『轟音』
2016年2月17日
慌てて夕飯の買い物をするためスーパーへと出かける主婦。
昔好きだったドラマの再放送がされているのを知り、思わず夢中で見入ってしまったのだ。もうすぐ小学生の娘が帰ってくる。それまでには戻らなければ。
玄関を飛び出し、しばらく歩くと、近所にバキュームカーが停まっているのを目撃する。
「うちの近所にまだそんな古い家あったんだ」
バキュームカーから伸びるホースは5軒隣の老夫婦が暮らす一戸建ての中へと続いていた。
老夫婦はこの辺りで一番の古株らしく、確かに年季の入った建物ではあるが、まさかバキュームカーがやってくるような作りだとは知らなかった。
何より彼女自身、この町へ越してきて5年以上経つが一度も見たことがない。
傍を通るとバキュームカーのタンクの中からはゴウンゴウンという聞いたことのないような機械音が響き、気持ち悪かった。思わず息を止めて足早に通り過ぎる。
駅前のスーパーをいくつか周り、買物をすませた帰り道、ちょうど学校帰りの娘と出くわした。どうやらギリギリ間に合ったようだ。娘を玄関前で待たせなくて済んだ。
学校であった話を娘から聞きながら家に向かって歩いていると、バキュームカーがまだ停まっていた。
しかもホースは半年前に完成した3軒隣の新築の家の中に続いていた。
「この家も汲み取り式?そんな訳…」
笑顔で娘の話を聞きながらもそんな疑問が頭を巡る彼女。
タンクからはゴウンゴウンという音とともにドドンドドンという何かがぶつかりあうような音がさっきよりも激しく鳴り響いていた。
ふと見ると隣に建つ豪邸に住んでいる中年女性が窓を開け、迷惑そうに隣の家を眺めている。近所の噂話や悪口が何よりも好きな面倒くさい人物だ。
これでもかというほど高級そうな趣味の悪い指輪やアクセサリーをゴロゴロと身に付け、会うたびに「この指輪は旅行の時に一目惚れして買ってしまった」などと自慢げに見せびらかすのが鬱陶しい。
彼女が家の前を通りかかったのを見つけると、指輪の光る丸々とした手を振りながらすぐに話しかけてきた。
「いまどきバキュームカーってねぇ~、しかも新築よ。トイレが故障でもしたのかしら、ここは工事してる時からに問題続きだったらしいから~」
「そうなんですか~」と話が長くならないうちにやり過ごすと、家に戻り夕飯の支度を始める彼女。窓からは自分の豪邸の横にバキュームカーが停まっていることが余程気に入らないのだろうか、相変わらず憎らしげに睨みつける中年女性の姿が見えた。
やがて夕飯を終え、娘を風呂に入らせた彼女が一息つくとどこからかキン!キン!という聞き覚えのない金属音が聞こえてきた。その背後に聞こえる機械の唸るような音から思い出す。バキュームカーだ。
窓から覗くと真っ暗な夜道で相変わらず轟音を鳴らし不気味に佇んでいた。
「…こんな時間に?」
しかもバキュームカーから伸びるホースは隣の中年女性が住む豪邸の中へと続いている。
少しずつ自分の家へと近づいてきているのが気味悪かったが、何よりさっきからゴウンゴウンという機械音に混ざって聞こえている金属音は、まるでたくさんの指輪をつけた手でタンクの内側から叩いている音のように思えてならなかった。
助けを求めるように…
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