空手・植草歩 世界ランク1位の女王に訪れた突然の試練とは

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2020.2.18

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そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない

東京オリンピックで新競技に採用された空手。驚くのは世界での競技人口。300万人といわれる柔道に対し、空手はなんと6000万人。194の国と地域に普及している。競技には「形(かた)」と「組手」の2種類がある。形は攻撃と防御を一連の流れに組み合わせた演武で、採点で順位を決める。

植草歩、27歳。武器は"電光石火の中段突き"

組手は1対1で戦う。威力をコントロールした蹴りや突きが当たればポイントになり、その合計で勝敗を決する。威力をコントロールできず相手にダメージを与えた場合は反則になる。

「組手」女子の中でもっとも重い階級である68キロ超級で世界ランク1位に立つのが、日本の植草歩だ。

【動画】 東京五輪金メダル大本命 空手・植草歩/Humanウォッチャー

しかも2位とは大差をつけていて、国内はおろか世界でも敵なしと言える強さを誇る。武器は電光石火の中段突き。相手の視界から消えるように打つこの必殺技を武器にこの4年間、女王の呼び名を欲しいままにしてきた。現在、社会人5年目の27歳。母校の帝京大学を練習拠点としている。

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大学時代の運命の出会い

実は植草、東京オリンピックがなければ空手を続けるのは大学までのつもりだった。しかし大学時代にあった運命の出会いが植草を変えた。敬愛してやまない香川師範。とにかくめちゃめちゃ厳しかった。鬼の前で何度も泣いた。でも、だから強くなれた。

外国人に力負けし階級を下げたいと思ったとき、師範からは「逃げるな」と言われた。世界では小柄な168センチ。不利を気合いで補っている。

道場のほか、一昨年完成したばかりの大学の新施設にも通っている。オリンピック候補など有力選手だけが使えるジムには最新の機器が取り揃えてある。たとえば、重さ130キロのヘックスバー。この器具を使うと、腰を痛めることなく太ももの筋肉を鍛えることができるという。

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栄養士が考えたメニューで体重10キロ増

植草の階級には上限がないため大柄な海外勢が揃う。筋力アップに力を入れるのはそのためだ。同時に体作りも大切にしている。食事はもっぱら学食。栄養士が考えたメニューを食べ、この5年で体重を10キロ増やした。

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"空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ"と呼ばれて

生まれは千葉県。空手を始めたのは小学3年生で、ミット打ちの音が気持ち良くてのめり込んだ。小学5年生のとき全国3位になり、中学生では関東大会で準優勝した。この頃から注目されるようになったが、それは実力に対してではなくルックスに対してだった。

"空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ"その呼び名は嫌いだった。

大学時代にはあまりに厳しい稽古にもうやめると口にしたこともある。だがその先に、世界の頂点は待っていた。植草が世界選手権を初制覇したその年、空手は東京オリンピックの追加種目に決まる。

名実ともに日本空手界の看板選手になった彼女に、あのころの悩みはもう無い。

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昨年、突然の試練が...

だが、試練は何の前触れもなくやってくる。

昨年、二大会でまさかの初戦敗退。伝家の宝刀中段突きが全く決まらない。世界に研究され尽くしたその結果だった。2019年12月、沈滞ムードを打ち破るための格好の大会がやってきた。植草が4連覇を続けている全日本選手権だ。4連勝で決勝に進んだ植草の相手は、4歳年下で一昨年も決勝で当たった伸び盛りの選手。

上段への一撃で先制する。これまで敗れたことがない相手だけに、普通にやれば負けないはずだった。しかし、一瞬の出来事だった。相手の大技、上段裏回し蹴りを食らってしまった。攻めるしかない植草の勢いを利用し、相手はカウンターの刻み突きを繰り出し、さらに点差が開いて万事休す。

植草の5連覇は叶わなかった。

鬼の香川師範も試合を見守っていた。試合後、どれだけ怒られてもおかしくないと植草は覚悟していた。しかし、師範は意外にも植草に労いの言葉をかけた。肩がすっと軽くなった。背負い続けてきた看板をおろして、もう一度やり直そうと心に誓った。

東京オリンピック金メダルへの秘策

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年明け、植草はかつて通った高校の道場に足を向け、東京オリンピック金メダルへの秘策を練習した。それは全日本選手権決勝で相手にやられた前手の刻み突き。やられたからこそ価値がわかる。習得できれば得意の中段突きも生きてくる。

植草は「歩」という自分の名前が好きだという。重ねた歩みが東京オリンピックに通じていると信じている。

次の大会は代表をかけた戦い。夢の金メダルまで歩みを緩めるつもりは微塵もない。