つに分かれます。“習ったかな?”“どこかの本に書いてあったかな?”と外側に答えを見つけようとする表情の子どもが多い学級と、“正解はなくて自分で考えて作るんだ”と内側を見つめている表情の子どもが多い学級。後者のように“一人一人違っていい”という教育が豊かな学級は、子どもたちの目線や表情から瞬時に分かるものです。
これは家庭も一緒で、子どもは素直なので、テストで100点を取りたい、成績が上がればいいと純粋に思っているわけです。ただし、家庭での教育や声かけを一歩間違えてしまうと、子どもは“親や先生から投げかけられるのは、すべて正解・不正解がある問いだ”と受け取ってしまい、一人一人違って当たり前という意識や、自分自身の意見や個性を失ってしまいます。大人は注意が必要です」
▲菊池先生の飛び込み授業 ――これだけ多様性と言われながら家庭に浸透しておらず、親も規定に沿った行動を喜んでしまう…そんな傾向があるのでしょうか。
「そうですね。本当にそうだと思います。そしてその背景には、少子化が進み、親が相談できる人が身近に存在せず、ネットにあるデータやエビデンスに飛びついてしまうことも影響していると考えます。
そういう教育に関する情報は一般性を含んでいるので、我が子に合うかどうかは別問題。親もまた、外に答えを探して不安になっている状態なのです。
だからこそ、多様な意見に触れたり、吟味したりすることが必要。学校と家庭と地域が連携しないと、望ましくない状態になってしまいます。
私自身、かつて大変な状況にあるお子さんを担任した際、一生懸命関わり、専門家の知識も借り、それらをミックスしてその子に合った指導を模索しました。“一生懸命やる・専門知識を得る・その子に合った方法を考える”この3層こそが教育の不易だと考えます」
――『規律を守らせる指導』と『子どもを枠にはめる指導』の境目はどこにあるのでしょう。
「大きな分岐点は、子どもの内側(思考)をしっかり見ているか、表面上の状態だけを抑え込んでいないか。例えば、授業中にもぞもぞ動いたり余計なことを言ったりする子がいますよね。型にはめる指導では『静かにしなさい』と、その子の動きそのものを取り上げてしまいますが、実はその子の内側では、すごく頭が働いていて、話を聞いて考えているからこそ反応しているということも。
『動くな・しゃべるな・座っておけ』という指示にただ従わせるのは、何も考えない状態を強いる『型にはめる指導』です。たとえ型からはみ出すようなユニークな発言や動きであっても、『ちゃんと考えて聞いているね』と先生がプラスに捉え、すくい上げ、“授業のドラマ”に変えていくのが本来の指導のあり方だと思います。
気になることをその都度注意をする、それも大切ではありますが、短所をいいように捉えてひっくり返していくことで、結果気になることも減っていく…。大人が我慢して待ち、そういうストーリーをつくってあげることが必要です」
▲「菊池道場」で学ぶ先生方が“授業バトル”を展開する「菊池道場全国大会」子ども同士のプラスの評価が、心のあり方を180度変える
――菊池先生のコミュニケーション教育の一つに「ほめ言葉のシャワー」がありますが、単純に先生がほめるだけでなく、「友だち同士でほめ合う」という取り組みも素晴らしいと感じました。
「子どもは普段、“自分は親や先生に評価される存在だ”と捉えがちです。しかし、それが減点法になって、“僕はダメなんだ”となる傾向が見えたら、気をつけなければいけません。
子ども同士でお互いをプラスに評価し合う体験をさせると、180度発想が変わるんですよ。自分の言葉で相手が喜び、自分自身も変わっていける――そして成長し合うことができる。『動くな・しゃべるな・座っておけ』と型にはめる教育とは真逆ですよね」
――コミュニケーション能力の不足は、将来的な生きづらさや不登校などにもつながってしまうのでしょうか。
「生きづらさを抱えて不登校や引きこもりになる、その原因はさまざまですが、コミュニケーション力がつけば回避できることも多いと信じています。
いまの教育界はいじめや不登校に対して対処療法ばかりやっていますが、もっと前向きな予防としてコミュニケーション力を育てることが大切です。ホームルームの10分で『ほめ言葉のシャワー』を取り入れる、子どもが動いた時、先生がプラスのフォローを入れるなど、特別な時間を取らなくても、大人の意識一つで変えていけることだと思います」
――家庭での声かけなど、親が意識した方がいいことがあれば教えてください。
「コミュニケーション力は経験しないとつかないので、まずは親が子どもの気持ちを代弁せず、本人の言葉で言わせることですね。
例えば高学年になると『学校どうだった?』と聞いても『別に』と返ってきて会話が減るという悩みをよく聞きます。しかし子どもにアンケートを取ると、『親の質問が抽象的すぎて答えようがない』『幼稚園児扱いされている』と感じていて、実は『別に』は自立に向かって成長している証であり、喜ばしいことなのではないかと。親の関わり方も、子どもの成長に合わせて変えていかなければいけません。
また現代では、スーパーやコンビニででもセルフレジ化が進み、一言も話さなくても買い物ができてしまう無言化社会です。だからこそ、家族での移動や買い物の場面などであえて言葉を交わす。例えばお願いをする、感謝をする、謝罪をするなど社会的に必要な言葉を使う経験を意識的に与えることが必要です。それらを親が先回りして代弁してしまうと、子どもが成長する最大の機会を奪ってしまいます。
元来、人間関係は濃いものです。社会に出たら、打ちのめされて、立ち上がってまた打ちのめされる…そんなこともあるでしょう。そういう経験を家庭でも学校でもつくらず、腫れ物に触るような感じで、さも子どもを大切にしているように見せてはいますが、世の中そんなに甘いものではありません。ですから、時には学校や家庭で“濃い生活・関係”を仕組んであげるのが大人の責任かなと思います」

――長い夏休みが明けて2学期が始まりました。不登校が増えやすい時期でもありますが、読者にアドバイスをお願いします。
「ビリギャルの小林さやかさんもおっしゃっていましたが、子どもたちは『たった一人でもいいから、自分のことを見てくれている』と感じることができたら、居場所を感じて頑張れます。家庭では親御さんが『どんなことがあっても大丈夫。見ているよ、信じているよ』という思いで見守ること。どんなに大きくなっても、子どもは親の顔を見た瞬間、ホッとするものです。
あとは、ちょっとした雑談や会話を交わす機会を意識的につくってほしいですね。テレビで流れるニュースなどはとてもいい材料になると思います。
さまざまな人たちと会話できるようになれば、生きるスペースを広げることにもつながります」
――最後に、日々現場で葛藤しながら頑張っている先生方への思いをお聞かせください。
「いまの先生方を見ていると、何か言われるのを恐れて踏み込めない空気が相当強いと感じます。足型をはめられた子どもたちと同様に、先生方も窮屈になっている状態。
かつては保護者の方が『若い先生は私たちが育てなきゃ』と温かく支えてくれる文化がありました。クレームを入れる、それに怯えるのではなく、“子どもの幸せ”という共通の目的に向かって、保護者も先生も互いに育て合い、良い関係性を築いていってほしいなと切に願います」
▲「足型をはめられた子どもたち」(講談社)【菊池省三 プロフィール】
1959年、愛媛県生まれ。山口大学教育学部卒業。2014年度まで北九州市立小学校の教諭を務めた後、教育実践研究家として活動を始める。
全国の国公立小学校に招かれ、2026年時点で3000時間以上、飛び込み授業(示範授業)を行っている。教育実践研究サークル「菊池道場」主宰。8つの自治体の教育アドバイザーを務める。講演は年250回に上る。
著書に、『新装版 授業がうまい教師のすごいコミュニケーション術』(学陽書房)、『学級崩壊立て直し請負人 大人と子どもで取り組む「言葉」教育革命』(新潮社)など、共著に『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)などがある。
NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」や日本テレビ系列「世界一受けたい授業」、ドキュメンタリー映画「挑む」シリーズなど多数出演。
9月12日(土)に「菊池省三先生 教育セミナー in 岡山倉敷」を開催。
(取材・文/蓮池由美子)
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