【天皇賞・秋】「待ちわびた、この瞬間」イクイノックスがドウデュースを破り『名実ともに世界一』に
2023.10.30
2023 天皇賞 秋(GI)イクイノックスが連覇 写真:伊藤 康夫/アフロ
第168回 天皇賞(秋)回顧
「待っていたよ。この日を」――
天皇賞(秋)のゲート入り直前の輪乗りの際、イクイノックスとドウデュースはお互いにそう話しているように見えた。
遡ること518日前、イクイノックスとドウデュースはダービーの舞台で激突。
直線で弾けるような走りを見せて先頭に立ったドウデュースをイクイノックスは外から必死になって追いかけたが、最後までその差は詰まることはなくゴールを迎え、ドウデュースがダービー馬の栄冠に輝き、イクイノックスは皐月賞に続いて連敗を喫した。
その日以来、イクイノックスとドウデュースは同じレースを走ることはなかった。
ダービー馬となったドウデュースはまだ見ぬライバルを求めて世界へと羽ばたいた一方、敗れたイクイノックスは国内にとどまり、己を磨き続けた。
そうして迎えた秋。イクイノックスは貼るとは見違えるように成長し、緒戦となった天皇賞(秋)で古馬たちを差し置いて勝利。
わずか5戦目での古馬GⅠ制覇、皐月賞で敗れたジオグリフにリベンジを果たすと、有馬記念でも再び古馬たちを制圧。年度代表馬の座を射止めてみせた。
イクイノックスが日本で目覚ましい活躍を見せた一方、ドウデュースはフランスの地で苦しんだ。
凱旋門賞を目指して臨んだニエル賞では4着に敗れ、本番の凱旋門賞では馬場に泣かされ19着。ダービーで見せたあの弾けるような末脚は鳴りを潜めてしまった。
そうして2頭が迎えた2023年。明け4歳になった両馬はともに世界を目指した。
2月の京都記念で復帰戦を迎えたドウデュースは国内には敵はいないとばかりに楽勝し、ドバイへ向かったが......目標としていたドバイターフを目前に故障が見つかり、無念の出走取消。
その無念を晴らすかのようにイクイノックスはドバイシーマクラシックを逃げ切り勝ち。
その走りは世界を震撼させ、ロンジンワールドベストホースランキングでは第1位にランクイン。帰国緒戦の宝塚記念も外から差し切るという貫禄の勝利を見せ、世界一の称号は伊達ではないことを示してみせた。
そんなイクイノックスが未だに勝てていない馬――
それがドウデュースだった。そんな2頭が再び東京競馬場に姿を現したのだから、今年の天皇賞(秋)は戦前から2強対決と騒がれることに。
レースの数時間前、ドウデュースの鞍上を務める予定だった武豊が負傷し、戸崎圭太に乗り替わるという大きなアクシデントがあったが午後3時、2頭はパドックに姿を現した。
打倒ドウデュースに燃える世界最強馬・イクイノックスの馬体は昨年のこのレースの時とは大違い。494キロの均整の取れた馬体はまるで彫刻のように美しく、気品にあふれていた。
京都記念以来の実戦となるドウデュースも負けていない。512キロの馬体は筋骨隆々で力強さを感じさせる歩様は「さすがはダービー馬」と言わざるを得ないほど。
そんな2頭がレース直前の輪乗りで並んだ。互いにその実力を認め合うライバル同士だからこそ、どんなレースを見せるのか......すべての競馬ファンは胸をときめかせたことだろう。
そうしてスタートを迎えた天皇賞(秋)。
ドウデュースもイクイノックスも好スタートを切っていったが、2頭の位置取りは対照的。
イクイノックスは逃げの手を打ったジャックドール、ガイアフォースを見るように3番手に付けていくと、ドウデュースはその後ろ。急遽の乗り替わりとなった戸崎圭太とともにイクイノックスを見ながらのレースとなった。
軽快に逃げるジャックドールにつられるように11頭がペースを上げていき、前半の1000mはなんと57秒7で通過するという昨年並みのハイペースに。
後方で脚を溜めて差し切った昨年とは違い、今年のイクイノックスは3番手を追走。ドウデュースはその後ろで脚を溜めて直線に入った。
「さあ、決着を付けよう」――2頭は互いにそう思ったことだろう。直線を向くとドウデュースもイクイノックスも加速。前を行くジャックドールとガイアフォースを捕らえ始めた。
しかし、その走りには違いがある。戸崎圭太のゴーサインに合わせてエンジンを点火させたドウデュースに対し、イクイノックスの鞍上、クリストフ・ルメールは手綱を持ったまま。
まだ本格的に仕掛けられていない状態でイクイノックスは前を行く2頭を捕まえ、残り300mを過ぎたところで先頭に立った。
前を行くイクイノックスをドウデュースが追いかけるというダービーとは逆の展開となった直線。
ドウデュースは戸崎の鞭に応えようと懸命に走るが、ルメールとともに軽快に走るイクイノックスはその差をさらに広げていく。その走りはまさにあの日のリベンジと言わんばかりのものだった。
残り100m。馬群から完全に抜け出して疾走するイクイノックスに対し、追いすがるドウデュースは外から迫ってきたジャスティンパレスやプログノーシスにも交わされて後退。この瞬間、2頭の対決は勝負がついた。
そして数秒後、イクイノックスは先頭でゴール。1分55秒2という驚異的なレコードタイムを記録するという完全無欠の勝利を飾り、史上3頭目の天皇賞(秋)連覇を成し遂げて11年ぶりの天覧競馬に花を添えた。
「乗りやすくて、息も入るし、リラックスできて、押してからすぐ反応できる。『ドリームライド』ですね」......レース後、ルメールはインタビューで満足げに愛馬を称えた。
ダービーから518日後の今日、先着を許したドウデュースを破り、名実ともに"無敵の馬"となったイクイノックス。今度はどんな走りを見せてくれるのだろうか――早くも次のレースが楽しみになってきた。
■文/福嶌弘