日本競馬史上屈指の名牝・アーモンドアイはすごく面倒見がいいお母さん【もうひとつの引退馬伝説】
アーモンドアイ(c)SANKEI
日本競馬史上屈指の名牝が歩む母としての道
2020年のヴィクトリアマイルを勝ったアーモンドアイ。
前年の有馬記念で自身初の着外(9着)での敗北を喫し、同年春に予定していたドバイ遠征は出国こそしたものの、新型コロナウイルスの世界的感染拡大により急きょ開催中止で帰国。
そうした紆余曲折を経て出走したヴィクトリアマイルだったが、モノが違うとばかりに2着に4馬身差をつけてゴールを駆け抜けた。
今回は現役時のアーモンドアイを管理した国枝栄元調教師に聞いた、母となった名牝の姿を、著名な競走馬の引退後を追った『もうひとつの引退馬伝説〜関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)から一部抜粋・編集してお届けする(文中敬称略)。
現役時代華々しい活躍を見せた牝馬は、なかなかいい産駒に恵まれない──かつてそんな妄言めいた定説があった。
根も葉もない話に過ぎないが、一方で「レースでの消耗が激しく、それが仔の生育に影響する」といったもっともらしい原因が語られたりもしていたから、けっこうまことしやかに通用していたのだろう〝強い牝馬の時代〟を代表するアーモンドアイは、繁殖入り後、そうしたジンクスと闘う新たなステージに立った。
UAEでの1勝を含む通算15戦11勝、2018年のジャパンカップで2分20秒6(当時の芝2400メートルの世界レコード)を叩き出し、牝馬三冠を達成したその年に年度代表馬に選出された。
天皇賞・秋の連覇と、無敗の牡牝三冠馬2頭を退けてジャパンカップ2勝目を挙げた2020年にも、二度目となる年度代表馬に選出されている。歴史的名牝と呼ぶにふさわしい馬だ。
そんなアーモンドアイの引退が発表になったのは、二度目のジャパンカップ参戦を表明した時。コントレイルとデアリングタクトの挑戦を受けることは言うまでもなく、ここがラストランになることを、管理していた国枝栄調教師本人が自らの言葉で発信した。
ほぼ同時に、繁殖入り後の初年度のお相手が話題になった。国枝も、その注目度の大きさに驚いたひとりだ。
「あれだけの馬だから、当然といえば当然なんだけどね。エピファネイアとの間にできた初年度産駒が生まれた時は、自分が任せてもらえることが決まっていたのもあって、取材をひっきりなしに受けることになったよ。繋養先のノーザンファームから美浦に入厩した時も、今度はより具体的に、印象とか感触とか、デビュー予定とかを聞かれることになってもう一度驚いたね」
改めて、「アロンズロッド」と名づけられた産駒について印象を聞いた。
「筋肉のつき方とかはアーモンドに似たところがあるし、やっぱり動きは似ている気がする。うん、いい雰囲気は持っているよ。現時点では楽しみしかないけど、とにかく無事に行ってくれることを願っている」
国枝といえば牝馬の管理については、他の追随を許さない存在だ。その師から見た〝母アーモンドアイ〟の印象はどうなのだろう。
「それがね、すごく仔馬の面倒見がいいみたいなんだ。たまに仔馬を放ったらかして我関せず、みたいに過ごす母馬もいるけど、アーモンドはそうじゃなくて、いつも目の届くところにいて、いいお母さんしてるみたい」と、少し意外な言葉が返ってきた。
「アパパネと比べると、アーモンドアイは全体にピリッとしたところはあったよ。たまに手がつけられないくらいに暴れることもあったし。でも、基本的にはおとなしくて、普段は落ち着いている方だったよね。やっぱり繁殖に上がっても、そういう気性の馬の方がいいんじゃないのかな。放牧中の穏やかな様子を見ていると、現役時代とはずいぶん印象が違うようには感じるけどね。さすがに『まるで別の馬だ』とまでは言わないけど(笑)」
現役時代は群れをなすようなことはなく、むしろ孤高のアスリート然とした個性を放っていたアーモンドアイだけに、国枝ですら驚く現在の姿は想像がつかない。
どうやら、現役時代の雰囲気そのままに、やっぱり〝頭のいい馬〟なのだろう。
無駄なところで力んだりせず、レースに集中して走り続けた現役時代同様に、自分が繁殖馬として置かれた環境の下で、リスクを伴わないベストな行動を、誰から教わるでもなく、自ら自然にできるのだから。
■アーモンドアイ プロフィール生年月日:2015年3月10日生まれ性別:牝馬毛色:鹿毛父:ロードカナロア母:フサイチパンドラ(母父:サンデーサイレンス)調教師:国枝栄馬主:シルクレーシング戦績:15戦11勝主な勝ち鞍:桜花賞、オークス、秋華賞、ジャパンC、天皇賞・秋、ヴィクトリアマイル、ドバイターフ生産牧場:ノーザンファーム(安平)現在の繋養先:ノーザンファーム(安平)※記事の情報は2024年7月31日時点のものです。その後に状況が変化することもあるので予めご了承ください。
もうひとつの引退馬伝説~関係者が語るあの馬たちのその後
競走馬の引退後の行き先は、種牡馬や繁殖牝馬になる他、乗馬、馬術競技、伝統行事や農業で活躍したりなど多岐に渡ります。
本書ではGGIなど重賞を勝った著名な馬の、繁殖生活だけに限らない余生(セカンドキャリア・サードキャリア)にアプローチ。
繋養先でどのように過ごしているのか、現役時代との違いやエピソードなどを関係者へ直撃!引退した著名な競走馬の現在の魅力をとことん掘り下げていきます。おかげさまで発売以来ご好評をいただき、本書はこのたび(2026年1月)、重版となりました。
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