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卓球女子日本代表「ワンピース」初採用の舞台裏

2021.04.02
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2021.04.02

2021年女子日本代表オフィシャルユニフォーム 初のワンピース採用

 日本卓球協会が今年2月に発表した2021年の女子日本代表オフィシャルユニフォームには、ある驚きがあった。昨年までのゲームシャツとスコートに加え、初めてワンピースが採用されたのだ。

テニスやバドミントンではおなじみのワンピースも卓球の日本代表ユニフォームではこれが初めて。この思い切った発案はユニフォームのオフィシャルサプライヤーである総合スポーツメーカー「ミズノ」によるものだが、そこにはどんな狙いがあるのだろう?

卓球がオリンピック競技になった1988年ソウル大会以来、選手の活躍を支えてきた老舗メーカーのウェア開発に迫った。


反発覚悟の新提案。根底には「新しい常識づくり」

「ええもんつくんなはれや」。これは1906年4月、大阪市北区に「水野兄弟商会」を開いたミズノ創業者・水野利八の言葉である。

今年で創業115年を迎えたミズノは、良いスポーツ品とスポーツ振興を通じた社会貢献を経営理念に掲げ、「新しい常識づくり」を是とした利八の"ええもん"=革新的なものづくりの精神を脈々と受け継いできた。

ワンピースタイプの卓球女子日本代表ユニフォームも紛れもない自信作だが、最初の受け止めはやや微妙だったようだ。

「日本卓球協会さんにご提案したときは、『えっ!? 』という戸惑いのようなものを感じました。何しろ初めてのトライですし、しかも日本代表のオフィシャルウェアですからね。当然の反応だったと思います」

そう話すのはグローバルアパレルプロダクト本部の正本和也さん。発案の背景には3つの理由があった。

「まず1964年以来、約半世紀ぶりの東京オリンピックで何か新しいトレンドを打ち出し、ウェアを着る選手も、それを見る観客もワクワクするような商品を作りたいと考えました。2つめは選手のパフォーマンスを最大限に引き出せる、より機能性の高いウェアを提供したいという思いです。そして3つめには女子選手を狙った性的画像問題への対応があります」

 性的画像問題とは、女性アスリートの写真や動画を性的な視点で撮影したり拡散したりするハラスメントのことで、近年、SNSの発達により事態は深刻化。日本オリンピック委員会(JOC)が中心となって実態把握と撲滅に本腰を入れている。

卓球も例外ではなく、プレー中の女子選手の腹部やスコートのインナーが見える写真や動画を故意に拡散するケースが後を絶たない。その点、ワンピースならば腹部の露出は防ぐことができる。


14競技を横断する「ダイバーシティコンセプト」

 ミズノは2021年、卓球女子をはじめとする14競技にオフィシャルユニフォームを供給しており、その多くに「ダイバーシティコンセプト」と命名したデザインを踏襲している。

コンセプトの趣旨は東京を舞台に躍動する選手と、それを応援する人々が人種や性別、障害の有無などを超えて熱気と一体感を生み出し、日本中にエネルギーが沸き立つ様子を表現するというもの。このコンセプトは東京2020オリンピック・パラリンピックの大会ビジョンのひとつである「多様性と調和」にも通じている。

「よく生地を見ていただくと、東京の街並みをイメージした高層ビルやスクランブル交差点、『勝』の文字などがグラフィック化されています。

見る人によって見え方や感じ方が違うのが面白いところで、デザインはスポーツと和の要素をミックスしたデジタル表現が得意な世界的アーティスト・澁谷忠臣さんと弊社のコラボレーションで生まれました」

 デザインのキービジュアルは世の中が新型コロナウイルスの脅威にさらされる以前の2018年12月に完成していた。ちなみにキービジュアルを各競技のユニフォームに落とし込み、発表に至ったのは卓球が第1号だったそうだ。


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2020年女子日本代表オフィシャルユニフォーム 石川佳純・伊藤美誠・平野美宇


初のワンピースに選手たちの反応は?

 ワンピースの採用には従来の卓球ウェアのイメージを一般のアパレル商品に近づけたい狙いもあったという。

「洋服のワンピースのような綺麗なシルエットを作るため、通常スポーツウェアは前身頃と後ろ身頃の2枚を合わせるのですが、そこに脇パーツを追加して立体感を出しました」と正本さん。その際、体のラインが出過ぎないよう、ウエスト部分にややゆとりを持たせる配慮も施した。

 色展開はダイバーシティーブルー、レッド、イエローの3色。そのうち14競技に共通するダイバーシティーブルーは、「日本古来から『勝色』(かちいろ)とされてきた濃紺を取り入れました。1998年の長野冬季オリンピックでも採用した色です」と教えてくれた。

夏季冬季を通じ数々のオリンピックで選手たちの活躍を後押しきたミズノが満を持して開発した卓球女子のワンピース。この代表ユニフォームに選手たちはどう反応したのだろう?

選手と直接やり取りをしている選手担当者によれば、「やはり初めのうちは戸惑っていらっしゃるなという感じがありました」とのこと。しかし、どの選手も試着の段階で「すごく軽くてびっくり!」と驚いていたとも。


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大幅な軽量化を実現したメッシュ素材・ドライエアロフロー

どれくらいの軽さかというと、従来のゲームシャツとスコートは上下セットで208グラムあるが、ワンピースは109グラム。約半分くらいの仕上がりだ。実際に触ってみると確かに軽い。

ただしスコートにはインナーが付いているが、ワンピースには付いておらず、ワンピース着用時には機能性の高い同社のオフィシャルインナーウェアが提供されるという。

ワンピースにインナーを付けなかった理由については、「スコートに付いているインナーは長さ調節ができないため、ワンピース着用時は選手それぞれに好みのタイツ(スパッツ)を履けるようにするためです」と正本さん。

軽量化を実現したのは「ドライエアロフロー」と呼ばれるミズノ独自のメッシュ素材。大量の汗をかいてもメッシュのホールが汗の膜で埋まらないため通気性に優れている。


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こだわりの肩まわりのカッティング


選手ごとに細部をカスタマイズ

 カッティングも特に肩まわりにこだわりがある。生地の向きを変えて伸縮性を持たせたり、生地を一枚断ちにして縫い目を避けたりしてスムーズな腕の振りを追求したのだ。

「肩まわりの設計は選手ごとに少しずつ変えています。例えば、伊藤美誠選手などはこの1年ほどで肩まわりの筋肉が急速に発達したので、『もうちょっと袖にゆとりが欲しい』といったリクエストをいただきました」

 選手担当者はコロナ禍で選手のフィッティングの時間が思うように取れない中、日本卓球協会の職員の協力も得て、できる限り選手の要望をヒアリングしてきた。そして、その声に応えようと正本さんらプロダクトチームが細かいカスタマイズを重ねていった。

その期間は約2年。作業に費やした膨大な時間を思うと、代表選手たちがワンピースを着て東京2020オリンピックでスポットライトを浴びるのが楽しみになってくるが、大会本番での着用については、「もちろん着ていただくことを前提にしていますが、あくまでも選手のベストパフォーマンスが最優先。そうでなければオフィシャルサプライヤーの意味がありませんからね」と選手担当者。

 老舗ミズノの"ええもん"づくりの歴史は物心両面に息づいていると感じさせる。


(文=高樹ミナ)

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