「のんさんの笑顔を見るだけでどれだけモチベーションが上がったか」監督・松重豊が語る俳優・のんの魅力
人生の岐路に立つ人たちが“食”を通じて一歩を踏み出す――。松重豊が企画プロデュース・脚本・監督を手掛けるグルメ×ヒューマンドラマ「おいしいのつくりかた」がPrime Videoで独占配信中。
松重が主演を務める「孤独のグルメ」(テレ東)のスタッフが、料理がつなぐ人と人との絆を温かい眼差しで描いた本作で、過去のトラブルから心を閉ざしてしまった主人公の腕利きシェフを演じる北村有起哉、料理人だった最愛の祖父の味と店を守りたい孫娘役の、のん。そして自らも出演し、現場で采配を振るった松重が語る作品に込めた思い、撮影の裏側とは?
【動画】松重豊主演「孤独のグルメ」過去作を配信中
松重豊から見た俳優・北村有起哉、のんの魅力
――まずは、企画プロデュース・脚本・監督、出演という4役を担った松重さんにお聞きします。改めまして、本作に制作者側として参加するに至った経緯をご説明ください。
松重「『孤独のグルメ』で15年近く全国のおいしいお店を回らせていただくなかで、“お世話になってきた飲食店に対するリスペクトとオマージュを捧げるような作品をつくりたい”と思ったことが一番の動機です。
15年の間にはコロナ禍もありましたし、店主の方が体調を崩されるなどの理由でお店がなくなってしまう場面も幾度となく目の当たりにして、スタッフともども心を痛めてきましたから。今回そうした思いが叶って本当によかった。北村くん、のんさんをはじめ、加賀まりこさんなど素晴らしいキャスト陣にも恵まれ、本当に素晴らしい作品になりました」
北村「僕は『孤独のグルメ』のSeason1を見たときに“(店の主人役の俳優が)役者としての自我を消し、長年厨房で働いているかのように溶け込んでいる佇まい”に感銘を受けまして。それ以来、ずっと料理人役をやりたいと思ってきたので、ようやく念願が叶いました。
ですから、声をかけていただいた瞬間には即決で、何なら台本を読む前から『やります、やります!』とお返事したくらいです(笑)」
のん「私も(オファーを受けて)“まさかの松重組だ!”と思ってすごく感動しました。松重監督が描く世界に興味がありましたし、いただいた脚本もとても素敵で“美味しいものは人を幸せにするな”と改めて感じさせられ、ぜひ参加したいと思いました」
――松重さんが脚本、監督を務めるのは「劇映画 孤独のグルメ」(2025年公開)以来となります。
松重「(初の脚本・監督作となった)映画では一応、主役でもありましたから自分の芝居も見るわけですが、監督としてあまりワクワクしなかったんですよ。俳優・松重豊が監督である自分の想像を超えることがないから(笑)。
ところが、他の役者さんの芝居を見ていると、自分が書いたセリフに対して“こういう言い方をするんだ”、“ここでこんなふうに心が動くんだ”と、非常に多くの発見があったんです。そこで、脚本・監督に特化した作品をつくりたいと考えたことも動機の一つでした」
――あるトラブルから名門レストランを解雇され、心を閉ざしてしまったシェフの水橋英二役の北村さん、レシピ動画の配信会社でディレクターとして働きながら亡き祖父の味と店を守るため奮闘する大沢加奈役の、のんさん。松重監がこの役にお2人をキャスティングされた理由は?
松重「僕は(ドラマ制作における座組の中で)俳優部なものですから、俳優さんに対する見方や尺度が他のスタッフさんやキャスティングディレクターさんとは全く違うと思いますが、一番大事にしているのは“人間性”なんですね。
演技の巧さや性格以上に、“その人自身が魅力的かどうか?”が重要で。豊かな人間性というものは確実にお芝居に反映されるものですし、画面を通して滲み出てくるものなので、同業者の目線で“この人なら間違いない”という方を選ばせてもらいました」
北村「それは嬉しい言葉ですね」
松重「のんさんはCMで一度ご一緒しただけですが、その際“彼女の素敵な人間性の裏側や表側をもっとレンズ越しに見たい!”と思わされたくらい、一瞬で惹かれました。北村くんは旧知の間柄で、人となりも熟知している。2人とも間違いないだろうという確信がありました」
のん「ありがとうございます! 私もCMでご一緒した時にとても楽しくて“もう少し長くご一緒したい”と思っていたので、今回のお話をいただけて本当に嬉しかったです」
松重「のんさんに『また何か一緒にやりたいね』と話した時に、『やりたいです!』とまっすぐな目で返事してくれたことが忘れられなくて。この(エンターテインメントの)世界は、人間性のつながりで成り立っていますからね。今回こうして作品で再会できたことは、僕にとっても非常に幸せなことでした」
のん「やっぱり、願いは口にしておくことは大事ですね!(笑)」
――松重さんが昔から知る北村さんの人間性、魅力とは?
松重「とにかく変わった人なんですよ、北村くんは(笑)。頻繁に電話をくれるんですけど、演技や仕事の相談なんてことは一度もなくて、『次に買う車は何がいいか?』とか、そんな話ばかりなんです」
北村「昔から個人的なしょうもない相談など電話させていただく間柄で。松重先輩は多趣味で物知りだから何でも答えてくださいますし、先輩のアドバイスが一番信頼できると僕は勝手に思っていて。ついこの間も『(自分の頭を指して)染めものは何がいいでしょう?』って電話しましたよね?(笑)」
松重「(笑)そういうところも含めて彼の人間性でね。人として面白い。だから選びました」
北村「面白いって!(笑)」
松重「なぜか気になるんですよ。(北村さんに)あなた、すぐに他人から興味を持たれるじゃない? これはもう才能でね。のんさんもそうですが、どういう人なのか知りたくなる。そういうのって、やっぱりキャスティングの中で大きな要素を占めるんじゃないですかね」
北村「わっ、嬉しいな。ありがとうございます」
加賀まりこ×のん、し烈なヒロイン争い!?

――福島の国道沿いに店を構える「キッチン大沢」のシェフとして長年腕を振るっていた夫の真路(中原丈雄)が突然他界。家族会議の末に、老人ホームに入所したものの、失意の日々を過ごしている加奈の祖母・智子を加賀まりこさんが演じます。
松重「加賀さんは、僕が駆け出しだったころ本当にお世話になりまして。加賀さんには、いつかまだ仕事をご一緒させていただいて恩返しできたらなと思っていたので、今回こういう形で叶えることができました。」
――気落ちして食事さえ楽しめなくなった智子が、老人ホームにやって来た水橋がつくる料理によって笑顔を取り戻します。加賀さんの表情の変化が素晴らしく、何よりチャーミングです。
北村「こう言っては失礼かもしれませんが、本当に可愛らしくて。現場でもノリノリでしたよね?」
松重「実に可憐でした。祖母と孫娘という間柄にありながら、し烈なヒロイン争いを繰り広げていましたよ(笑)」
北村「裏ではバチバチだったんですか?(笑)」
のん「(笑)、えっ!? ないです、ないです!」
松重「いやね、それくらい甲乙つけがたいチャーミングなお2人で。加賀さんなんか放っておいたらどんどん可愛らしくするものだから(笑)、『それ以上、はしゃがないでください』ってお願いしたほど魅力的に演じてくださいました」
――先だって行われたテレ東プラスのインタビューで北村さんは「水橋のポークソテーを食べた瞬間、加賀さんが“うわっ……”って、素晴らしい表情をされるんですよ」と、お芝居を絶賛されていました。
のん「それまでの暗い顔とは違って、おばあちゃんがすっきり晴れやかな表情になって。本当にすごかったです」
松重「パアっ……とね、光が差したように表情が変わって。やっぱり食べる瞬間って一番生々しくその人らしさが出ると思いますし、亡き夫の味を思い出すという重要なシーンだったので、今回そこだけは2キャメ(カメラ)で撮りましたよ」
北村「逆に僕、水橋が老人ホームに来る前の無味乾燥というか、きっとおいしくもまずくもないであろう料理を食べたときに加賀さんがどんなお芝居をするのかが気になって、現場まで見に行ったんですよ。自分の撮影はないのに。だって気になるじゃないですか? あからさまに“マズ~っ!”って顔をするわけにもいきませんし」
松重「案外難しいよね、微妙な味を表現するのって」
のん「でも加賀さんは心の声が聞こえてくるようでした」
北村「そう、“なーんか、違うのよね”って聞こえてきた。さすがと言うのもおこがましいですけど、本当にすごかったです」
――おいしい料理と出会い生きる希望を見出した智子が水橋と加奈を巻き込んで、売却寸前となった「キッチン大沢」復活に向けて動き出す――という物語。
のん「水橋さんの料理を食べるようになってからは、それまで何かと理由をつけて断っていた施設の催しに参加したり、周りの人たちと楽しそうに話をしたり。おいしい力ってすごいなと思いました」
北村「味覚の記憶というものが、人にとっていかに大事なものなのか。おいしい料理がどれくらい人を元気づけるか。加賀さんの素晴らしいお芝居も手伝って、画面から伝わってくると思います」
――今回の主役である肉厚のポークソテーをはじめとする劇中の料理は全て、「劇映画 孤独のグルメ」も担当されたフードコーディネーターの飯島奈美さんが調理。画面越しにも食欲をそそりますね。
松重「そこはもう、飯島さんのおかげです。“おいしい料理をおいしそうに撮る”という『孤独のグルメ』で培ったノウハウも大いに役立って、加賀さんをはじめキャスト陣がリアルにおいしいものを食べている表情を捉えるということを徹底しました。
ポークソテーをおいしく収めるためにカメラテストやレンズテストを何度も重ねて。今回は海外でも配信されるので、“このポークソテーを食べるために日本に行きたい”と思ってもらえるクオリティーを目指しました」
ポークソテーが人をつないでいく物語
――北村さんは水橋役をどう捉え、どう演じようと思われましたか?
北村「水橋の登場シーンからして黒づくめで不穏な空気をまとっているんですが、実は性格的に暗くて寡黙なだけという(笑)」
松重「“不穏”な空気を出したんですよ。後々ただ暗くて寡黙な男ってことは分かるんですけど、“ワケあり”な感じは出したかった。長年シェフをやってきて“本当に順風満帆だったのかな……?”と思わせたくてそうしました」
北村「どこか陰がある、何か背負っている男なんですが、そこらへんは加減して、重くなりすぎないように演じました。トラブルがもとでレストランを解雇された後も老人ホームで働ける社会性はありますし(笑)、結婚もして子どももいますからね。必要以上に怖い男に見せる必要はないんじゃないかなと。
あくまでこのドラマの主役はポークソテーであり、ポークソテーが人をつないでいく物語なので、自分があまり陰を濃くしすぎないように注意しました」
松重「かつての職場での水橋、家庭での水橋、レストランをクビになった後の水橋――。はっきりと描いてはいませんが、そこはドラマを見て想像していただきたいです。今回は視聴者のみなさんにゆだねるということを大事にしたかったので」
北村「おっしゃる通り、黙っている中で何かを訴えかける演技を観客のみなさんに読み取ってもらう。そこがこの物語の面白さだと思います。
個人的には、料理人は調理中に喋りませんし寡黙な男でしたから、“セリフが少ない中でいかに厨房に溶け込んだ本物の料理人に見えるか?”という表現を模索する作業が楽しかったですね」
松重「水橋は本当に不器用な人で、プロ意識が強すぎるあまりどこかで家族をないがしろにしてしまった部分があって心に深い傷を負っている。そういう人にとっても、どこか救いがないといけないのかなというのは描く上で意識していました」
――のんさん演じる加奈は物語を引っ張るエンジンのような存在ですが、大切にしたこと、意識されたことは?
のん「小さい頃からおじいちゃんと並んで厨房に立っていただけあって、おいしいものを作る人へのリスペクトを忘れないところは大切にしました。演じる上では、思い立ったらすぐ行動に移すおばあちゃん譲りの行動力やエネルギーを表現しようと意識しました」
松重「加奈が明るくいい子で。編集作業で自分の顔と向き合う時間は楽しくないのですが(笑)、のんさんの笑顔を見るだけでどれだけモチベーションが上がったか分かりません。本当に救われました」
――加奈と智子にも台本には書かれていないエピソードがあったのですか?
松重「加奈とおばあちゃんの過去にしても、最初は台本に書いていたんですよ。子どもの加奈が『私も料理人になりたい』と言うんだけど、智子が『ここはおじいちゃん、おばあちゃんの場所だから、加奈は加奈の人生の中で料理と出会って、そのときの自分にできることをやればいいんじゃないの?』といったようなやりとりもあったんですけど、そこは視聴者のみなさんの想像力を信じて割愛しました」
――加奈が、おいしい料理を多くの人に味わってほしいとの思いでレシピ動画の配信会社で働いていることは、ちゃんと伝わってきました。
松重「それぞれのサブストーリーやバックボーンの部分は、みなさんに読み取っていただきたかったので、それならばよかった。今回の場合、60分以上、70分未満という時間の制約がありましたから、“足す”ことはなかなかできませんでしたが、ちょうどいい引き算と割り算ができたんじゃないかと思います」
明日公開のインタビュー【後編】では、松重が語る作品に込めた思い、それぞれが考える“おいしい”味について聞く。
ドラマ「おいしいのつくりかた」がPrime Videoで独占配信中。
【プロフィール】
松重豊(まつしげ・ゆたか)
1963年1月19日生まれ。福岡県出身。大学卒業と同時に蜷川幸雄が主宰する劇団「蜷川スタジオ」に入団し演劇活動を始め、舞台、ドラマ、映画などに多数出演。2012年スタートの「孤独のグルメ」(テレ東)は今年でシーズン11を迎える人気作、「劇映画 孤独のグルメ」(2025年公開)では主演に加え脚本・監督も務めた。2016年よりラジオ「深夜の音楽食堂」(FMヨコハマ)のパーソナリティを務める。2026年12月13日には、FMヨコハマ「深夜の音楽食堂」10th ANNIVERSARY 『向井秀徳×松重豊~地獄の諸行無常~』が神奈川県・KT Zepp Yokohamaで開催される。
X:@mattige19
Instagram:@mattige19
北村有起哉(きたむら・ゆきや)
1974年4月29日、東京都出身。1998年、舞台「春のめざめ」、映画「カンゾー先生」で俳優デビュー。確かな演技力と独特の存在感で、舞台・映画・ドラマなど幅広く活躍する実力派。主な出演作に、連続テレビ小説「おむすび」、ドラマ「ムショぼけ」「たそがれ優作」「小さい頃は、神様がいて」「リブート」、映画「太陽の蓋」「ヤクザと家族 The Family」「すばらしき世界」「愛にイナズマ」「逆火」など。映画「わたしの知らない子どもたち」が公開中。
のん
1993年7月13日生まれ。兵庫県出身。俳優、音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。劇場アニメ「この世界の片隅に」(2016年公開)で主人公の声を演じ、数々の映画賞を受賞。映画「私をくいとめて」(2020年公開)、「Ribbon」(2021年公開/脚本・監督・主演)、「さかなのこ」(2022年公開)、「平行と垂直」(2026年公開)、配信映画「新幹線大爆破」(Netflix)、TVドラマ「Tokyo middle 30」、配信ドラマ「幸せカナコの殺し屋生活2」(共に2026年)などに出演。アーティストとしては「のん自由(10)ツアー2026」を開催中。
Instagram:@non_kamo_ne
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