
伊藤美誠 PHOTO:Itaru Chiba
2月5日のパリオリンピック日本代表候補予定選手発表後、女子の3枠目を逃した伊藤美誠(スターツ)が初めて公の場に姿を見せた。
「世界卓球2024団体戦」<2月16〜25日/韓国・釜山>日本代表選手の公開練習と記者会見が行われた8日、味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)の卓球場に現れた伊藤は、笑顔だ。
全日本選手権の涙の会見もあり、オリンピック代表落選のショックの大きさが心配されていた。世界卓球を終えたら引退もあるのではないか......。周囲からそんな声も聞かれ始めていた。

しかし、目の前にいる伊藤はすでに「新しい目標を立てた」と目を輝かせている。
しかも気持ちを切り替えたのは全日本選手権女子シングルス6回戦で敗れ、パリオリンピックシングルス代表の可能性が消えたその日のうちにというから驚きだ。
新たな目標はずばり、世界ランク1位に上り詰めること。それは日本人の誰も成し遂げていない未踏の領域。
「全日本で負けてしまった夜に、もっともっと世界の大会に出場したいと思った。今回、国内選考会があった分、出られる国際大会が限られてしまった。選考が終わって、そういうのを気にせず大会に出られるのがすごく嬉しい。もっともっと世界ランクを上げて、また中国人選手と試合ができる機会を増やしていきたいです」
久しぶりに見る清々しい表情。彼女は現在、世界ランク10位。自己最高は世界最強の中国に割って入った2020年の2位だ。
パリオリンピック代表選考の結果については「(発表会見の)前から知っていた。連絡はもらっていた」と伊藤。
この"連絡"とは、女子日本代表の渡辺武弘監督から母・美乃りさんにかかってきた一本の電話のことである。
日本卓球協会強化本部の方針説明があった上で、「パリオリンピック代表は落選です。それでも世界選手権に出ますか?」という旨の通告と確認だった。
強化本部としては伊藤のコンディションに不安があったかもしれない。あるいはオリンピック代表レースに敗れた伊藤の精神的ダメージを慮った側面もあるだろう。
だが世界卓球に関して、パリオリンピック代表選考ポイント3位の伊藤は、同4位までの選手と強化本部推薦1人を加えた計5人が代表という選考基準を満たしていた。
オリンピックと世界卓球は別の話。出場に迷いはなく返事は即答だった。
「(パリオリンピックの3枠目は)私か張本美和選手の二択だった。実際に発表されるとちょっと悔しい部分はありましたけど、張本選手は15歳でありながら、これから日本代表を引っ張っていく選手になると思う。私も15歳からオリンピックに出場したので驚きはなかったです」
さらに「張本選手であれば納得」とも。理由はその実力とやはり年齢のことだ。
「これを逃してしまうと張本選手は(4年後)19歳になる。今、波に乗っていますし、オリンピック初出場が19歳よりも15歳で経験することがすごく大事。私が同じ経験をしているから言えると思う」と後輩の背中を押した。
一方、5〜6月発表予定のリザーブ(控え選手)に抜擢されたらどうするかという質問に対しては、リオ大会と東京大会でのサポートに感謝を述べた上で、「私はリザーブには向かないと思う。なので多分、(パリオリンピックに)行くことはないと思います」ときっぱり。
新たな目標を定めた今、リザーブは後進に譲りたいという思いがある。
世界卓球2024団体戦は代表メンバー5人で臨むが、中心はパリオリンピック代表に内定した早田ひな(日本生命)、平野美宇(木下グループ)、張本美和(木下グループ)の3人。伊藤と木原美悠(木下グループ)は出番が限られるだろう。
その中で自身は「出る試合は責任を持って思い切って戦う。世界卓球を楽しみたい」と話す伊藤。
新たな目標に掲げた世界ランク1位を目指すにあたり、長らく不在のコーチについて、今後、新たに迎える考えはあるかといえば、答えはノーだ。

「一人でやっていたら考えも固まってしまうのかもしれないですけど、コーチをつけるというのも考えを固めてしまうのではないか。いろんな方からアドバイスもらうのはもちろん大事。でも、一人に限定するのは違うと思う」
卓球という競技において異例のやり方に賛否あるのは承知の上だ。今後、考えが変わる可能性もある。だが、今はこれが伊藤のスタイル。
早田の試合ベンチに"チームひな"の石田大輔コーチや岡雄介トレーナー、スパーリングパートナーの金恵美さんが代わる代わる入っているように、自分もベンチコーチに"チーム美誠"の「練習相手でもいいしマッサーでもいい、お母さんに入ってもらってもいいと思ってます」とも。
練習環境については現在、本拠地の大阪と自身の故郷である静岡県磐田市の2拠点を行き来しており、「全日本前はいろんな学校の方とかTリーグの静岡ジェードの選手たちと練習して、すごく楽しい時間を過ごせた。またそういう方達と練習できたらいいなと思います」と話す。そして、密かに思い描く計画も。
あくまでも希望の段階だが、「ヨーロッパの選手と練習したり試合したりもすごくしたくて、近いうちに海外リーグにスポット参戦できたら」と明かした。
幼い頃から幅広い競技レベルの人々、多様な環境に触れイマジネーションを広げることで伊藤の独創的なプレーは育まれた。その意味では原点回帰と言えるかもしれない。
リオデジャネイロ、東京に次ぐ3大会目のパリオリンピック出場は叶わなかった。だからこそ踏み出せる新境地が目の前に広がっている。伊藤のワクワクは止まらない。
(文=高樹ミナ)

