【天皇賞・秋 みどころ】世代の壁か無差別級の頂か、それとも王座奪還か
2021.10.30
天皇賞(秋)の歴史を紐解くと、"激突"という言葉がよく似合う。
スピードとスタミナ、そして勝負根性の3つの要素がハイレベルに備わっていないといけないとされる東京芝2000mが舞台となっているだけに、毎年のように有力馬たちがしのぎを削りあう。
例えば、アーモンドアイが連覇を飾った直近2年のレースを振り返ると、2年前は1つ下の皐月賞馬、サートゥルナーリアとのマッチレースを制し、昨年は迫りくるフィエールマン。
そして1つ下の最強牝馬であるクロノジェネシスを力でねじ伏せGI勝利数の新記録を打ち立てた。どちらのレースでもアーモンドアイの表情にいつものような余裕がなく、必死に走って勝ったという印象が強い。
他の年もそうだ。古くはエアグルーヴが同級生の牡馬、バブルガムフェローと叩き合いの末に制して女帝に君臨したこともあれば「1番人気は勝てない」というジンクスにテイエムオペラオーは真っ向から挑んで勝利。
その圧倒的な強さを称え、いつしかオペラオーは覇王と呼ばれるようになった。また、同級生の最強牝馬であるウオッカとダイワスカーレットが真っ正面からぶつかり合ったという年だってある。
言い換えれば、実力馬の激突が多い天皇賞(秋)は名レース・名勝負が生まれる舞台になっていると言えるだろう。実力馬が天皇盾を求めがっぷり四つに組んで勝負に挑むからこそ、我々はその姿に胸を打たれるのだ。
コントレイル 写真:伊藤 康夫/アフロ
そんな天皇賞(秋)は今年もまた「3強対決」という評がもっぱらだが、その筆頭格は3冠馬、コントレイルだろうか。
父と同じく、無敗で三冠を制したころから「ディープインパクトの最高傑作」という仰々しいキャッチフレーズがつくようになった彼。
昨秋以降の走りはダービー以前のような軽やかさよりも「勝たなきゃいけないんだ!」と言わんばかりの闘争心あふれる走りが印象深く、初黒星を喫したジャパンCでもあのアーモンドアイを相手に最後まで差し切ろうとしての2着。
彼女を凌ぐ上がり3ハロン最速の末脚を記録した姿を見て、次代へのバトンは受け継がれたかのように思えた。
ところが、4歳緒戦となった大阪杯では単勝1.8倍のダントツ支持を得ながらまさかの3着に完敗。
降雨による馬場悪化で持ち味を削がれたのが主な敗因だが、GI初挑戦だったレイパパレにあっさりと金星を献上したところにどこか物足りなさを覚えた。この敗戦によるダメージが大きかったのか、この後に予定していた宝塚記念も回避。今年2戦目としてこのレースを選んだ。
無敗で駆け抜けたクラシック三冠ロードとは異なり、古馬GI戦線ではまさかの2連敗。気が付けば菊花賞の勝利から1年、勝ち星から遠ざかってしまっている。偉大なる父・ディープインパクトの最高傑作として、このまま終わるわけにはいかないだろう。
幸い、東京競馬場は得意中の得意コース。あの爆発的な末脚が最大限に生かされるのは間違いない。
ちなみに歴代の牡馬三冠馬で古馬GIでの勝利がなかったのは菊花賞直後に引退したセントライトのみで、残る馬たちは必ず制している。
現役引退までラスト2戦と終わりが見えてきた彼にとっては一戦一戦がまさにラストチャンス。コントレイルの持ち味である燃えるような闘志を感じさせる走りは秋の府中でも炸裂するだろうか。失いかけている現役最強の称号を奪い返すお膳立ては十分に整った。
コントレイルにとって天皇賞(秋)は王座を奪い返す一戦かもしれないが、グランアレグリアにとっての天皇賞(秋)は長らく欲していた3つ目の頂かもしれない。
3歳時からマイル戦では圧倒的なスピードを見せていた彼女は昨年、とうとうスプリント界まで制圧。短距離界にもはや敵なしとなった今年は自分の限界を超えると言わんばかりにこれまで未知の距離だった2000mのGIに照準を絞り、5歳最初のレースに大阪杯を選んだ。
1つ下の三冠馬コントレイルとの対決は大いに盛り上がったものの、結果は無念の4着止まり。コントレイルに先着されるのはともかく、年下のレイパパレに逃げ切られてしまった。敗因は距離か、それとも降りしきる雨か。何とも不完全燃焼のままレースを終えてしまった。
その後マイルに戻れば、やはり無敵の女王。連覇を狙った安田記念はダノンキングリーの激走に屈したが、それでもタイム差なしのアタマ差2着。
スピードがあることは誰もがわかっているだけにあとは2000mをも争覇できるスタミナ。秋の府中で先頭のままつき進めればスプリント、マイル、そして中距離という3つ目の頂に到達する。無差別級の強さを手に入れるために彼女は天皇賞(秋)に挑む。
ちなみに彼女の鞍上を務めるクリストフ・ルメールはこのレースで目下3連覇中なら、藤沢和雄調教師は秋の盾を6度獲得しているという得意舞台。師にとってはラストの天皇賞(秋)への挑戦となるだけに並々ならぬ思いがあるはずだ。
エフフォーリア 写真:日刊スポーツ/アフロ
この2頭をまとめて負かすとすれば、今年の皐月賞馬である若武者・エフフォーリアか。
ダービーではシャフリヤールの猛追にハナ差屈しての2着となったが、それまでは4戦無敗のパーフェクト。スタートからスッと前に付けて流れに乗り、早めにスパートをかけて後続を離していくというレース運びはまさに一流馬のそれ。
この2頭が大阪杯で敗れた時はこうした先行馬がスイスイと前を走るのを最後まで捕まえられなかっただけに、同じ轍を踏む可能性はなくはない。
この馬とともに成長を遂げてきた鞍上・横山武史は先週の菊花賞をタイトルホルダーで制するなど、今や押しも押しれもせぬトップジョッキーの仲間入り。初古馬相手の一戦で最強馬の座に就くのだろうか。
王座奪還、距離の壁を乗り越える、そして世代を超えた王者へ――今年の天皇賞(秋)もスタート前からまた待ち遠しいレースとなりそうだ。
■文/福嶌弘