【天皇賞・秋】涙の先に見た、真の王座 ~若武者が魅せた王者のレース運び~

その他

2021.10.31


レースを制したエフフォーリア 鞍上の横山武は感極まる 写真:スポニチ/アフロ

 勝負事は追われる者よりも、追う者の方が強いのが鉄則だ。失うものがない分、限界を振り切った勝負ができる。

 チャレンジャーであるはずの3歳馬が古馬をねじ伏せる時、追う者だからこその強さを見せることがあった。

例えばバブルガムフェロー、そしてシンボリクリスエスもチャレンジャーという身分を最大限に生かしたレースをして、天皇賞(秋)を制していたように思う。

 その観点で見ると、今日のエフフォーリアはどうだろうか。

 無敗での皐月賞制覇、そして1枠1番という絶好枠を引いて迎えたダービーは単勝1.7倍というダントツの支持を受けて臨んだ結果、最後の最後でシャフリヤールに差され、ハナ差の2着に。

無敗での二冠も世代最強の称号も掴みかけたところでスルリと逃げていった。

 改めてダービーのVTRを見ても、横山武史は間違いなく乗ったし、エフフォーリアは自分のできるベストの走りをした。それでも最後の最後で差されたのは追われる者ゆえの弱さがどこかにあったように思える。

「頂点を掴むために、足りないものは何か」――

夏から秋にかけてエフフォーリアに与えられた課題がこれだった。

管理する鹿戸雄一調教師が「ダービーでの負けがあったから、厩舎一丸になれた」と語ったように、エフフォーリアを真の王者にするために厩舎スタッフ全員が立ち上がった。

そして迎えた秋。

エフフォーリアは同年代の馬たちと再度争う菊花賞よりも強豪古馬を相手にする天皇賞(秋)を最大の目標にした。今思えば、ダービーで掴みかけたものをしっかり掴み取るために選んだ策だったのかもしれない。

 天皇賞(秋)が行われる東京芝2000mの舞台はエフフォーリアにとっては距離もコースもベストな条件。

3歳馬同士で走ればまず負けないであろう舞台だが、天皇賞では初めて古馬と一緒に走る。

それも相手は昨年の三冠馬、コントレイルにマイル、スプリントGIを立て続けに勝ってきた女王グランアレグリアなどの超一流馬たちばかり。

 春とは違い、王者としてではなく挑戦者として挑むGI......

いつもと違う立ち位置に対してエフフォーリアは戸惑うこともなければ、古馬相手に怖気づくこともなかったように思う。少なくともパドックで堂々と歩く様子はどの馬よりも立派で逞しく映った。その姿はまるで「勝つのは俺だ!」と言わんばかりに。

 エフフォーリアの自信はレースが始まるとさらに大きくなっていったように思う。ライバルであるグランアレグリアが意表を突く先行策を取るのを横目に見ながら、後ろに付けたコントレイルを警戒するという様子の位置取りで道中を進めていった。

この位置取り、通常なら「前門の虎、後門の狼」と言わんばかりのもの。

前を気にしすぎれば後ろのコントレイルに差されてしまうし、かといって彼を意識しすぎると前にいる女王に押し切られる――

挑戦を受ける側の王者が自分の強さを誇示するためにあえて取るのならばわかるが、挑戦する側の3歳馬が取るポジショニングではない。

ましてや、レースのペースは1000mで60秒5というGIにしては緩やかな流れ。こうなれば前にいるグランアレグリアにはピッタリな流れで、誰よりも切れる末脚を持つコントレイルにとっても都合がいい。

エフフォーリアには好ましくない状況に映ったが......実は誰よりもこの条件を待っていたのが彼だった。


2021 天皇賞 秋 (GI) エフフォーリアが優勝 写真:スポニチ/アフロ

この勝利で、エフフォーリアは2002年のシンボリクリスエス以来、19年ぶりとなる3歳馬による天皇賞(秋)制覇。同年のクラシックホースとしては初めてとなる秋の盾を手にすることに。

さらに鞍上の横山武史は祖父、父に続いて史上初となる3世代にわたっての天皇賞制覇。世界でも例を見ないような大記録を成し遂げた。

こんな記録ずくめの一戦だったが、横山武史にとっては「相棒」エフフォーリアを挑戦者から真の王者にしたことが何よりうれしかったに違いない。

だからこそ、ゴール直後から横山武史の眼には涙が浮かんだのだろう。

ほんの数センチ差で逃したダービーから5ヵ月、同じ東京の舞台でリベンジが叶ったのだから。

三冠馬も短距離女王もねじ伏せた若武者はこの日、世代最強どころか、現役最強馬の座に就いたと言っても過言ではないのだろう。

「ダービーのこともあって、人生で初めて嬉し泣きをした」と、開口一番に語った横山武史。

おそらく悔し涙にぬれたあの日の思いがきっと何倍にもなって帰ってきたことだろう。現役最強の座に就いたエフフォーリアとともに今後、どこまでタイトルを積み重ねていくかが楽しみでならない。


■文/福嶌弘


2021 天皇賞 秋 (GI) エフフォーリアが優勝 写真:スポニチ/アフロ


第164回 天皇賞・秋(GI)着順
10月31日(日)4回東京8日 発走時刻:15時40分

着順 馬名(性齢 騎手)人気
1着 エフフォーリア(牡3 横山武史)3
2着 コントレイル(牡4 福永祐一)1
3着 グランアレグリア(牝5 C.ルメール)2
4着 サンレイポケット(牡6 鮫島克駿)10
5着 ヒシイグアス(牡5 松山弘平)7
6着 ポタジェ(牡4 川田将雅)5
7着 ペルシアンナイト(牡7 大野拓弥)13
8着 ラストドラフト(牡5 三浦皇成)14
9着 ユーキャンスマイル(牡6 藤岡佑介)12
10着 ムイトオブリガード(牡7 柴田善臣)16
11着 ワールドプレミア(牡5 岩田康誠)6
12着 カレンブーケドール(牝5 戸崎圭太)4
13着 モズベッロ(牡5 池添謙一)9
14着 カイザーミノル(牡5 横山典弘)11
15着 トーセンスーリヤ(牡6 横山和生)8
16着 カデナ(牡7 田辺裕信)15

※結果・成績・オッズ等は主催者発表のものと照合してください。