“あの感情は何だったのか?”押見修造、漫画に描くことは「思春期に抱えた傷の治療」:惡の華
電子コミックを含め全世界で累計発行部数325万部を突破、アニメや映画、舞台などさまざまなメディアミックスが展開されてきた伝説漫画のドラマ化! 鈴木福×あのW主演、ドラマ「惡の華」(毎週木曜深夜24時放送)。原作者の押見修造先生インタビュー【後編】。創作の源泉、そして原動力とは?
【前編】では、同作に込められた思い、W主演の鈴木福×あのについて聞いた。
【動画】追い詰められた2人はあの山の向こうへと向かう「惡の華」最新話配信中
漫画「惡の華」の着想はどこから?

――漫画「惡の華」は、2009年9月~2014年5月に「別冊少年マガジン」(講談社)で連載され、電子コミックを含め全世界で累計発行部数325万部を突破。そもそも「惡の華」の着想はどこから?
「そもそもは『少年向けの純愛物語を』という発注が(別冊少年マガジンの編集)担当さんからあったんですけど、自分自身が快活な、表通り側の純愛を描けるような中学~高校時代を送ってきたわけでもないので、最初はすごく悩みましたね」
――少年向けの王道である分かりやすい恋愛や“思春期あるある”のような話が浮かばなかった?
「群馬県の地方都市で鬱屈とした思春期を過ごしたので、自分には無理かなあ……って。でも、そんなときに編集長から、谷崎(潤一郎)をやってほしい。あと『さくらの唄』(安達哲著)や『ヒミズ』(古谷実著)を意識して……というようなことを言われまして。谷崎や『さくらの唄』をやっていいのであればパッケージとして出せるかもしれないと思って、『じゃあ、やらせてください』とお返事しました」

――谷崎潤一郎に「さくらの唄」、「ヒミズ」。それぞれ作風や内容を調べるとわかりますが、いわゆる「少年向け」にも「純愛」にもなりませんよね(笑)。
「純愛×ヘビーという相反する発注だったので、そうなるわけがない(笑)。でも、自分の中学時代を描いてみたいという衝動がずっとあった中、なかなかそれをやれずにいて。“そんなの誰が読んでくれるんだろう? 果たして面白いのだろうか?”という葛藤があったので、少年誌うんぬん……とか考えなくていいのなら渡りに船だなと」

――では、本作執筆の動機、描きたかったテーマは何でしょう?
「連載がスタートしたタイミングでちょうど子どもが生まれまして。ひとつたどり着いたような気がしたんですね。中学~高校時代にすごく苦しくて、群馬の田舎から上京して大学に通って、結婚して。“これまでの人生で起こったことを形にしないと死にきれない!”と言うと大げさですけど、精神的な自伝を残したいと思って。“何かから抜け出した”実感はあったのですが、それが何か分からないから漫画にしたというのが、『惡の華』を描きたいと思った動機でした。
で、自分なりの定義で少年向けの純愛ものを考えていったら主人公が体操着を盗む話になって(笑)。14歳の少年少女が“思春期を抜け出るまで”をテーマに描いているうちに、自分の思春期の心の傷や閉塞感を癒す行為にもなっていった。自分でも隠していたこと、伏せていたことがつまびらかになっていくうちに、過去の自分に一区切りできたような気がします」

――舞台となる地方都市は押見先生の出身地である群馬県桐生市を連想させますが、実体験が反映されているのですか?
「もはや地元にいる時間よりも東京の方が長いのですが、離れてみると複雑な思いがあります。果たして街がイヤだったのか、人がイヤだったのか……今では分からない(笑)。ただ、高校を卒業して上京するときは“やっと出られた”みたいな気持ちで、“これ以上地元にいたら死んでしまう!”と追い詰められていたくらい、本当に息苦しかったです」
――田舎、都会に限らず思春期のころには誰もが思う感覚ですね。
「 “そこ田舎じゃないだろう”という都会の中学~高校生からも『気持ちが分かります』みたいな感想をもらうので、場所は関係ないんだなあと。仕事でニューヨークに行ったときも同じようなことを言われましたし、世界共通の感覚なのかもしれません。育ったところで生きていける人と生きていけない人が、どこにでもいるんです」

――その当時、影響を受けた本や音楽と言いますと?
「萩原朔太郎と金子光晴という詩人にすごく衝撃を受けて、ガツーンときちゃってボードレールなんかも読んで。家に本やレコードがたくさんあったので、つげ義春や林静一といった(漫画雑誌)『ガロ』の作家も読み漁って。音楽は、はっぴいえんど、友部正人といった歌詞に特徴のある親世代のミュージシャンの曲を聞いていました。同時代ですと……それでもちょっと年上ですけど、レディオヘッドも好きでしたね」
――言葉に敏感だったんですね。
「漫画のセリフなんかは苦手ですが、本を読むのは好きでした。でも、あるとき多大なる影響を受けすぎて“それが自分なんだ!”というふうに精神が醸成されて。とはいえ“いっぱい読んでいるからって何なんだろう?”となって。それも『惡の華』を描く動機の一つになりました。
で、自意識にがんじがらめになっちゃったので一回、捨てよう。“自分の好きなものばかり描いていては創作にならないんだ、全部さらけさらけ出さなきゃ”と思い直したんです」
描くことが思春期に抱えた傷に対する治療

――今はTVerでネット局以外の地域でも見られますし、本作は「Disney+(ディズニープラス)」でアジアにも配信されています。ドラマを見た日本全国、さらにはアジアの中学~高校生からも感想が届くんじゃないですか?
「時代が変わっても、少なからずそういう中学~高校生は必ずどこかにいると思いますし、今生きている場所がツラいとか馴染めない人に見ていだきたいですね。現実世界ではできない、決してやってはいけない欲望を、春日や仲村さんが代わりに実現してくれていると思います(笑)」
――人間の秘めた狂気やひた隠しにする恥部などを描くことで、読者(視聴者)自身も知らない真の姿をあぶり出す作品。場所(国)や時代もそうですが、性別も超えて心に突き刺さると思います。
「春日の性欲がトリガーになってはいますが、男女関係なく人間を描いていますので、どちらでも共感できるかと思います。体操着を盗んで脅されて……という話では終わりません。
ドラマを見て“自分はこうはなるまい”、“うらやましい”、どちらでもいいので刺激を受けてもらえたら作者として嬉しい限りです」
――押見作品に共通して描かれる思春期の苦悩やアイデンティティの模索、抗えない衝動……。ミュージシャンの例えではありませんが(インタビュー【前編】に掲載)、45歳になっても、そうした感情を維持できるのでしょうか。
「連載が終わると、もっと深いところにある問題や感情が浮き上がってくるので“次はこれを描かなきゃ死ねない!”となってくるんですよね(笑)。『血の轍』(2023年3月に終了)を描き上げて“使命を全うした”と思ったんですけど、その後も思春期の少年を主人公にした漫画を描いていますから。自分が親になって、年も重ねて、少しずつ内容は変わってきましたが、そこは変わらないです」

――自分と同年代の人物を主人公にしないのはなぜですか?
「そういうやり方もあるんでしょうけど、どうしても思春期の少年少女になってしまうんですよね。源泉が中学~高校……とりわけ中学校の3年間に凝縮されているので、この時期のことを描くしかないという。
“あの感情は何だったのか?”ということを繰り返し描いて、思春期に抱えた傷に対する治療を行っているのかもしれません」
――最後にドラマをご覧になる思春期に苛まれている中学~高校生、そして思春期に苛まれた、かつて少年少女だった大人たちにメッセージをお願いします。
「何も考えずに無意識で過ごしてきた小学生時代を経て、中学生になって。身体や心が急激に変わったことで、これまで抱えていた自分の問題が露呈してきて。後々大人になってぶつかった問題も、根っこは中学時代にあることが分かって。“それが何なのか?”をずっと描いてきましたが、その最初の衝動が詰まっている漫画が『惡の華』です。
今思春期にいる中学~高校生のみなさんはもちろん、リアルタイムで連載を読んだ、かつての“14歳”もどうぞ楽しんでください」

ドラマ「惡の華」(毎週木曜深夜24時放送)最新話は「TVer」「ネットもテレ東」で見逃し配信中!お気に入り登録もお忘れなく!また「Disney+(ディズニープラス)」では第1話から最新話まで見放題独占配信中。
【プロフィール】
押見修造(おしみ・しゅうぞう)
1981年3月19日生まれ。群馬県桐生市出身。大学在学中の2002年に漫画家デビュー。代表作は電子コミックを含め全界で累計発行部数325万部突破のヒット作となった「惡の華」をはじめ、「漂流ネットカフェ」、「ぼくは麻理のなか」、「血の轍」、「ハピネス」など。多くの作品が映像化されている。映画「毒娘」(2024年公開)では、謎の少女“ちーちゃん”のキャラクターデザインを担当し、漫画「ちーちゃん」で映画の前日譚を描いた。
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