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世界女王に肉薄した田代未来の未来/女子63kg級・みどころ

2019.11.15
柔道グランドスラム大阪 - 世界女王に肉薄した田代未来の未来/女子63kg級・みどころ

11月22日に開幕する柔道グランドスラム大阪。2020年東京オリンピック代表選考を兼ねる大一番に日本代表はどんな思いで挑むのか。男女全階級の見どころを紹介する全14回連載の2回目。

 

 

柔道グランドスラム大阪 みどころ 女子63kg級

 

 

勝負では押しながら、試合で負ける。

 

 今年の世界選手権63kg級決勝でアグベニュー(フランス)を攻めに攻めた田代未来(コマツ)はまさにそうだった。ゴールデンスコアになっても、田代はスタミナを落とすことなく攻め続けた。対照的にアグベニューは青息吐息。待てがかかっても、なかなか起き上がることができない場面もあった。

 

 7分過ぎ、田代が大内刈りを仕掛け、そのままケンケンの要領で相手の体制を崩そうとした。アグベニューは体を反らしながら耐え、起死回生の払い巻き込みで技ありを奪って逆転優勝を決めた。

 

 

7分を超える激闘を讃えあう田代とアグベニュー(フランス)Photo Sachiko Hotaka

 

 田代は「アグベニューは明らかにバテていた」と振り返る。「最後は自分から相手が入りやすいところにいっていた気がします。自分が止まった瞬間に相手は技をかけやすい場面だった。ああいう状況でも最後まで気を抜かず、最後まて追っていけばよかった」

 

 田代は「気持ちでは負けていなかった」と唇を噛んだ。「逆に上回っていると感じる部分もありました。でも、そこで試合にも勝たないと。勝負の世界の難しさを感じました」

 

上野順恵が引退後、田代は日本の63kg級を牽引し続けた存在だ。アグベニューはその行く手を拒み続けている宿敵といっていい。過去何度となく対戦しているが、田代が勝利を手中にしたのは2017年のワールドマスターズで実現した一戦のみ。それ以外はことごとく黒星を積み重ねてきた。

 

 東京五輪を翌年に控えた今回の世界選手権では打倒アグベニューの気持ちもいつになく高かったが、あと一歩というところで取り逃がしてしまった格好だ。

 

「コンディションはいい状態だった。だからといって勝てるわけではない。逆にいえば、悪いからといって負けるわけでもない。これからはどんな状態でも勝ちにいくことだけを考えたい」

 

 この大会で獲得した銀メダルはすでに実家に送った。田代は「もう見返すこともない」と言う。「過去は過去。過去を見ても、何も自分は変わらない。前だけを見ていきたい。いまは現状だけを見るようにしています。未来のこともとくに見ない。もちろん考えることもあるけど、考えたところで何も変わらない。いまを変えないと、何も変わらない」

 

 いまを大切に生きているせいだろう。今年になってから以前から書き続けるノートの書き方にも変化が現れた。

 

「″もう少しこうすることができたんじゃないか″ということも書くようになりました。前は割と適当な感じだったけど、いまは反省があったら書く。自分の不安要素を全部吐くことで排除する。その一方で、ちょっとネガティブなところもあるので、まあまあできていることも書くようにしています」

 

 オリンピアンとて生き物。調子がいい時もあれば、悪い時もある。田代は悩みが出てきたら即座にノートを見返す。

 

「だいたいいつも同じようなことで悩んでいる。だから″以前にもこんな気持ちの時があったな″と思い出したらノートを見るようにしています。考えすぎても仕方がないので」 世界選手権後、SNSを通じてアグベニューから突如連絡が来た。

 

「あと2日ほど、日本にひとりでいます」

 

田代はピンと来た。

 

「あっ、これは私に誘えということかなと思って、大好きな韓国料理に連れていきました(微笑)。英語は全然喋れない方だけど、頑張っていろいろ話をしました」

 

 田代は「4回も世界選手権で優勝していれば、プレッシャーもあると思う。苦しくないの?」と聞くと、アグベニューは答えた。「私は闘うのが好きだから、闘うための準備をしている。でも、そうすることで頭がいっぱいになったり、心が苦しくなったりしたらダメ」

 

 田代は思った。

 

「私も、楽しく柔道をやらないと」

 

 アグベニューは言葉を続けた。

 

「苦しくなったら休めばいい」

 

 

 アグベニューから「私はGS大阪に出場しない」と言われた。田代は「たぶん日本ではオリンピックまで彼女とは闘うことはないでしょう」と予想する。

 

「アグベニューがいなくても、日本で勝たないといけない。自分らしさを全面に出して、試合中でも成長していきたい」

 

多彩な足技で相手を崩してからの寝技が田代の真骨頂。この階級では昨年GS大阪優勝の土井雅子(JR東日本)や講道館杯で自身初優勝をあげた鍋倉那美(三井住友海上)も絡む。自信を抱くスピードにさらに磨きをかけ、田代はGS大阪を制することができるか。

 

 

昨年優勝の土井雅子 Photo Itaru Chiba

 

 

講道館杯を制した鍋倉那美 Photo Itaru Chiba

 

 

文=フリーライター・布施鋼治

 

 

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