『真っ赤な竹』
2016年3月30日
とある田舎の小学校に転校してきた女の子。
登校初日、クラスメイトの前で自己紹介をすることになった彼女は、大切にしているものは何かと聞かれ、いつも持ち歩いているかぐや姫の絵本を見せた。
この絵本は彼女がまだ幼稚園に通っていた頃、誕生日のプレゼントに祖母から買ってもらったもので、これまで数え切れないほど読み返してきた。
目を閉じれば一語一句違わず内容が頭に浮かんでくるほどだった。
クラスの男子は絵本という彼女の幼稚な宝物を笑ったが、女子は賛同してくれた。
特に十五夜にかぐや姫が月へ帰ってしまうシーンが、切なくて大好きな彼女はクラスの女子が共感してくれて嬉しかった。
女子同士すっかり仲良くなったそんなある日、隣の席の一番仲のいい子から「みんなでうちに泊まりに来ない?」と誘われる。
彼女の母親は反対したが、どうしても参加したかったため、その子の母親に説得してもらい許しを得ることができた。
当日はみんなで遊んで、みんなでご飯を食べて、みんなでお風呂に入ってと、今まで味わったことがないくらい楽しい時間を過ごすことができ、本当に引っ越してきて良かったと感じた。
やがて寝る時間になり布団に入った彼女たちは、みんなでかぐや姫の話を始める。
ところが詳しく話すにつれ、自分が知っているかぐや姫と彼女たちの話が微妙に違っていることに気づく。
「若い頃、都から田舎の村に嫁いできたお婆さんはすぐに寝たきりになったんだよね」
「かぐや姫は真っ赤な竹から生まれたんだよね」
「おじいさんが涙ながらに斧を振り下ろしたんだよね」
はじめは地方によって内容が少し違っているのかと思っていたが、あまりにも自分の知っている話と違うため彼女は聞いてみた。
「あの…真っ赤な竹ってなぁに?」
クラスメイト達は一様に不思議そうな表情を浮かべた。おかしなことを聞いてしまったのかと思わず恥ずかしくなる彼女。
すると彼女たちは興奮した様子で話し始める。
「何言ってるの?かぐや姫は竹のように固く、そして真っ赤に膨れ上がったおばあさんの首から生まれたんでしょ」
「そうだよ、だからお爺さんは涙ながらに斧を振り下ろしたんじゃない?」
「でも罰が当たってお爺さんの首も真っ赤に腫れあがっちゃったんだよね」
彼女たちの話を聞いてゾッとすると同時に突然首が異様なかゆみに襲われる。思わず掻き毟(むし)る彼女は鏡に映る自分の首がパンパンに腫れあがっていることに驚いた。
まるで竹のように…。
そんな彼女を指さしてクラスメイト達は嬉しそうに笑う
「そうそう!そうやってお爺さんが首を掻き毟(むし)ると…」
「皮膚の下からたくさんのかぐや姫が…湧いて出て…」
「月へと帰って行くんだよね」
数百匹はいるだろうか、無数の見たこともない虫が彼女の裂けた首の皮膚から飛び立っていく。
窓から出ていく虫の大群を見上げながら、そういえば今日は十五夜だったことを思い出し、彼女は意識を失った。
|