【NHKマイルC】シャンパンカラーが優勝!波乱を呼んだ16年ぶりの雨 内田博幸騎手5年ぶりのGI制覇
2023.5.8
写真:東京スポーツ/アフロ
降りしきる雨を見て、内田博幸は何を思っただろうか――。
さかのぼること16年前。内田はピンクカメオに騎乗してNHKマイルCを制した。単勝17番人気という伏兵を駆っての勝利は3連単973万馬券という当時のJRA重賞史上最高配当となり、大きな話題になった。
大波乱の立役者となった内田はその翌年に大井競馬からJRAへ移籍。地方競馬で年間最多勝の新記録を打ち立てた男はJRAでもその実力を遺憾なく発揮し、移籍2年目の2009年にはあの武豊を退けてJRA全国リーディング騎手に。
2010年にはエイシンフラッシュでダービーを制し、その2年後にはゴールドシップの主戦騎手として華々しい活躍を収めた。
大井競馬時代もJRAに移籍してからも華やかな経歴を歩んできた内田だったが、ゴールドシップ引退後はビッグタイトルに恵まれなくなった。
一度は掴んだJRA全国リーディング騎手の座も奪われ、毎年当たり前のように挙げていた年間100勝も2013年を最後に遠ざかり、昨年はわずか22勝でトップ20にも入れず、GⅠ勝利も2018年のフェブラリーS以来、5年も離れていた。
騎乗技術に衰えが見られたわけでも故障に悩まされたわけでもない。ただ浮上のキッカケがどうしてもつかめない......大井時代の彼を知るオールドファンはどこか歯がゆい思いを抱いていたことだろう。
そんな内田が再び輝くチャンスを得たのが、今年のNHKマイルCだった。
16年前と同じかそれ以上に混戦模様と称され、1番人気馬のカルロヴェローチェの単勝オッズは5.7倍。16年前の1番人気馬ローレルゲレイロの5.5倍とほぼ同じというほど主役不在の一戦だった。
そんなレースで内田がコンビを組んだのはシャンパンカラー。前走のニュージーランドTで初めて騎乗して、直線で進路がふさがる不利がありながらも勝ち馬とは0.3秒差の3着。
小回りコースの中山でゴチャついたことが敗因となったのだから、直線の広い東京になれば巻き返せるはず。ましてや東京の芝マイルの舞台は2戦2勝と得意としているのだから。
午前中こそ持ちこたえていたが、午後に入ってからは雨が降り始めたこの日の東京競馬場。10レース目のメトロポリタンSが始まる前に芝状態は稍重に変化し、このレースでは前に付けた馬たちが上位に入っていた。
その直後に行われたNHKマイルCのパドック。3歳馬同士の一戦な上、混戦なレースを象徴するかのようにどの馬も落ち着きなく周回していたが、シャンパンカラーはイレ込んだ様子もなくゆったりと周回。ややもすれば大人しすぎる懸念もあったが、雨に打たれながらも気合を内に秘めて周回を重ねていた。
パドックを終え、返し馬、そしてゲート入りとなっても雨はやむどころかさらに強さを増していき、いよいよレースを迎えることになった。
スタート直後からフロムダスクとオールパルフェがハナを争ったのをはじめ、先行馬が我も我もと前へと進んだため、朝日杯FSを先行策から押し切ったドルチェモアですら中団からレースをするというほど。そのため前半の3ハロンは34秒3とこの馬場状態を考えると速いペースで流れていった。
そんな流れの中をシャンパンカラーは中団やや後方に位置。スタートで少々後手を踏んだように見えたが、大井時代から豪腕と称された内田がグイグイと押していったことで出負けをカバー。
本来イメージしていた5~6番手こそ取れなかったが、前に行きたい馬が多いという状況を加味して後方に待機して、脚を溜めることに専念した。
この内田の判断が勝敗を大きく分けた。
迎えた直線。前を行くフロムダスクとオールパルフェが失速したところをタマモブラックタイとダノンタッチダウンの8枠2頭が追い上げて先頭争いを演じ始めた。直線半ばの段階ではこの2頭で決まりかと思われたが、これに迫るコンビがいた。
シャンパンカラーと内田博幸だ。
4コーナーを過ぎて直線に入るころ、外から追われたシャンパンカラーは道悪馬場を物ともせずに伸びて残り200m過ぎに前を行くダノンタッチダウンとタマモブラックタイを捕まえて先頭に立った。
直線が長い東京競馬場で残り200mの段階で先頭に立つのは少々早め。実際、このレースでもシャンパンカラーは外からオオバンブルマイに迫られたし、思えば16年前もこのあたりの位置から抜け出したローレルゲレイロをピンクカメオがゴール直前、外から差し切った。
だが、シャンパンカラーの鞍上、内田は迷いなく追い続け、左鞭を入れて脚を伸ばしていく。
懸命に粘るシャンパンカラーの走りに対してオオバンブルマイの脚が止まり、差が少しずつ開き始めたのが残り100mの辺り。
内田とシャンパンカラーの勝利が目前に迫ったところに関東のホープ、横山武史が跨るウンブライドルがまるで16年前のピンクカメオのように脚を伸ばし迫ってきたが、内田とシャンパンカラーの執念が実り、ウンブライドルの追撃をアタマ差凌いだところがゴール。得意の東京マイルでシャンパンカラーが最高の輝きを見せ、GⅠ初勝利を挙げた。
これが5年ぶりのGⅠ制覇、このレースは16年ぶりの制覇となった内田はレース後のインタビューでこのことについて聞かれるとシャンパンカラーの激走をねぎらいつつ、「遠い昔のことですが、このレースに勝てて幸せ。乗せてくださった関係者の方々に感謝です」と感慨深げにコメントした。
16年前と同じように大波乱の決着となった今年のNHKマイルC。シャンパンカラーの馬上で降りしきる雨を受けた内田博幸は何を思っただろうか――。
■文/福嶌弘