闇芝居 3期


都市伝説まとめ

『歯』

2016年2月24日

ある歯科医師の男の話。
その日も患者はほとんど来なかった。
歯科医は診察台でうたた寝をしながら、そのまま受付終了時刻の夜8時を待っていた。
だが、その時刻を迎えると同時に、入り口の扉が開き、誰かが入ってくる気配がした。
…こんな時間に診療か?やれやれ…
歯科医は心の中で呟く。
受付のバイトの女子大生は既に帰宅していたので、歯科医は受付に顔を出す。
すると、小学1年生くらいだろうか、まだ幼い少年が1人で佇んでいた。
「あの、歯が抜けちゃって…直してもらえますか?」
少年の掌には、小さな歯が1つ握られていて、少年の前歯にはその分の隙間があった。
歯科医は、少年の目線に合わせて屈み、こう告げる。
「ああ。これはね、抜けても大丈夫な歯だよ。」
少年は不審気な顔をする。
「え?本当に?」
「そう、この歯が抜けると、そのうちもっと丈夫な歯が生えてくるんだよ。」
しかし少年の顔は浮かない様子で、
「でも、ここだけ歯がないと、学校でからかわれないかな?」
気持ちは分かるが、どうすることもできない。
「大丈夫。みんな、そのうち歯が抜けるんだよ。」
「え?みんな抜けるの?」
「そう。みーんな。」
「分かりました…ありがとう。」
そして少年は、浮かない顔はそのままであったが、去っていった。
例え歯でも、自分の身体の一部が欠けるというのは、気持ちが沈むものである。


その夜の事である。
歯科医は、毎日欠かすことのない、入念な歯磨きをしていた。
すると、口をゆすぎ吐き出した水と共に、コロン…と洗面台に何かが落ちた。
…真っ白な人間の前歯だ。
まさかと思い、洗面台の鏡に映る自分を見つめる。
『イ』の口の形をすると、美しく生え揃っていたはずの前歯に隙間が現れる。
痛みはない。自然と抜け落ちたのだろうか。
職業柄、歯の手入れに関しては人一倍気を使っていた為、こんな事態は予想外だ。
しかし次の瞬間、口の中にゴロゴロとした硬い異物が現れる。
それは1つ、2つ、3つ、どんどん増えていく。
歯科医の口は、その異物でいっぱいになり、それらが溢れ出る。
洗面台にバラバラと音を立てて、吐き出されたのは、無数の人間の歯であった。
どこからか幼い子供の声が聞こえる。
「ほんとだ…みんな、抜けるんだね…」
先ほど出会った少年が、隣で洗面台を覗き込んでいた。
薄笑いを浮かべ、隙間の空いた前歯を見せる。
歯のない口を大きく開け、歯科医は叫び声を上げた。



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