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「10年はライバル関係が続く」同い年の伊藤美誠と中国・孫穎莎が互いの進化を分析

2020.11.12
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2020.11.12

伊藤美誠・孫穎莎 写真:新華社/アフロ

 新型コロナウィルス感染拡大による無期限の中断を経て、卓球の国際大会が8カ月ぶりに再始動した。その第1弾「女子ワールドカップ」<11月8〜10日/中国・威海>に出場した東京五輪日本代表の伊藤美誠(スターツ)は期待された決勝進出こそ逃したものの、3位決定戦でリオ五輪団体銀メダルのカットマン、ハン・イン(ドイツ)をストレートで下し銅メダルを獲得。久しぶりの実戦で世界ランク2位の実力と健在ぶりをアピールした。


 金メダルは世界ランク1位の陳夢、銀メダルは同3位の孫穎莎と地元中国勢が席巻。もうひとり東京五輪日本代表の石川佳純(全農)は同大会で過去、銀、銅2つのメダルを獲得しているが、今回は孫穎莎にストレートで負け準々決勝敗退に終わった。

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PHOTO:@ITTFWorld


互いの存在を意識する同い年のライバル

「とにかく試合が大好き」と言う伊藤が今大会で戦ったのは1回戦、準々決勝、準決勝、3位決定戦の計4試合。そのうち最も注目を集めたのが同い年のライバルである孫穎莎との準決勝だ。ともに2000年生まれの2人は伊藤が10月21日、孫は11月4日に20歳になったばかり。世界ランキングも伊藤が2位、孫が3位と接近している。

 対戦成績は女子ワールドカップを終えた時点で6勝2敗と孫がリード。だが孫は伊藤のことを「すごく強い選手。これから10年はいいライバル関係が続くだろう」と言い、伊藤も「孫選手に勝つことは世界ナンバーワンの選手に勝つことと同じぐらい意味がある」と互いの存在を意識する。

 そんな2人の対決は孫が3ゲームを立て続けに奪った後、伊藤が2ゲームを巻き返したものの、第6ゲームは孫が取ってゲームカウント4-2で決着した。

 10オールから取られた第1ゲームをもし伊藤が取っていれば、また展開は違ったかもしれない。しかし本人は「正直、1ゲーム目も6-10から追いついたので相手の展開になっている。(取られたゲームは全て)出足から孫選手が一歩も二歩もリードしていた。そこを自分が先にリードできると、またちょっと違ってくるんですけど」といたって冷静だ。

 実際、伊藤が奪った第4、5ゲームはいずれも最初のポイントを伊藤が決めており、「リラックスして思い切りプレーできた」と振り返る。

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PHOTO:@ITTFWorld


練習の成果は実戦で生かされたか?

 試合がなかった期間を使いフットワークやラリー力、サーブの強化などに励んできた伊藤だが、練習の成果は実戦でどれくらい発揮できたのだろう。手応えについて伊藤はこう語る。

「実際に試合をしてみて『ここは良かったな』っていうのと、『この練習はちょっと(ポイントが)ズレてたかな』っていうのがある。もちろん足の動きが良くなったおかげでフォアに回り込んで決められる回数が少しは多くなったとは思います」

 回り込んで打つフォアハンドは、伊藤のようにラケットのバック面に表ソフトラバーを貼る「バック表」の選手に欲しい技術だ。表ソフトラバーは性質上、ボールに回転をかけにくく、台に近い前陣でパチンと弾くように打球するため、バック側の深いところにボールが来ると台から下げられ返球しにくくなる。

孫もこの特性を踏まえて伊藤のバック側へ深いボールやロングサーブを多用した。特にゲーム後半は執拗に伊藤のバック側を攻めミスを誘った。

 一方、伊藤も孫が得意なラリー戦を避けて得意のサーブからの3球目やレシーブからの4球目で早めの攻撃を試みた。先に主導権を握ろうとしてミスにもなったが、リスクは覚悟の上。結果、彼女にしては珍しく4本のサーブミス(1本はレット)が出たが、より厳しいコースを狙っていこうとすればそれも致し方ないのだろう。

もともと多彩だったサーブの種類はさらに増え、独特な構えやモーションがますます目を引いた。これについて孫も「自身のいいところをよく維持している。とてもユニークな打ち方をしている」と感想を口にしている。

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PHOTO:@ITTFWorld


伊藤と孫が互いの進化を分析

 準決勝後、伊藤と孫がそれぞれに語ったお互いの変化と進化に関するコメントは興味深い。

 まず伊藤は孫の印象を、「もっと負けない選手になるために、できることの幅を広げてきているなと思いました」と評している。孫は典型的な攻撃マン。「相手に打たせないというくらい攻めてくる」と伊藤が言うように常に全力で攻めてくるタイプだ。

ところが今回の対戦では、これまでよりもサーブのコースを散らしたり、打球に緩急をつけたりして、以前ほど無理に強いボールで打ち抜こうとしなくなったように見えた。

伊藤も「新しい孫選手を見れたというか、いつもの孫選手ではない戦い方をしてきて、ちょっと(戦術が)わかりづらいところはありました。でも、そういう卓球には自分のどういうプレーが合っているかということに気づけました」と話している。

これに対して孫は、「伊藤選手は成長し続けている。自分と対戦するときの感覚も、以前はお互いにぶつかっているような感じでしたけど、今は技術の戦いより心理的な戦いのほうが多いと感じます」と分析する。

この彼女の言う「心理的な戦い」というのが、まさに伊藤が感じた「戦術の幅」に通じているのだろう。

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PHOTO:@ITTFWorld


伊藤「ファイナルズでも対戦したい」

 対戦するたびどちらが勝つか楽しみな伊藤と孫のライバル対決は、11月19日に開幕する「ITTFファイナルズ」<〜22日/中国・鄭州>でも見られる可能性がある。昨年まで「ITTFグランドファイナル」の名称で親しまれてきた卓球ファンにはおなじみのビッグイベントで、例年は男女シングルスおよびダブルス、ミックスダブルスの3種目が行われるが、今年は男女シングルスのみ世界ランク上位16選手が一堂に会す。

 この大一番を睨む伊藤と孫は、「卓球は相手のプレーに対して自分がどうプレーできるかがすごく大事。今回と同じ負け方をしてしまうと自分自身、反省できていないことになるので、この1週間でしっかり修正して、ファイナルズでも孫選手と対戦できるところまで行きたい」と伊藤が言えば、「伊藤選手とはどっちが勝ってもおかしくない。実力も近いと思う」と孫も闘志を燃やす。

 とりわけ孫の場合、未だ続く中国国内での激しい東京五輪の代表争いがあるため是が非でも勝ちたい一戦だ。卓球帝国の中国が今、最も警戒する伊藤から勝利を挙げることも自身の評価につながる。


周囲の支えに感謝し、心の炎を燃やす

 最後に少しざっくばらんな話をすれば、女子ワールドカップを戦い終えて伊藤は、「やっぱり疲れましたね。スケジュール的なものも含め」と思わず本音を漏らした。

 試合の疲れではない。コロナ禍の渡航準備に苦労したのと中国現地での長い隔離生活によるものだ。 中国入りした後、練習のできない完全隔離期間は10日間近くに及んだ。大会を前にホテルの部屋に缶詰という状態は大きなストレスだっただろう。

 しかし、そこは持ち前のポジティブ思考で気持ちを切り替えた。隔離期間中に迎えた記念すべき20歳の誕生日や待ちわびた試合本番に目を向け自分を盛り立てた。また、3日に1回実施されるPCR検査も「もう慣れて、日常の生活の中に当たり前にある」と言う。

いつも笑いとユーモアを忘れない松﨑太佑コーチや母・美乃りさん、スパーリングパートナーの松﨑友佑さんら「チーム美誠」の支えも大きかった。

 8カ月ぶりに実戦のコートに立った時、改めて周囲の人たちへの感謝と試合ができる喜びを噛み締めた伊藤。「どんな選手にも勝つこと、そして楽しみながら心の中で炎というか、闘志を燃やして試合ができたらいいなって思います」と次なる戦いに照準を合わせていた。


(文=高樹ミナ)



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PHOTO:@ITTFWorld

2020 ITTF 女子ワールドカップ
大会名称:2020 ITTF 女子ワールドカップ
開催日:2020年11月8日(日)~10日(火)
会場:威海(中国)
放送日時:BSテレ東 11月10日(火)夜7時
配信:テレビ東京卓球チャンネルで11月8日(日)~10日(月)連日ライブ配信

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