亡き父が愛したワサビたっぷりのかんぴょう巻きに号泣…“おいしい”の記憶が繋ぐ心

「おいしいのつくりかた」松重豊×北村有起哉×のんインタビュー【後編】
料理がつなぐ人と人との絆を温かい眼差しで描いたグルメ×ヒューマンドラマ「おいしいのつくりかた」がPrime Videoで独占配信中。企画プロデュース・脚本・監督を手掛ける松重豊、主人公の腕利きシェフを演じる北村有起哉、料理人だった最愛の祖父の味と店を守りたい孫娘役の、のんのインタビュー。【後編】では、自らも出演し、現場で采配を振るった松重が語る作品に込めた思い、それぞれが考える“おいしい”味について聞く。

【前編】では、松重が作品に込めた思い、松重から見た北村、のんの俳優・人としての魅力などについてトーク。

【動画】松重豊主演「孤独のグルメ」過去作を配信中

松重豊、本作に込めた思い「もう2度と食べられない喪失感」


――本作では、松重さんが企画プロデュース・脚本・監督を手掛け、さらには加奈の祖母・智子が入所する老人ホームの施設長役で出演もされています。

松重「ギャラ(予算)を圧縮するために一番安い自分を出演させたんです(笑)」

北村「俳優というのは、台本上のお芝居が終わっても監督が『カット!』って言わない限り、アドリブででもお芝居を続ける必要があるのですが、松重さんとのシーンでは、(今まで演じていた松重さんが)僕の目の前で急に真顔に戻って『はいカット、確認します』と言うんですよ。

役者としてお付き合いいただいていた雰囲気から急に置いてきぼりを食らった感覚になりました(笑)」

のん「松重監督は作品への愛情と集中力がものすごくて、演出を受ける時も役柄一人ひとりに対する面白がり方が楽しく、ワクワクしながら撮影に臨めました。脚本に書かれていないキャラクターの背景を聞いても全てに明確な答えが返ってくるので勉強になりました」

松重「のんさんから『こういう流れで演じた方が面白い』と提案してもらった部分は、台本にもどんどん反映しました。役者がその生き生きとした目線で物語を紡ぎ上げることが一番大事だと考えています」

――舞台は、地元で長年愛されてきた洋食店「キッチン大沢」。たくさんのメニューがあるなか、物語の鍵を握る料理をポークソテーにしたのはなぜでしょう?

松重「この数年で世の中の物価が想像を超えるほど高くなりました。この辺(取材場所の六本木)であればランチで1500~2000円くらい、ディナーで4000~5000円はかかる時代において“少し贅沢したいけれどお財布があまり痛まない料理”と考えたとき、ランチで1500円、ディナーでも2000円程度で食べられるポークソテーが浮かびました。

また、僕自身が豚肉の、特に脂身が大好きでして(笑)。取材をするなかで、豚のえさや育て方によって味が全く変わる奥深さを知ったことも大きかったです。ドラマにも登場した麓山高原豚が、すごくおいしくて。赤身だけじゃなくて、豚の脂身とのバランスによって旨味成分が口の中でジュワっと広がるんですよ」

のん「本当においしいお肉で。ドラマでは加奈が養豚場に出向いたり、お野菜を作る農家さんを訪ねたりするんですけど、あのシーンがあることで、さらにおいしさが伝わってくると思いましたし、“こういう方々がいらっしゃるから私たちはおいしいものが食べられるんだ”という感謝の気持ちも湧いてきました」

――北村さんは実際にポークソテーをつくる役柄ですが、調理シーンではご苦労などはありましたか?

北村「事前に包丁での切り方など、調理工程の指導と講習を受けました。ただ、プロのシェフ役ですので一気にスッと肉を切らなければならないのですが、自宅でお肉を買って練習したときは全然うまくいきませんでしたね(笑)」

松重「セリフが少ないぶん、『プロフェッショナルな仕事を見せてください』という無言のプレッシャーを与えていました(笑)」

北村「事前に僕が包丁で手を切っちゃったりしてね。『無理なことはしないで』と言われました(笑)。なのであとはもう、松重監督にお任せして。上手く料理していただいたので、有名なレストランで修行を積んだ腕利きの料理人に見えたんじゃないでしょうか」

――インタビュー【前編】でもおっしゃっていましたが、本作の制作にあたり松重さんは「最近胸を痛めることが多い地方の老舗飲食店の廃業、そして復活という骨格を据えました」とコメントを。本作にはどんな思いが込められていたのですか?

松重「田舎でやられている『キッチン大沢』のような飲食店は、今の時代もはや風前の灯火なんですよ。僕も地元の福岡に帰ると、おいしかった店はもう今ほぼなくなっちゃったり、大手のチェーン店に変わったり……。もう2度と食べられない、あの味を再現できない。その喪失感ですよね。失われていく僕らの財産っていうものは計り知れないものがあると思って。であれば、そういう場所を再生していく。その過程を描きたんです。

最近はクラウドファンディングやなんかで昔の味を受け継ぐ取り組みをされている若い人たちもいますが、今一度、自分たちの文化なんだと認識していただきたい。都会で暮らす方には、地方の食にも意識を向けてもらえたら……という気持ちはありました」

北村「比較的、老舗の洋食店だとか町中華の店が残っている東京でさえ、再開発で店がなくなったり、店主の高齢化で閉めちゃったりしていますから。そういう個人店のありがたみであるとか、地元の人々にとっての必要性、長年愛されてきた味や店が失われることの意味を考えていただけたら嬉しいですよね」

“おいしい”の記憶…北村有起哉、亡き父のかんぴょう巻き


「おいしいのつくりかた」松重豊×北村有起哉×のんインタビュー【後編】
――北村さん、のんさんは本作からどんなメッセージを受け取りましたか?

北村「登場人物も含めた、さまざまな“再生”を描いているけれど、僕はもうちょっと単純にね、“食べ物を残しちゃダメだよ”とか、そういう食へのありがたみを思い起こすきっかけになればいいなと思いました。

『いただきます』、『ごちそうさまでした』という挨拶も日本だけのものだと聞きますが、フードロスが叫ばれる昨今、食べ物への感謝を忘れない。人間“おいしい”って思えることは、本当に大事ですからね」

のん「私も、おいしいことって大事だなって改めて思わされました。加賀さんが演じられたおばあちゃんも、水橋さん(北村)がつくる料理によって生きる希望を取り戻して。加奈(のん)や水橋さんと、亡くなったおじいちゃんが遺したお店をどうにか復活させようと動き出して。おいしい料理にはそれだけのパワーがあるし、だからこそ、失くしてはいけないお店や味があると思いました。

あと“味の記憶”です。今回はポークソテーが主役でしたが、みなさんそれぞれにそれぞれの思い出の味があると思うので、そういう自分自身の記憶をもう一度振り返ってみるのもいいかなって」

――亡き夫がつくったポークソテーの味を思い出す加賀さんのお芝居からも、味の記憶というものがこれほど人にとって大事なものかと改めて感じました。

北村「味の記憶といえば僕もね、ドラマを見てふと思ったんですよ。配信された当日ほぼリアルタイムで見たんですけど、“あれ? いつ頃からわさびが食べられるようになったのかな?”とか。“いつからシュウマイにからしを付けて食べるようになったのかな?”とか」

松重「確かに、いつからだろう? 覚えていないよね」

北村「パクチーだってセロリだって、いつの間にか食べられるようになって。嫌いだったのにむしろ好きになって。食べられた途端に、例えば春菊とか、今ではすき焼きにはなくてはならない副菜になっている。わさびだってからしだって、そう。おいしさを知ってからの食の広がりってものすごいじゃないですか?」

松重「おいしいと自覚してからの広がり、豊かさたるや、ね」

北村「うなぎの白焼きは覚えているんですよ。“あの時あの店で初めて食べたな”って。でも、いつから食べられるようになったのか思い出せないものもあって……ちょっと脱線しちゃいましたけど、味の記憶っていいところを付くなあと」

松重「食ってダイレクトに脳へ刺激がいくから“あれ!? これなんか食べたことある!”ってなると、鮮明に蘇ってくるものがたくさんあって。そこが味の記憶のすごいところだよね」

――「孤独のグルメ」のスタートから15年近く。さまざまな店を食べ歩いてきた松重さんが思う「おいしい」に必要な要素とは何だと思われますか?

松重「『孤独のグルメ』をやってきて思うのは、お店が持つ“物語”です。店主や女将さん、常連さん、歴史といった物語を想像しながら食べることで、食べる前から自分の中で一番の味付けが完了しているんだと思います。

作り手の背景や物語に触れて初めて、いっそう『うまい!』と思える。だから、今度はそ
の店にまつわる物語を描きたいと思ったんです」

北村「今のお話を聞いて、また思い出しました。もう20年近く前の話になりますが、亡くなった父の行きつけだったお寿司屋さんに一人で入ったんですよ。で、大将に『おやじが食べていた順番で握れますか?』って聞いたら覚えていてくれて、一品ずつ順番に出してくれてね。最後に父が好きだったワサビたっぷりのかんぴょう巻きを出してくれたんです。それを食べながらバタバタしていた葬儀の時には出なかったおやじへの感情が一気に溢れ出てきて……。“食と店の記憶”のすごさを実感しました」

松重「この作品でも、先代の味と今の味をつなぐ人々の物語を描いていますし、そのドラマ性がおいしさと感動を生むと考えています。別に大風呂敷を広げるつもりはないのでね、何でもいいから食について考え、思い出してもらえると嬉しいです」

のん「私も今のお話を聞きながら、地元にある長いギョウザを急に食べたくなってきました」

北村「長いギョウザ!? 神戸のやつかな?」

のん「うちは姫路なんですけど、地元発祥の回転焼き屋さんがあって、そこのギョウザがすごくおいしいんです」

松重「回転焼きのお店なのに?」

のん「地元のチェーン店で、担々麺とギョウザだけでやっている店舗もあって。よく行っていたお店が場所移動しちゃったんです」

松重「それは残念だったね」

のん「松重さんがおっしゃっていたように、それだけで味が変わっちゃった気がしました」

北村「その店の場所込みでおいしかったんだ?」

のん「そうです。チェーン店だからどこも味は一緒のはずなんですけど、なんだか悲しかったです」

北村「こちら側の勝手な思いかもしれないけど、移転して小ぎれいになっちゃうと“なんか違う”ってなるよね。洋食屋さんとか町中華のお店であれば、ちょっと油の染みついた壁とかね、テーブルとか。そういうのも大事な味の一つだから」

――では最後に、これから「おいしいのつくりかた」をご覧になるみなさんにメッセージをお願いします。

北村「本作は『おいしいのつくりかた』というタイトルですが、僕は『優しいドラマのつくりかた』だと感じました。松重監督の優しさに包まれた現場でした。食や味覚の記憶を通じて人はこんなにもつながり優しくなれるのだと実感できる作品。多くの方々にご覧いただければ嬉しいです」

のん「おいしいものには人を幸せにし、生きる活力を作る力があります。その“おいしい”を存分に感じられ、見た方の生活を彩る作品になっていると思います。ぜひ、お楽しみください」

松重「俳優としてドラマ作りを見てきた経験と、『孤独のグルメ』での15年で学んだ“おいしいお店の魅せ方”の全てを詰め込みました。今までにない新しい視聴体験になると思います。アジアから世界へ発信する日本文化の出発点になれば幸いです」

――SNS等では「早く第2話が見たい」との声がたくさん。気が早いですが、続編の構想はありますか?

松重「第1話と打った時点で思惑が透けて見えると思いますが(笑)、もし続きができたら登場人物が錯綜するシェアード・ユニバースの方式でやりたいんで、北村くんとかのんさんが別な話で、水橋と加奈で出てきたりする可能性もある。そのときはまた、よろしくお願いします。

ともあれね、見ていただかないことには何も始まりません。人生の岐路に立つ人々が“食”を通じてつながり、新たな一歩を踏み出す物語。みなさんどうぞご覧ください」

ドラマ「おいしいのつくりかた」はPrime Videoで独占配信中。

【プロフィール】
松重豊(まつしげ・ゆたか)
1963年1月19日生まれ。福岡県出身。大学卒業と同時に蜷川幸雄が主宰する劇団「蜷川スタジオ」に入団し演劇活動を始め、舞台、ドラマ、映画などに多数出演。2012年スタートの「孤独のグルメ」(テレ東)は今年でシーズン11を迎える人気作、「劇映画 孤独のグルメ」(2025年公開)では主演に加え脚本・監督も務めた。2016年よりラジオ「深夜の音楽食堂」(FMヨコハマ)のパーソナリティを務める。2026年12月13日には、FMヨコハマ「深夜の音楽食堂」10th ANNIVERSARY 『向井秀徳×松重豊~地獄の諸行無常~』が神奈川県・KT Zepp Yokohamaで開催される。
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北村有起哉(きたむら・ゆきや)
1974年4月29日、東京都出身。1998年、舞台「春のめざめ」、映画「カンゾー先生」で俳優デビュー。確かな演技力と独特の存在感で、舞台・映画・ドラマなど幅広く活躍する実力派。主な出演作に、連続テレビ小説「おむすび」、ドラマ「ムショぼけ」「たそがれ優作」「小さい頃は、神様がいて」「リブート」、映画「太陽の蓋」「ヤクザと家族 The Family」「すばらしき世界」「愛にイナズマ」「逆火」など。映画「わたしの知らない子どもたち」が公開中。

のん
1993年7月13日生まれ。兵庫県出身。俳優、音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。劇場アニメ「この世界の片隅に」(2016年公開)で主人公の声を演じ、数々の映画賞を受賞。映画「私をくいとめて」(2020年公開)、「Ribbon」(2021年公開/脚本・監督・主演)、「さかなのこ」(2022年公開)、「平行と垂直」(2026年公開)、配信映画「新幹線大爆破」(Netflix)、TVドラマ「Tokyo middle 30」、配信ドラマ「幸せカナコの殺し屋生活2」(共に2026年)などに出演。アーティストとしては「のん自由(10)ツアー2026」を開催中。
Instagram:@non_kamo_ne
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