すなっぷ

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2009

3月25日 #256 「触れる絵画」


目の不自由な人のためのペンがある。誕生させた男がいる。

描く喜び、感じてもらうために。

上野の森美術館で開催された日本画の展覧会「遠き道展」。目の不自由な方にも絵画を楽しんでもらおうと、絵と同じレリーフが置かれ、触れることで絵を鑑賞する工夫がなされている。更に、会場の一角では、目の不自由な人のためのワークショップが開かれた。皆が手にしている金属性のペンは、「みつろうくん」。ペン先から流れ出るのは、その名の通り「蜜蝋」。ミツバチが生成するミツロウの使用は、安全性を考えてのこと。

みつろうくんの発案者は、盲学校教諭の栗田晃宜さん。4年前、盲学校に赴任した時の経験が開発のきっかけだった。それは、「盲学校に赴任してみると、何も道具がない。科学の進んだ現代にさえ、そういう物がない。しかし、目の不自由な子どもたちに自由に絵を描かせたい。」ということ。そこで栗田さんは、提案書を作成し、全国の工房に宛ててメールを送った。

栗田さんの思いに意気を感じ快諾したのは、大田区で町工場を経営する田中隆さん。以来、試作を重ねること3年間。遂に、「みつろうくん」第一号を作り上げた。

それは、細い形状記憶合金を束ねた筆先から、胴体に仕込まれた蜜蝋が、ヒーターで温められ液状になり、出てくるというもの。しかし、改良の余地はまだまだあった。

使用した方からの意見は、「もっと滑らかに、細い線が描けるものが欲しい」というもの。そこで、いくつかの改良を施し、第2号が完成。

美術展の会場には、みつろうくんの改良を心待ちにしている人がいた。試した人たちからはこんな声が聞かれた。

「線を引いたことすら、もう何十年もないので、描けるものかと思っていたんですけど、とにかく楽しいです。」「加減とか難しかったけど、慣れてきたら面白くなってきた。なんか不思議な感覚!」「家庭では無理でも、学校単位でこういう機械があると良いなあっておもいましたね。」「全然描いたことないんで、恥ずかしいんですけど、こういうので楽しんで出来たらもっと世界が広がるかなって思いました。」

制作者の田中は言う。「ワークショップで実際に使ってもらっていると、もう本当にこれは続けなくちゃいけないなって。」

誰かのために、笑顔のために。