11月22日に開幕する柔道グランドスラム大阪。2020年東京オリンピック代表選考を兼ねる大一番に日本代表はどんな思いで挑むのか。男女全階級の見どころを紹介。
柔道グランドスラム大阪 みどころ 男子60kg級
今年の世界選手権60kg級決勝の舞台に永山竜樹(了徳寺大職)も高藤直寿(パーク24)もいなかった。高藤とともに優勝候補に上げられていた永山は準決勝で今年の欧州王者チフジミアニ(ジョージア)に背負い投げを浮落で返され技ありを奪われてしまったのだ。永山は「準決勝まではいつも通りの闘いができていた」と唇を噛んだ。
「しかも、負けた相手は過去2回勝っているので、そこに油断があったのかもしれない。相手の勢いに動揺させられてしまったことが敗因だと思います」
大会前、日本の柔道ファンは決勝で永山と高藤の顔合わせを期待したが、勝負の世界は何が起こるかわからない。高藤が準々決勝で敗れ、3位決定戦で顔を合わせることになった。

昨年のGS大阪では初戦敗退を喫した髙藤直寿。2年ぶりの金メダルはなるか。Photo Sachiko Hotaka.jpg
行き詰まる接戦。先に技ありをとったのは高藤の方だったが、試合終了残り2秒というところで永山は隅返で技ありを奪い返し、そのまま押さえ込んで逆転勝ちを収めた。
「最後にポイントをとられた時にはもう無理かと思いました。銅メダルでギリギリ次につながったと思います」(永山)
これで、永山は国内外で最大のライバルである高藤に対して、通算戦績を3勝2敗とひとつリードした格好となった。

世界選手権3位決定戦では試合終了間際に永山が高藤を隅返で下す Photo Sachiko Hotaka
「高藤先輩には負けたくないし、勝たなければいけない存在だと思います。練習で調子が悪い時でも『高藤先輩はもっと練習をやっているかも』と想像したら、それ以上やろうという気になる。お互いを高めることができる存在なんじゃないですかね。刺激しあうことで、日本の60kg級のレベルをどんどん上げていきたい」
戦士の休息。世界選手権後、永山は痛めていた左肩のケガの治療やリハビリに専念した。
「10月下旬から練習を再開して、徐々に調子も上がってきたという感じですかね」
世界選手権では何が足りなかったかと訊くと、永山は数秒間悩んだ末に口を開いた。
「それがわかっていたら、世界チャンピオンに簡単になれている。いまは目の前の大会に集中してその前の試合をひとつひとつ勝って成長することができたら、チャンピオンになれるんじゃないかと思います」

「(対戦する相手は)みんな勝たなければいけない。ほかの選手に対しても全力で勝ちに行く」語気を強める永山竜樹
高藤は東海大柔道部の3年先輩。先輩の背中を見て吸収したことはあるかと水を向けると、永山は首を横に振った。
「高藤先輩とは柔道のスタイルが全く別なので吸収はしていない。ただ、先輩より多く練習をやってやろうという意識でやっている」
確かに高藤が″高藤スペシャル″などのオリジナルも含め臨機応変に攻め込む戦法を得意とするならば、永山は一本を獲れる技をたくさん持つタイプだ。しかも永山は男子最軽量級でも身長が低いこと(156cm)を指摘されることもあるが、いまは小さいと思っていないという。
「(闘う選手は)みな同じ階級なので、パワーは強い方がいいし、テクニックも上の方がいい。全てにおいて相手より上回っていれば勝てる。だから自分が小さいからどうということは考えていない」
グランドスラム大阪(以下GS大阪)でも対決する直接対決する可能性は高い。再び対決が実現したら?「勝たないといけないというか、(対戦する相手は)みんな勝たなければいけない。ほかの選手に対しても全力で勝ちに行く」
いつになく勝利に対する思いが強いと感じるのは東京五輪を翌年に控えているせいだろう。案の定、永山は語気を強めながら言葉を続けた。「五輪に出るためとには、これからひとつも落とせない。GS大阪ではひとつひはつの試合を大事にして必ず優勝します」
60kg級には今月の講道館杯で初優勝した青木大(パーク24)、父にバルセロナ五輪71kg級金メダリストの古賀稔彦を持つ古賀玄暉(日体大)も出場する。青木と古賀は先日開催された講道館杯で決勝を争ったばかり。永山や高藤に肉薄できるか。
文=フリーライター・布施鋼治