「体脂肪率3%の男」体操・宮地秀享 人生の岐路に神様が下した審判とは

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2020.4.8

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写真:アフロ 宮地秀享

そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない

体操の技の進化は凄まじい。

かつてはウルトラC、スーパーEなどの呼び名があったが、それも昔話になってしまった。

今いちばん難しい技は「Ⅰ難度」世界で一つだけのⅠ難度、それが「ミヤチ」だ。

できるのは彼一人、宮地秀享。

【動画】体操・宮地秀享 世界最高難度の超大技を操り東京五輪金メダルを狙える逸材に密着

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自ら編み出したミヤチを武器に、世界の頂点に挑んでいる。目指すは東京オリンピック。

家の冷蔵庫には飲物だけ。減量のため食べ物は置かない

追いかけてわかったⅠ難度成功への鍵。体重を減らすことがそれほどまでに大切とは。

全てはオリンピックのため。

宮地は筑波大学の大学院生。年が明けた1月に取材は始まった。勝負の大会まであと2ヶ月。

2年前、宮地が世界で初めて成功させた新技は慣例によって「ミヤチ」と名付けられた。男子体操の技は全部でおよそ900。G難度には20以上、H難度には4つの技があるが、Ⅰ難度はミヤチ一つしかない。

そんな宮地の技の礎となっているのが168センチ、60キロの体格で体脂肪率3パーセントというこの身体。

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好きな食べ物はステーキ、寿司、ラーメンと、ごく普通。だからこそ陰には涙ぐましい努力があった。

大学の近く、家賃3万5千円のアパートで一人暮らしをしている。冷蔵庫には飲物だけで、食べ物は一つもなし。聞けば、減量のためあえて食べ物を置かないようにしているそう。

全ては唯一無二の必殺技、ミヤチのため。

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あり得えなかったオリンピック出場が現実味を帯びる

体操を始めたのは3歳。練習のぶんだけ上達できるのが嬉しくて続けてきた。大学まで、日本を代表するような選手ではなかった。オリンピックなんて夢のまた夢。

そんな宮地に一昨年、朗報が届く。東京オリンピックに種目別の個人出場枠が新設されることになったのだ。平たく言えば、団体枠は6種目をこなす選手の枠。対して新設される種目別枠は1つでも得意種目があればその成績で出場権を手にできる。

かつてはあり得なかった夢が、そこから現実味を帯びた。

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ミヤチ成功のために10グラムでも軽く

決戦の地、メルボルン。代表争いは事実上、宮地とライバル、二人の一騎打ちになっている。

本番2日前、ホテルでの取材が許された。

東京オリンピックを目指して2年、遂にこの大会で答は出る。

そして、そんな中でも続いていた体重との戦い。パックご飯と味噌汁を用意してあるが、今は食べない。大会が終わってから食べる。仲間たちは食事に出ているが宮地は行かない。ディナーは最低限必要な栄養が入ったシリアルチョコ1本のみ。

ミヤチ成功のために10グラムでも軽く。さらにサウナにも通い、空腹に耐えながら水分を搾り取った。

東京オリンピックの切符は...

種目別の代表は国内だけではなく世界のトップとも争う。ライバルはオランダのゾンダーランドだ。ロンドンオリンピックの金メダリストで「鉄棒の神様」の異名を持つ。

鉄棒世界一はどちらか?この大会の勝者が東京オリンピックへの切符を手にする。

まずはゾンダーランド。完璧な演技で14.9の高得点を叩き出した。

宮地の番がきた。運命の演技、大技ミヤチは冒頭で出す。

ミヤチ成功。東京オリンピックが見えた。

しかし次の瞬間、宮地の手が鉄棒から離れた・・・。

無念の落下。ミヤチの成功で慎重になり過ぎ、思い切りを失ってしまった。手にしていたはずの東京オリンピックへの切符がするりと抜け落ちた。

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どんなに悔やんでもやり直すことはできない。

ただ、胸の痛みが消えた時、夢見た日々はきっと宝物になるに違いない。