『ゴロゴロ』
2016年2月3日
数年ぶりに実家に帰ってきたOLの女性。
地元の街は相変わらず坂が多く、特に家の前に続くこの辺で一番の急坂は都会生活でなまった彼女にとってまさに心臓破りとも思えた。
「…この坂…こんなに…急だったかな」
幼いころ父親とよく家まで競争をしたことが今では信じられない。
息も絶え絶えになりながらやっとのことで家に辿り着いた彼女は、父親の仏壇に線香をあげると早々に、2階にあるかつての自分の部屋でゴロリと横になった。
よほど疲れていたのだろうか、いつの間にか意識を失っていた彼女を起こしたのは、どこからか聞こえる「ゴロゴロ」という聞きなれない音だった。
時計を見るとすでに夜中の2時を回っている。
親孝行のつもりで帰ってきたというのに、親とろくに話もせず晩御飯すら食べずに眠ってしまった自分に対して嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
そんな彼女の耳にふと子供たちの楽しげな笑い声が聞こえてくる。
キッチンに夜食を取りに行くついでに窓から外を見ると、家の前の坂道で数人の子供たちが自分たちの背丈よりも大きなボールのようなものを転がして遊んでいた。
「…子供がこんな時間に」
しばらく見ていると向かいの家から寝巻姿のいかにも頑固そうな中年男性が現れ、子供たちを怒鳴りつけていた。
適当に夜食を食べて本格的に眠りに就いた彼女は、翌朝母親の機嫌を窺いながら尋ねてみる。
「この辺って子供が多いんだね」
「子供?」
母親はピンと来ていないようだった。
その日の晩、風呂に入りすっかり温まった彼女が寝る準備を始めると、昨日と同じように子供たちが何かを転がして遊ぶ声が聞こえてくる。
覗いてみると昨日よりも大きな何かを転がして遊んでいる。
「まったく…昨日怒られたはずなのに…」
気にせず寝ようとする彼女だったが子供たちの笑い声と「ゴロゴロ」という音が気になり眠れない。
我慢の限界を迎えた彼女は、家を出て子供たちの下へと向かう。
「ちょっときみたち!何時だと思ってるの!昨日も怒られたでしょ!」
しかし注意する彼女を見てニヤニヤと笑っている子供たち。
すると坂の上から大きな何かが転がってくる。窓から見えたあの物体だ。近くで見るとそれはまるで肉の塊のようだった。
「ゴロゴロ」と転がってきたそれは彼女の目の前で止まるとパカッと開き、モゾモゾと坂を登り始める。夜道の街灯に照らし出された“それ”はまるで巨大なダンゴムシだった。
しかもその脚に当たる部分は無数の人間の手脚でできていて、甲羅の表面には何人もの人間の顔が浮かび上がっていた。
そしてその中には、昨日子供たちを怒鳴りつけていた中年男性の顔もあった。
「ダンゴムシまた大きくなるね」
初めて口を開いた子供たちは純真な瞳を彼女に向けた。
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