『深夜番組』
2016年3月16日
残業を終え、クタクタになって帰宅したサラリーマンの男。
コンビニ弁当を食べながら缶ビールを飲み干し、すぐに横になった。
思い返せばここ数ヶ月間、同じような日々を過ごしている。
ただ唯一違うのは、いつもならこのまま眠りについて朝を迎えているはずが、今日だけは眠れる気がしない…明日も早いというのに…。
しばらく真っ暗な部屋の中で何度も寝返りを打っていた男は諦めてテレビをつける。
そこには着ぐるみのウサギのキャラクターが工作に挑戦する姿が映し出されていた。
男が子供の頃、よく見ていた懐かしい番組だ。
この番組のマスコットキャラクター“ラビトンくん”が歩くたびに鳴る「ピー!パー!ピー!パー!」という気の抜けた足音を友達と真似したのを憶えている。
工作をしながらお腹がすくと、段ボールやビニール袋など工作の材料を食べてしまう食いしん坊なラビトンくんを見て笑ったものだ。
しかし、こんな夜中に子供番組が放送されていることも意外だったが、何よりこの番組がまだ続いていたことに驚かされた。
「こんな番組まだ観てるやついるのか?」
ラビトンくんの毛は明らかに薄汚れていて、ところどころ衣装が破れているのが、時代の流れを感じさせる。
やがてお腹が減ったラビトンくんの腹の虫が鳴り響くと、お決まりのように工作の道具を食べ始める。
道具をすべて食べつくしてしまったラビトンくんはスタジオのセットを壊し次々と平らげていく。
「こんな演出あったか?」
そしてセットも食べつくしたラビトンくんは逃げ惑うアシスタントのお姉さんを捕まえ、食べてしまった。
その後もスタジオ内で悲鳴を上げる観覧の子供たちやスタッフを捕まえては、口の中へ押し込んでいく。
「…おい…なんだよ…これ…」
ひと気のなくなったスタジオ内で隠れている者はいないかと、まるで獲物を探すようにフラフラと彷徨うラビトンくん。
しばらくすると自分を映しているカメラに気づき、こちらをじっと見つめた後、スタジオを出ていった。
直後、テレビは『しばらくお待ちください』の画面になり、そのまま放送は終了した。
「…何だったんだ?」
男は感情の無い表情でカメラを見つめるラビトンくんと目があったような気がして気味が悪かった。
いい加減、寝なければ明日の仕事に支障が出る。
改めて眠りに就こうとする男だったが、遠くから聞き覚えのある音が近づいてくる気がした。
やがて男の住むアパートの階段を上ってくる「ピー!パー!ピー!パー!」という気の抜けた音は部屋の前で立ち止まる。
「誰か…いるのか?」
返事はなかったがドアの外から腹の虫が聞こえた。
暗い部屋の中、男は玄関の扉のドアノブがゆっくりと回っていくのをただ見つめることしかできなかった。
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