【ヴィクトリアM】すべてを洗い流した「恵みの雨」ソングラインが春のマイル女王の座に

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2023.5.15


2023ヴィクトリアマイルをソングラインが優勝 写真:東京スポーツ/アフロ

第18回ヴィクトリアマイル回顧

「お願い。すべてを洗い流して」―― レース直前から降りしきる雨を見て、もしかするとソングラインはそう思っていたのかもしれない。

1年前の春。ヴィクトリアマイルで5着に敗れるも、続く安田記念では直線で鋭く伸びてシュネルマイスターとの叩き合いを制して勝利し、GⅠホースの仲間入りを果たした彼女。

マイルの舞台にこだわり抜いてきた彼女の想いが結実し、秋もマイル路線を席巻するかと思われたが......待っていたのは試練の連続だった。

秋緒戦として臨んだセントウルSは初めての1200m戦ということで流れに対応しきれず、直線猛追も5着止まり。その後、喉に腫れが見つかり予定していたBCマイルへの挑戦も断念。

矛先を変えて臨むつもりだった香港マイルも右前脚の蹄を痛めたことで出走できないなど、コンディション不良に見舞われて思ったようにレースに出られない日々が続いた。

ソングラインが戦線に復帰したのは5歳になってから。1351ターフスプリントで連覇を目指したが、結果はまさかの10着大敗。あの鋭い末脚も、牡馬顔負けの勝負根性もすべて消え失せたかのように精彩を欠いてしまった。

そうして迎えたのが春の東京開催。2度目のヴィクトリアマイルだった。

東京コースでのレースは通算[3・2・0・1]と得意としているが、昨春と比べると勢いの違いは明らか。彼女は大敗したレースの次走は必ず連対してきたが、セントウルS、1351ターフスプリントと連敗してきたことで燃え尽きたかのようにも見えた。

レースの3日前に発表された調教後の馬体重は507キロと、これまでよりも20キロ近く重いまま。昨年のようなキレのある走りは望み薄に感じれられた。

だからか、ファンたちも彼女を信じることができなかったのだろう。今回の出走馬で唯一の混合GⅠ勝ち馬なのにもかかわらず、単勝オッズ7.6倍の4番人気にとどまった。

曇り空の下でレースが行われていたこの日の東京競馬場。戦前の予想よりも雨の降りだしは遅れたものの、10レースごろからポツポツと雨が降り出し、ヴィクトリアマイルのパドックが行われるころにはパドックに傘の花が咲く状態になっていた。

そんなパドックに姿を現した16頭の牝馬たちの中で、ひときわ輝いていたのが何を隠そう、ソングラインだった。

この日発表された馬体重488キロは自身の最高体重ではあるものの、調教後の馬体重からはマイナス19キロというシェイプアップ。研ぎ澄まされた青鹿毛の馬体はまるでナイフのような鋭さを放ち、雨の中でも光り輝いていた。

コンディションが整わずに思うように走れなかった昨秋の悔しさ、連覇どころか見せ場すら作れずに大敗を喫したサウジアラビアでの無念......ソングラインの周りで渦巻いていたであろう負の思いがレース前から降り始めた雨で流されていくようにすら感じられ、返し馬を終えるころにはどこかスッキリとしたようにも見えたのは気のせいだろうか。

そんな雨が降る中で、今年のヴィクトリアマイルは行われた。

これといった先行馬がいないため流れが落ち着くのではと思われていたが、最内枠のロータスランドが逃げて前半3ハロンを34秒2という過去10年で3番目に速い流れに。

これをソダシやサウンドビバーチェらが追いかけていき、さらに濡れた芝でいつものように末脚を伸ばせないと思ったのか、1番人気のスターズオンアースさえも普段よりも前の位置に付けるという積極策を見せたことでこの馬場にしては流れが速くなっていった。

そんな中でソングラインは馬群のちょうど真ん中あたりを追走。前過ぎず後ろすぎないという位置取りで脚を溜めると、馬群の内側へと潜り込むように進路を取っていった。

雨が降っていることを考えれば、外へ出して馬場が乾いている方へと進路を取るのがセオリー。レース後にソングラインに騎乗していた戸崎圭太も「内に入ってしまい、どうなのかと思った」と振り返ったように本来のセオリーとは反した走りなのは間違いない。

馬場の悪い内を突いたことが仇になり、伸びきれずに大敗するのでは......と思ったファンも少なくないだろう。

だが、馬場の良くない内へと潜っても、ソングラインの闘志は衰えなかった。それどころかこれまで溜めた末脚を爆発させたいと言わんばかりの手応えで直線を向いてきたのだ。

そして迎えた最後の直線、ソングラインが突き抜けた。

逃げるロータスランドを残り400mのところでソダシが捕まえて先頭に立ち、昨年のように後続を振り切ろうと懸命に踏ん張るところに外側からスターズオンアースが迫っていった。だが、馬場の影響かそれとも久しぶりのマイル戦の流れが応えたのか、スターズオンアースの末脚にいつもの切れが見られない。

挑んできた女王の追撃を振り切り、ソダシが史上3頭目となるこのレース連覇を果たすかと思われたが、残り100mのところで内から伸びてきたのがソングライン。

外から懸命に脚を伸ばしながらもあと一歩及ばなかった昨年の悔しさをバネに、今年は内からソダシに迫り、並び、そしてアタマ差だけ差し切ってゴール。

1年前のこのレースと同じ上がり3ハロン33秒2の切れ味でソダシの連覇を阻み、ソングラインはヴィクトリアマイルを制し、復活をアピールした。

ソングラインと初めてコンビを組んだと先はレース後、「直線に入っての手応えもよかったし、馬を信じて内を選択したことで反応も良かった。

相手も人気馬なのでどこまで伸びてくれると思いましたが、差し切るあたり力を持っていますね」と、ソングラインの末脚、そして気持ちの強さを褒めたたえるコメントを残した。

思うように走れなかった悔しさや無念さをすべて洗い流し、春のマイル女王の座に君臨したソングライン。雨空の中で歓声を挙げるファンたちの前に戻ってきた彼女はいったい、何を思っただろうか。


■文/福嶌弘