土俵の鬼... 元琴欧洲率いる鳴戸部屋「弟子を強くするためなら」

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2018.11.16

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ヨーロッパ出身力士としては初の師匠、元大関・琴欧州こと鳴戸親方が率いる鳴戸部屋。鳴戸部屋が誕生したのが、去年の4月。あれから1年、弟子は9人に増えた。

部屋の出世頭は、虎来欧(とらきおう)。愛称はベンツィ。茶目っ気たっぷりの21歳。ブルガリアの元ジュニアレスリング・チャンピオン。親方自らスカウトに出向いた逸材だ。

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名古屋市緑区。大相撲名古屋場所に向けて、鳴戸部屋一行が、1年ぶりに帰って来た。拠点は、今年も支援者の経営する介護施設。去年は、駐車場の一角にテントの土俵を作り、宿舎は近くのアパートを借りていた鳴戸部屋。しかし今年は親方の人柄に惚れ込んで支援してきた介護施設の責任者、高野さんが建ててくれたのだという新築の稽古場!

1階は、エアコン完備の土俵。しかも2面。2階は宿舎。80畳の大広間だ。翌日、真新しい土俵での稽古が始まった。親方の前で新弟子たちは、初の名古屋場所に向け熱の入った相撲を見せる。

いよいよ虎来欧の出番。胸を合わせた兄弟子が激しく柱にぶつかった。稽古から、真剣勝負。一瞬たりとも気を抜けない。しかし親方は、虎来欧に不満を感じていた。どこか稽古に身が入ってない虎来欧に親方自ら胸を貸す。

前に出ない、楽をする相撲が親方は許せなかった。限界でも前に出る、心身が鍛えられ充実してなければ出来ないことだ。虎来欧の稽古不足は明らかだった。先場所、負け越しを喫した虎来欧は壁にぶつかっていたが、親方は安易に手を差し伸べたりしない。自分に何が足りないのか、もがき苦しませ、自分自身で気づかせる。それが鳴門親方のやり方。

そして、名古屋場所。先場所負け越していた虎来欧は6勝1敗。優勝には届かなかったが、やはりこの男、潜在能力が高い。8月、親方は弟子たちを連れ、ある場所へと車を走らせた。向かったさきは新潟県、十日町市。

到着したのは山奥のレスリング道場。親方はここで、相撲界では異例とも言える日大レスリング部との合同合宿を企画したのだ。朝7時、往復6.6キロのマラソンで一日が始まる。

稽古でマラソンするのは角界の非常識。型破りの鳴戸部屋の、真骨頂だ。マラソンの後は、おんぶして坂道ダッシュ。親方の体重は、130キロ。こんな稽古も、初体験。新鮮な取り組みに悲鳴をあげる身体。限界を決めるのが自分なら、限界を突破するのも自分。

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親方には「普段の相撲で鍛えられない筋肉を鍛えたい」という明確な狙いがあった。午後の練習は、道場へ。ブルガリアのジュニアレスリングチャンピオンだった虎来欧。実力は錆びついていない。現役のレスリング部を圧倒する。自分の相撲を見失い、苦しむ虎来欧。かつて頂点を掴んだレスリングで、何かを掴むヒントになるか。そして4日間の地獄の夏合宿が終わった。

新潟を訪ねたのには、夏合宿ともうひとつ理由があった。それは小中学生に相撲を教える「十日町相撲教室」。将来輝く原石を発掘したい、そんな場でもあった。現役力士と稽古できる絶好の機会。和やかな時間が過ぎていった。

そんな中、親方の眼光が鋭くなった。視線の先は、愛弟子・虎来欧。突如、予定にはなかった虎来欧との稽古が始まった。

「何で止まる?攻め続けないと勝てない」。
「名古屋所の前より、今の方が弱い」

現実を突きつける親方。

「いらんことするな...レスリングじゃないぞ」

足を取る技は相撲にもある。叱ったのは、やけっぱちな技に逃げる虎来欧の弱さ。親方は、虎来欧の心の弱さをぜんぶ吐き出させようとしていた。あえて大勢が見守る前で、自分自身と向き合わせたかった。

「泣くなよ!できるじゃないか!」

弟子を強くするためなら鬼にでもなる。でも本当は可愛い。それが親方の想い。鳴戸部屋の夏が終わりを告げる頃、秋場所の番付が発表された。虎来欧は三段目の28枚目。過去最高の順位に達した。次の場所の目標は6勝1敗か7全勝。目標に届けば、鳴戸部屋初の幕下力士が誕生することになる。

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