■ 町工場から宇宙へ へら絞り

中小企業が数多く集まる東京大田区。そこで100分の1ミリの精度で部品を作り上げる工場がある。「ヘラ絞り」という特殊な金属加工法で、金属の円盤を円錐形にしてゆく。美しい円錐形を作るには、長年の経験とカンに裏打ちされた職人の技術があった。その独自の技術で、単なる金属の円盤が、どこにでもある家庭のナベから、ロケットの先端部分までありとあらゆる製品に生まれ変わる。今回来た注文は航空機の部品。チタンのような固い特殊金属を「ヘラ絞り」にかけてほしいという。いつもと勝手の違う固い金属。はたして美しい円錐を作ることはできるのか?
■ 時計修理のスペシャリスト

機械式の時計の部品は、簡単な懐中時計でも40~50、ストップウォッチ機能などが付くと100~300もの数になる。古いものになるとほとんど部品が存在せず、壊れても修理が出来ないことが多い。
しかし時計修理職人の加藤實さんは、どんなに細かい部品でも、ないものを製作してしまうという。しかも普通の職人が2時間くらいかかるところを15分くらいで作ることが出来るとのこと。その施盤技術は独立時計師フィリップ・デュフォー氏の来日時に見せたところ大絶賛されたほどで、75歳に至る今でも引退したくともさせてもらえない状況だ。昨年、加藤さんは跡を継いでもらう予定だった息子を亡くしている。1年たった今でも心の傷は癒えていないが、なんとか自分の技術を後世に残すため、自らが長期に渡って会長を務めてきた古典時計協会の会員たちに施盤技術を披露・伝授している。
今回その加藤さんに修理を依頼したのは、東京都の徳安さん。15年前に他界した母方の祖父の形見として母親が大切している、動かなくなったオメガの懐中時計の修理依頼だ。最近入籍した徳安さんは「この時計がまた動いている状態を母に見せてあげたい。結婚に際して、母へのお礼として祖父の形見の時計を修理してプレゼントしたい」と思いを語る。
■ 革製品クリーニング職人

クリーニングで出来なかったことを可能にする若き修復職人は、「染匠技術部会」取締役の福永真一さん。東京都の高級インポート専門のメンテナンス会社や着物の染み抜き学校で基礎を学び、フランスの縫製工場でクリーニングの技術を習得した。習得後は「自分が向かうべき道は、日本一高いクリーニングではなく、日本一高い技術が提供出来る職人だ」と考え、クリーニングでは出来ない染み抜きや染色による再生の勉強を独学で始め、2006年に現在の会社を設立した。
福永さんが修復に取り組むのは、衣服・ブランドバッグ・靴・財布など様々。夜11時~朝7時まで作業し、一晩で平均3点の作業をこなす。汚れやシミを落とす上で重要なのは、“何がついたか?”ではなく“ついてしまった素材が何か?”。福永さんはこれまで培ってきた経験から、使用する溶剤や落とし方を見極める。最近ではTVや雑誌で取り上げられることが増え、依頼も殺到している。
カリスマ修復士にも不可能はある。しかし、福永さんはすべての再生を可能にしたいと考えている。入った依頼が不可能な確率が高くても、依頼人の思いを考えると諦めずにはいられない。不可能と思われるものも、研究を重ね可能にしてきた経験があるからだ。今日も深夜までに及ぶ作業を続ける福永さんの達人技に迫る。
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