前川恭子調教師が語る「馬との出会いから競馬の世界に飛び込むまで」

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2026.10.24


前川恭子調教師 ©Maiko Fukui

日本中央競馬会初の女性調教師として2025年に厩舎を開業し、2年目には管理馬のジーティーマイカが重賞制覇を飾るなど、目覚ましい活躍を見せる前川恭子調教師。

今回は2026年10月19日に発売された、総勢17人の女性ホースマンに競馬への情熱や仕事の流儀、思考法、メンタル術などを聞いたインタビュー集『馬とともに自分らしく 競馬を拓く女性たちの情熱と流儀』(マイクロマガジン社刊)から、前川恭子調教師へのインタビューを一部抜粋してお届けする。

──2023年12月、女性として初めてJRAの調教師免許試験に合格し、2025年の3月に厩舎を開業。一躍、時の人となり、開業当初はもちろん、いまだに〝初の女性調教師〟としてメディアに取り上げられることが多い前川さんですが、ご自身を取り巻くそういった環境にはもう慣れましたか?

【前川】〝女性だから〟という理由で注目されているのは重々自覚していますが、いまはメリットのほうが多いなと感じていますね。メディアに出ることは、厩舎のいい宣伝になりますから。無料で宣伝してもらえてラッキーです(笑)。


──前川先生、強い!

【前川】自分や自分の厩舎の宣伝になるのもそうですが、馬と一緒にがんばるこういう仕事があることを知ってもらえるチャンスだと思っているので。


──プラス思考の前川さんだからこそ、結婚→出産→産休→復帰、そして調教師試験合格→厩舎開業と、未踏の地を突き進むことができたのではないかと想像します。今回は、その強さの秘密を知るべく、前川さんの半生を伺っていきたいのですが、まずは馬との出会いからお聞きしていいですか?


【前川】 私は千葉県の富里市というところで生まれ育ったんですけど、牧場がたくさんあって、乗馬クラブも多い地域だったんです。通学路でも普通に馬を見かけましたし、子どものころから身近な存在でした。とはいえ、まさか自分が馬に乗ることになるとは思いもしませんでしたが。


──どういったきっかけで乗馬を始められたんですか?

【前川】 母の同僚の方が乗馬をされていて、その方に「馬に乗ってみない? 自分が持っている馬に乗せてあげるよ」と誘っていただいたのがきっかけでしたね。


──それはおいくつのときですか?

【前川】 11歳、小学5年生のときです。中学生になってしばらくは乗馬クラブに通っていたんですけど、そのうち乗馬仲間たちの間で「自分たちの馬場がほしい」「自分たちで馬を飼いたい」という話になりまして。私の実家はすごく田舎で、家の裏に祖父が持っている広い土地があったので、「じゃあみんなでお金を出し合って、そこに馬場を作ろう」ということになりました。いま考えるとすごいですよね、手作りで馬場を作るなんて。


──まずは自分たちで馬場を作っちゃおうという発想がすごいです。同時に馬も購入されたんですか?

【前川】 いえ、うちは土地を提供しただけで、最初は4頭くらいだったかな、ほかの人の馬を敷地内で飼って、私はその馬たちに乗せてもらっていました。そんな感じでプライベート乗馬クラブみたいなものがスタートして、餌をあげてから学校に行くという生活が始まったんです。


──乗馬というと、敷居の高さばかりが先立ちますが、環境次第では前川さんのようなケースもあるんですね。

【前川】 〝お金をかけずに馬に乗る〟という観点では恵まれていましたね。高校生のころはけっこう真剣に馬場馬術に取り組んでいたんですけど、家の裏の馬場だけではなかなか上達しなかったので、ほかの乗馬クラブのお手伝いをしながら、そこのクラブの馬にタダで乗せてもらったりして。そう考えると、私は中学のころからずーっとお金を払わずに、働いた分だけ馬に乗せてもらうことができた。恵まれた環境だったと思います。


──高校卒業後は、筑波大学の馬術部へ。そこで競馬との接点があったそうですね。

【前川】 はい。筑波大の馬術部は、部費を稼がないと馬のご飯代が払えないので、土日はJRAの施設でバイトをさせてもらうのが慣例だったんですよ。乗馬苑に通ってくる少年団の子どもたちのお世話がメインでしたが、たまに現役競走馬の予防注射のバイトがあって。注射器で薬液を吸ったりとか、注射器を持って獣医さんのあとをついて歩いたりするのですが、そのバイトのときに初めて美浦トレセンの中に入ったんです。


──いまの前川さんがあるのは、予防注射のバイトがきっかけだったとは。

【前川】 そうですね。乗馬苑の子どもたちのお父さんは競馬関係者が多かったので、彼らからいろんな話を聞くうちに、ますます競馬界に興味を持つようになって。でもね、最初は厩務員や調教助手ではなく、JRA本体に就職しようと試みたんです。


──そうでしたか!

【前川】 はい。この先、馬の仕事を一生しようと思ったら、乗馬じゃなくて競走馬だなと思いまして。で、実際に採用試験にチャレンジしたのですが、見事に落とされました(苦笑)。競走馬の未来については私なりにビジョンを持って試験に臨んだのですが、よく考えたら、競馬の未来についてほとんど考えていなかった。そりゃあ落とされますよねぇ(笑)。


──いまとなっては、その採用試験が転機だったともいえますね。そこからどうやって方向転換したのですか?

【前川】 はたして自分は競走馬に乗れるのだろうかと思って、一度だけ栃木にある牧場に行ってみたんです。乗馬と競走馬では、鐙③ の長さからして全然違いますから。そこで実際に乗ってみたら、とにかく競走馬がかわいくて。


──怖いではなく、かわいい!?

【前川】 はい。乗馬は、おっとりした子ばかりなんですけど、競走馬は敏感ですよね。そこがすごくかわいく感じて、この世界に飛び込むことにしたんです。

■馬とともに自分らしく 競馬を拓く女性たちの情熱と流儀

現在、女性ホースマンの躍進は世界的な潮流で、日本競馬界においても女性の進出が進み、騎手に限らず、調教師、厩務員、調教助手、生産者、獣医師、競馬メディアなどなど、さまざまな分野で女性が活躍をしています。

本書では競馬という厳しい世界に飛び込み、道を切り拓いてきた女性ホースマン17人に直接取材。インタビュー形式で競馬への情熱や仕事の流儀、思考法、メンタル術、ライフスタイルなどを語っていただきました。

編著:マイクロマガジン競馬編集部(netkeiba協力)
出版社:マイクロマガジン社
発売日:2026年10月
価格:1,980円(税込)
https://tvtokyo.tv/4i5l3hS