【オークス】ジュウリョクピエロが馬群を一閃!今村聖奈と人馬でもぎ取った初めてのクラシック

今村聖奈騎手騎乗のジュウリョクピエロがGI初制覇(c)SANKEI
「すっごい走り方......!」――忘れな草賞でのジュウリョクピエロを見た時、筆者は素直にそう感じた。
直線で外に持ち出されると、パワフルなフットワークでグングンと伸びていってそのまま先頭に立って押し切るという、まるで父のオルフェーヴルを彷彿とさせる走りはまさに迫力満点。
「オークスに出てきたら面白いだろうな」と思っていた。
そうして迎えたオークス当日、出走馬の中にジュウリョクピエロの名前が相棒の今村聖奈とともにあった。
馬にとっては初めてのGⅠ挑戦、騎手にとっては自分自身・そして女性騎手では初めてのクラシック騎乗という初物尽くし。
ついでに言えば今村には東京芝2400mの騎乗経験すらなかった。
あのパワフルな走りは直線が長くて広い東京コース向きなのは間違いない。でも、人も馬もこんな大舞台で走るのは初めてのこと。
それだけに馬券を買うファンも期待よりもレースが近づくにつれて心配の方が大きくなっていったのかもしれない。
土曜日の朝時点で単勝6倍台の3番人気にまで推されていたジュウリョクピエロがパドックを周回するころには単勝10倍台前後で落ち着き、最終的な単勝オッズは10.9倍。5番人気というところで落ち着いた。
そのパドックでのジュウリョクピエロはと言うと、少々落ち着きがなく、汗をたくさんかいたのか、ゼッケンの裏に泡状になって垂れていた。
暴れん坊だった父のオルフェーヴルを思い出すようなどこか荒々しい様子が印象に残り、騎乗する今村自身も「ヤバいかも。落ちないようにしないと」と思ったというほどだった。
どこかスッキリしない空模様の中で迎えたレースはゲートが開いた瞬間、3番人気のドリームコアが他馬と接触するところから始まった。
スタンド前を過ぎて1コーナーへ入るまでに馬群が固まりだしたが、その中でオークス馬ヌーヴォレコルトの娘であるトリニティが先頭に立ち、1番人気に支持された桜花賞馬スターアニスが3番手に付けるという少々予想外な位置取りになった。
第1コーナーを回った辺りから馬群の流れが落ち着き、レースの流れはスローに。
その流れに逆らうかのようにリアライズルミナスと津村明秀が上がっていくというこれまた予想外な展開に。
ちょうど1000mを過ぎたところで一気にマクる形で先頭に立つと、次第にレースの流れが締まってきた。
ゴールまで残り1000mを過ぎ、府中名物の大ケヤキを越えていった辺りから各馬が徐々にポジションを上げ始めた。
普段よりも前に付けたドリームコア、それを見ながらもやや後退気味なスターアニス。差し切りを狙うラフターラインズが外へと進路を取りに行きはじめた。
そうして第4コーナーを過ぎて迎えた最後の直線。18頭が横に広がって末脚の切れ味勝負となった中で、先頭に立ったのはトリニティだった。
2014年のオークスで早めに抜け出した母ヌーヴォレコルトのように持続力のあるスピードで押し切ろうとしたが、残り300mの時点で苦しくなったか、レース中盤から積極的に動いていたリアライズルミナスが再び先頭を奪い返した。
ゴールまで残り200m。先頭に立ったリアライズルミナスを目標にドリームコアとラフターラインズが伸びてくる。
クラシックの勝ち方を熟知したクリストフ・ルメールとダミアン・レーンが鞭を振るう。
レース数日前に亡くなった萩原清調教師に勝利をささげたいドリームコア、薔薇一族悲願のオークス制覇を叶えたいラフターラインズ... ともに勝ちたい理由が明確な2頭の牝馬がその願いをかなえるために必死に伸びてくる。
ゴールまで残り100m。遂に前を行くリアライズルミナスをドリームコアが捕らえた。そしてその2頭の間がほんの一瞬だけ開いていた。
リアライズルミナスか、ドリームコアか......その2頭の真ん中の進路を突いて、伸びてきた馬がいた。
それがジュウリョクピエロと今村聖奈だった。
ゴールまで残り50m、外にいたドリームコアと並走する形で伸びてきていたジュウリョクピエロは内にいたリアライズルミナスを捕らえた。

最後は2頭並んだが、わずかにジュウリョクピエロがクビ差だけ先に出たところがオークスのゴールだった。
その瞬間、府中のターフが沸いた。ジュウリョクピエロと今村の勝利に競馬ファンが熱狂した。
人馬ともに初のGⅠ制覇となっただけでなく、JRA所属の女性騎手では初のGⅠ、それもクラシック制覇となったことも相まって、「おめでとう」という声とともにイマムラコールが鳴り響いた。

「感無量でいっぱい」と、大仕事を成し遂げた今村はインタビューで開口一番にこう語った。
午前中から直線での追い出しのタイミングを考えていたという彼女はゴール直前、目の前に開いた進路に勇気を持って飛び込んだことで歴史に名を刻む偉大な勝利を掴んでみせた。
豪快な末脚を武器に力強い走りを見せるジュウリョクピエロと初めて騎乗するコースでも覚悟を決めて馬群の間を突いた今村聖奈。
若き人馬の勇気ある挑戦に勝負の女神が微笑んだのかもしれない。
■文/福嶌弘