「役者がダメなら大検を…」俳優・濱田岳の転機 導かれた映画監督の言葉

【役者魂VOL.6 後編】※前編はこちら

殉職した現場から2016年へとタイムスリップし、1周目の人生で亡くした恋人を救うため、警察組織の闇を暴くために奔走する主人公・百武誠。
現在放送中のドラマ9「刑事、ふりだしに戻る」(毎週金曜夜9時)で、人生2周目のアラフォー刑事を演じている濱田岳。

【動画】ハラハラが止まらない!濱田岳主演「刑事、ふりだしに戻る」

これまで、あまたの人物の人生を生きてきた実力派に「多大なる影響を受けた大師匠」とのエピソード、転機となった作品を通して「役者魂」を聞く、その【後編】。

「役者がダメなら大検を…」俳優・濱田岳の転機 導かれた映画監督の言葉

大師匠・西田敏行の「丸くて温かいすごみ」


1998年にドラマデビューを果たした若き大ベテラン。シリアスからコメディーまで巧みに演じ分ける濱田岳が、「釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~」で主演を務めたのは2015年のことだった。

「こうした取材などでお話させてもらう中で整理している最中なんですけど、いなくなってその存在の大きさを痛感すると言いますか。ずっといらっしゃるものだと思っていたので。“西田さんともっとふざけておけばよかったな”と思います」

「西田さん」とは、2024年に惜しまれつつ逝去した西田敏行のこと。

「父のような存在でもあり、俳優としては大師匠でもあり。西田さんのことを師と仰ぐ人は大勢いますが、中でも僕は、ほめられて育てられた弟子の一人でした。怒られたこともお説教されたこともなく。演技論うんぬんとか、堅苦しい会話も一切なく。ただただ温かく見守っていただいた記憶しかありません」

そんな大師匠・西田のライフワークでもあった映画「釣りバカ日誌」。偶然にも濱田は、シリーズがスタートした1988年に生まれた。

「師匠と弟子で父と息子ほど年が離れていながら飲み友達の関係でもあって。お会いすれば、いっぱい飲んではカラオケに行って、ゲラゲラ笑って。これは僕の自慢なんですけど、自分の中では一番お酒をご一緒させていただいた弟子だと自負しているので、もっともっとお話をお聞きしたかったです。『いなくなって暇で仕方がないですよ』と文句を言いたいくらい(笑)」

西田が「釣りバカ日誌」で主演したのは、41歳の時。「浜ちゃん」こと浜崎伝助役を受け継いだ際のインタビューでは、「(その当時の西田さんの年齢になっても)僕なんか到底まねできない」と語っていたが、西田の役者としてのすごさはどこにあるのだろう。

「うーん……僕なんかが言うのもおこがましいですが、例えばアドリブ。台本とは全然違うことを言っているのに、セリフの意味合いは合っているんですよ。決して内容を逸脱することなく、違った言葉でその意味を表現される。しかも、テストから本番まで同じことを言わない。西田さんのリアルな会話や演技には圧倒されましたし、すごく鍛えられました」

先ほどは「ふざける」と表現していたが、西田の本当のすごさは、このアドリブの演技に詰まっているという。

「アドリブというと“その場のノリで楽しく、おかしく”というイメージがあると思うんですけど、台本やキャラクターの整合性を保つことを常に考えていらっしゃったので、ハチャメチャにするわけではないんです。

きっと西田さんは演じる人物のバックボーンまで考えて、練って。そのキャラクターの言葉で話していた。一生を懸けて、役者として戦い続けていらっしゃったんだなと思います。
尖っているのではなく、丸くて温かいすごみと言いますか…。大きくてカッコいい男の背中でした」

演技論は人それぞれだろう。しかし、台本を読み込んで、練りこんで組み立てて会話をするだけではリアルさを出しづらいと考える。

「現実の世界では、相手が何を言うか分からない状況で会話が続くわけで、僕も西田さんのように、演じる人物が普段しゃべっているような感覚で撮影に臨めればいいなと思っています。

また、役者としての技術を磨くだけではなく、俳優そのものが人間的に魅力的であることも大切です。演技するということは気持ちでやる部分が多いので、ロジカルに説明できないのが歯がゆいですが、そうした人間力を磨くことで演じる上でのチョイスを増やしていきたいです」

人間力を磨く――。
「そのためにはどうすればいいか、現時点ではまだ分からない」(濱田)。

「西田さんしかり、ずっとこの世界にいらっしゃる役者のみなさんそれぞれ、魅力がありますよね。もちろんクセがあったり、圧が強かったりする先輩方も多いんですけど(笑)、とにかく人間力が高い。今年で38歳になりますが、一生磨き続けていかなければいけないものなんだろうなと思います」

「役者がダメなら大検を…」俳優・濱田岳の転機 導かれた映画監督の言葉

「地に足のついた生活を…」悩んだ末に訪れた覚悟の時


9歳でスカウトされ、役者の世界に飛び込んで28年――。転機は、学業やラグビーに打ち込んでいた16歳のときに訪れた。
2004年、ドラマ「3年B組金八先生(第7シーズン)」(TBS)の出演依頼が舞い込み、仕事と学校、どちらかを選択することを求められたのだ。

「そのときは子どもでしたから、“勉強はいつでもできるけど、同じ役は二度と来ない”と思って役者の道に進むことを決めました。でも、当時はまだ“これで食っていくぞ!”とは思っていなくて。役者がダメなら大検を取得して、学び直すことも頭のどこかにありました」

「役者で食っていく」と覚悟を決めたのは、「金八先生」の3年後に映画初主演を果たした「アヒルと鴨のコインロッカー」(2007年)だった。

「何年か役者をやって、“やっぱり地に足のついた生活を送る方が自分のためにも家族のためにもいいかな……”と考え始めた頃、主演のオーディションの案内が届きまして。そんなに乗り気じゃないのに行ったら、中村義洋監督に『だったらこの作品をやってから辞めろ!』と言われました。

監督、スタッフ、キャスト、みなさんが本当に素晴らしく、離れがたい方々ばかりで。自分が誠実に役者を続けていればこんな素敵な作品に巡り会えるかも、またみんなとお仕事ができるかもしれないと思えたことで、本気でやっていくと覚悟が決まった。そこから同じ中村監督、伊坂幸太郎さん原作の『ゴールデンスランバー』(2010年)に呼んでいただいたことで、少しずつ自信に繋がっていったと思います」

その後の活躍は、みなさんもご存知の通り。硬軟、幅広い人物を演じ、数々の話題作に出演。近年はテレ東「フルーツ宅配便」(2017年)や「季節のない街」(2023年、ディズニープラス)などで難役に挑み、各方面から高い評価を受けた。

「『季節のない街』は、今の時代なかなか表現が難しい役でしたし、コロナ禍で何とか完成した『フルーツ宅配便』で演じたのは、デリバリーヘルスの店長役。今回の『刑事、ふりだしに戻る』もそうですが、どちらもチャレンジしがいのある作品でした」

「季節のない街」は「ギャラクシー賞 2024年6月度月間賞」を、「フルーツ宅配便」は「第45回放送文化基金賞」奨励賞を受賞。

「放送文化基金賞は主に社会性のある作品に贈られる賞のため、受賞式ではダイオウイカの撮影に成功したクルーのみなさんたちが並んでいる中、デリヘルの店長がポツンといる……そんな不思議な光景が印象に残っていますが(笑)、それはさて置き。努力すれば必ず報われるかどうか分からない、ゴールが見えないお仕事で、こうしたチャレンジングな作品を評価していただけたことが本当に嬉しかった。逆に言えば、分からない=自分にとって飽きないお仕事だから30年近く続けてこられたんだなと思います」

2026年は「刑事、ふりだしに戻る」のほか、映画「教場 Requiem」も公開に。
現在放送中の「BLOOD&SWEAT」(WOWOW)にも出演し、7月からは「VIVANT 続編」(TBS)が始まるなど、さながら“濱田岳祭り”と呼んでもいいほど引っ張りだこだ。

「(笑)。いやいや、たまたまこの時期にタイミングが重なっただけで。一人の主人公を何度も演じた『釣りバカ日誌』をはじめ、こればっかりは本当に人とのご縁ですから。一緒にチャレンジしてくださる監督さんや“使ってみたい”と思うプロデューサーさんがいてこそ。

ただ、数を重ねるごとにジャッジも厳しくなりますし、期待を裏切ってしまったらすぐに呼ばれなくなってしまうわけで。前回とは違う持ち駒を準備して、演じる上でのチョイスをより多く持って現場に挑むことを常に心がけなくてはいけない。それが僕の、役者としての矜持であり、モチベーションになっています」

西田さんとの思い出を楽しそうに、そして真剣な表情で語るとともに、大師匠から受け継いだ“役者魂”も垣間見えた取材。気が早いが、次なる作品も楽しみでならない。

【濱田岳 プロフィール】
1988年6月28日生まれ、東京都出身。1998年にドラマ「ひとりぼっちの君に」(TBS)でデビュー。2004年に出演したドラマ「3年B組金八先生(第7シーズン)」(TBS)で注目を浴びる。映画初主演作「アヒルと鴨のコインロッカー」(2007年)では、「第22回高崎映画祭」最優秀主演男優賞を受賞。映画「ゴールデンスランバー」(2010年)、「永遠の0」(2013年)、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」、「HERO」(フジ)など、数多くの話題作に出演している。
2015年、「釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~」(テレ東)で浜崎伝助役に抜擢。
2026年は「刑事、ふりだしに戻る」のほか、映画「教場 Requiem」が公開に。
現在放送中の「BLOOD&SWEAT」(WOWOW)にも出演。7月からは、日曜劇場「VIVANT」 続編(TBS)が放送される。

(取材・文/橋本達典)

【第2話】

「役者がダメなら大検を…」俳優・濱田岳の転機 導かれた映画監督の言葉
10年前にタイムリープした誠(濱田岳)。パチンコ帰りの客を狙ったひったくり事件が発生すると、前世の記憶が蘇る。しかし、肝心な犯人を思い出せない。10年の経験を元に捜査する誠の、新人離れした動きに黒崎(生瀬勝久)と川島(板谷由夏)は舌を巻く。「あの日々も無駄じゃなかった」――そう思ったのも束の間、新たな犯行が。「おかしい、次の被害者は女性だったはず…!」誠の行動により、少しずつ歴史が変わり始めていた…。
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