日経スペシャル「ガイアの夜明け」 7月13日放送 第425回 シリーズ「ニッポンの家族の行方」第2弾自由、安心に暮らしたい~“シニアの住まい”広がる選択肢~
65歳以上の割合が5人に1人を超えている、世界一の高齢化社会、日本。「離れて暮らす両親に、もしものことがあったら…」。そんな不安を抱える家族も多い中、新たな選択肢になると期待されているのが高齢者専用の賃貸住宅(高専賃)だ。介護施設でもなく老人ホームでもない。でも室内はバリアフリーで、緊急時の対応など“見守り”システムを完備――そんな高齢化時代のニーズに応える住まいづくりが今、急ピッチで動き出している。 岡山に本社を置く有料老人ホーム最大手は、首都圏で「高専賃」の本格展開に乗り出した。一方、兵庫県で7月に新規オープンする高専賃の売りは、手厚い介護。だが認知度の低さが壁となって、正式契約を目前にしてキャンセルが続出…。無事オープンにこぎつけられるのか? いざという時の助けは欲しいけれど、自立して自由に暮らしたい…。そんな元気シニアたちの願いを実現する、安心の住まいの最前線を取材する。
神奈川県川崎市にある高齢者専用の賃貸住宅。自分の部屋でピアノを弾くのは、93歳の桑靖彦さんだ。趣味は社交ダンス。住宅に併設された食堂で催される社交ダンスクラブにも参加している。桑さんは高専賃ライフをこう語る。「ここは“生きていくため”の場所だね」。 この高専賃を経営しているのは、本社を岡山に置く有料老人ホーム最大手の「メッセージ」だ。会長の橋本俊明さんは、「老人ホームなどの施設だけでは高齢者の住まいの問題は解決しない」と、高専賃ビジネスへの思いを語る。 高専賃は、入居者を概ね60歳以上に限定した「賃貸住宅」。月々の支払いとしては家賃に加え、生活支援費などがかかるが、24時間対応の緊急通報システムや食事、掃除などのサービスが受けられる。最近では介護事業所を併設し、入浴や排泄、食事介助など介護保険サービスを受けられるところも増えている。一方、サービス内容には規制がないため、その質にはバラツキがあるのが現状だ。
世界一の長寿国、ニッポン。バリアフリーなど高齢者に配慮した住まい不足は喫緊の課題だ。こうした中、異色の企業が高専賃ビジネスに参入している。教育出版社の「学研」だ。少子化と出版不況が進む中、会社の代名詞ともいえる「科学」と「学習」が相次いで休刊。今、事業拡大を進めているのが、高齢者向けの賃貸住宅なのだ。 学研グループの新戦略を託されたのは、小早川仁さん(42歳)。もともと「科学」と「学習」の担当者だったが、いまや子会社「学研ココファンホールディングス」の社長として高専賃ビジネスの先頭に立つ。「国や東京都も次々と高専賃の支援策を発表している。我々にとっては追い風だ」。 小早川さんが目指すのは、学研のノウハウを生かし、これまでにない子育てと福祉の総合拠点を造ること。だが、高専賃へのニーズが高い都心部での展開にはハードルが…。用地を確保するにも地価が高い上、マンション事業者などとの激しい競争があるのだ。果たして小早川さんの描く「子育てと福祉の地域拠点プロジェクト」に勝機はあるのか?
特別養護老人ホームなどを展開する兵庫県の社会福祉法人「あかね」。この7月、新たに高専賃「ヴィラ櫟(つるばみ)」をオープンさせようとしていた。その経営の一切を任されたのが、松本真希子さん(35歳)。ヴィラ櫟は同じ敷地内に特別養護老人ホームがあり、手厚い介護サービスが売り。松本さんは、オープンまでに60戸のうち30戸の契約を取る目標を掲げた。 6月半ば、オープンを待ち切れずに入居者が次々とやってきた。だが一方で、仮契約をしていた人たちが、相次いでキャンセルするという予想外の事態が発生。その理由のほとんどが何と「家族の反対」だった。いったいなぜ?介護施設と混同されてしまっているのか? 自由で安心の高齢者住宅を広めたい――松本さんに起死回生の策はあるのか。