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テレ東プラス

2018.8.29

テレ東プラス連続ウェブ小説:「30代の女子会。恋も仕事も家族も大事ー三者三様、女の生き様」

第一話 三人そろってかしましく~いくつになっても女子は女子~


「かんぱーい!」
三人はグラスを高く掲げると、喉を鳴らしながらビールを美味しそうに飲みはじめる。


室田美和子、岡崎沙紀、石原梨花子は、短大時代の友人で、卒業しても数ヶ月に一度は必ず集まり『女子会』を開いている。


『女子会』といっても、三人とも今年33歳になる。
8歳になる息子を持つ専業主婦の美和子と、部下を従えてバリバリ働くキャリアウーマンの沙紀は、この集まりを『女子会』と呼ぶことに少し抵抗があったが、「女はいつまでも『女子』でいたいものなの」と、見た目年齢26、7歳でまだまだ通用しそうな『女子感』溢れる梨花子の力説に押され、『女子会』と称してこうして集まっている。


「ふぅ......。やっぱり最初の一杯はビールだよねぇ」
「ねえ美和子~。梨花子ったらまた一気飲みしたよ」
「全く......酔っ払っても、今日は面倒見ないからね」
「大丈夫、大丈夫。だって家飲みだし。ソファ貸してくれたら問題ないよ?」
「ちょっと......泊まっていく気満々じゃん!」


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今日の女子会会場は、沙紀の部屋。
半年ほど前に引っ越してきたばかりのこの部屋を、沙紀はとても気に入っていた。


3DKの築浅マンションは、白を基調とした造りで、角部屋で大きな窓が2面あること、小さいながらもペニンシュラキッチンがあるところが気に入り、それらが借りる決め手となった。

家賃は少し高いが、身を粉にして働く日々の疲れを癒すには充分過ぎる環境で、これ以上の物件はないと思っている。


「こんなTVドラマに出てくるようなマンションに住んじゃうなんてさあ。いいなあ。羨ましいなあ......」
羨望というよりは愚痴のようなつぶやきを誰にともなく放つ梨花子は、500ミリの缶ビールをとっくに2本開け、日本酒に移っていた。
シルキーピンクのシフォンのブラウスに、ロングスカートを合わせたフェミニンなファッションに身を包み、濃いめの茶色に染めたロングヘアを丁寧に巻き、目元には完璧なマツエクを施している。梨花子はそんな出で立ちにもかかわらず、片手に四合瓶、もう片方にお猪口を持って手酌する、こんな姿は気心の知れた親友二人の前でしか見せないらしい。


「港区在住のIT系キャリアウーマンとか、沙紀ってほんとでき過ぎだよね~。私なんてしがない派遣社員だよ? 同じ短大出てるのにどうしてこんなに違うのかなあ~。嫌んなっちゃう」


(またはじまった......)
沙紀は表情にこそ出さないものの、心の中で小さくため息をついた。
梨花子は酔うと、『不平不満系の絡み酒』モードが発動してしまう。
今日は昼から何も食べていないと言っていたので、いつもより酒のまわりが早いのかもしれない。


このまま飲ませたら、絶対面倒なことになる......沙紀は、どうやってこの絡み酒から逃れようかと考えあぐねていると、
「そうだ。梨花子の好きなチキンの山椒煮、作ってきたから食べて食べて」
美和子が、取り出したタッパーから鶏肉を3つほど取り分けると、山椒ソースをかけ、梨花子の前に置いた。
美和子のフォローおかげで、梨花子の興味の矛先は料理へと移り、沙紀は内心ほっとする。


「美味しい~っ! やっぱり美和子の作る料理って最高だよねぇ」
梨花子は鶏肉を口いっぱいに頬張ると、手を小さくパタパタさせて年齢の割に可愛すぎるジェスチャーで美味しさを表現してみせる。
沙紀は、梨花子のこういう女子的な部分を見ると思わず唸ってしまう。自分は、昔から持ち合わせていないものだから、呆れるのを通り越して感心してしまうのだ。
梨花子は、口の中に料理の余韻があるうちに、お猪口に入った日本酒を一気に飲み干すと、「ふぅ~」と、幸せいっぱいのため息をついた。
つまみの美味しさに梨花子の飲むスピードが加速してしまったようだ。美和子と沙紀は視線を合わせると、互いに小さく肩をすくめた。


「旦那さん、この時間に帰ってるって珍しいね」
沙紀は、最近お気に入りのチリワインを開けると、美和子に「飲む?」と目線を送ってみせる。美和子は、応じるようにワイングラスを差し出した。
「うん。おかげで翔太を預けられて助かったよ」
「じゃあ、今夜は心置きなく飲めちゃうね?」
沙紀は確かめるように言ってから、美和子のグラスにワインをなみなみと注ぐ。


ここ最近女子会は息子連れの美和子に合わせて昼間の開催だった。2杯目以降はずっとソフトドリンクだったのだが、今夜は心置きなく飲めるということに美和子は新鮮さを感じていた。沙紀と梨花子が、自分の都合に合わせて昼間にやってくれていたことを申し訳なく思っていたので、夜にこうして集まれるというだけで自然と心が躍ってしまう。


今年で小学2年生になる翔太は最近、普段忙しくてあまり遊んでくれない旦那との時間を過ごすことがマイブームになっているらしい。
美和子はそれを少し寂しいと感じていたが、息子の成長に喜びも感じていた。今日も、「男同士の話がしたいから」と一丁前の口をきき、旦那も「たまには羽を伸ばしておいで」と、快く送り出してくれた。


キラキラリン♪
可愛らしい受信音が鳴った。
「あっ、またマッチングした!」
梨花子はスマホを手に取ると、メッセージを打ちはじめた。酔いのせいか、メール相手のせいか、頬が微かに桃色に染まっているように見える。


梨花子はここ半年ほど、前にも増して婚活に力を入れるようになっていた。
婚活サイトだけでは『運命の相手』は見つからないと、最近ではもっと気軽に出会いを望めるマッチングアプリをはじめたようだ。


「ねえ。そんなアプリで出会いを求めて大丈夫なの? 変な人にひっかからない?」
美和子の口調は、まるで年頃の娘を心配する親のようだ。
「そうよ。無理やり出会いを求めても、運命の人が見つかるとは限らないし」
沙紀も、美和子の意見に同調する。
「大丈夫。男を見る目はあるつもり。ていうか、出会いを求めていかなきゃ婚活する意味ないじゃない。優良物件はすぐに売り切れちゃうんだから」


そう言われてしまうと、美和子も沙紀も次に繋ぐ言葉がない。
確かに梨花子が付き合ってきた男たちは、皆、高学歴で高収入の、世間的には『優良物件』と言われる男性ばかりだった。
しかし、その優良物件たちの誰一人として梨花子のお眼鏡にかなうことはなく、皆、梨花子のほうから別れを告げた。そして彼らは、その後すぐに他の女性と結ばれていった。
梨花子は今も独身のまま、運命の相手との出会いを求め続けている。


「沙紀は? 相変わらず彼氏ナシ?」
「いないいない。忙しくてそんな余裕ないって」
「恋はしばらくお休み、って? それにしたって長いこと休み過ぎじゃないの?」
「......」


美和子は、不穏な空気を感じて身構える。
沙紀と梨花子は、気心が知れ過ぎている故なのか、ケンカをしだすと結構激しい。そんな時はいつも美和子が間に入り、やんわりと収めていた。最近は翔太がいたので、そこまでにはならなかったものの、今日はひさびさに三人だけなのでやりかねない......。


梨花子は酔うと、言葉が乱暴になる。
しかし、『不平不満系絡み酒』モードも、『暴言』モードも、男性の、特にお気に入りの人の前では一切発動させず、むしろ下戸のフリすらできるというから、立派なものだ。


「ねえ。一緒に婚活しようよ。婚活合コンとか行く?」
「行かないって。そんな暇ないって言ってるじゃん」


梨花子の言うとおり、沙紀はここ数年、恋愛をほとんどしていない。
いいなと思う人がいなかったわけではないが、気づけば仕事第一でここまで何もなくきてしまった。


「沙紀~。結婚のきっかけは自分で作らなきゃ。女には色々"リミット"があるんだよ?」
「......はあ?」


沙紀はあからさまに不満な表情を浮かべて、グラスに入っているワインを一気に飲み干す。気に障ったのは梨花子の言い方もあるが、同じような言葉をつい最近、上司に言われたばかりだからだ。
沙紀は梨花子をジッと見据えると、感情が高ぶらないように小さく深呼吸をし、できるだけ落ち着いているように見える態度で反論する。
「......っていうか、リミットっていう時点で、女としての価値を自分で下げてると思わない? 30過ぎた女は、どれだけ自分らしく生きていけるかが勝負だと思うんだけど」
「バカね~。30過ぎてるっていうだけで市場価値は下がっちゃうの。だったら少しでも早くいい人に巡り合わなきゃ、一生独り身だよ?」
梨花子の様子が、上司のそれと重なった瞬間、沙紀は、体中の血が一気に頭に上っていくのを感じた。
「それ、梨花子が言う? だったらあなたこそ、さっさと結婚すればよかったじゃないの? なんでまだ独身でいるわけ?」
沙紀は鼻で笑うと、挑発的な視線を梨花子に送った。梨花子の頬がピクリと動く。
「それはまだ、運命の人に巡り合ってないだけよ」
「そうやってお目が高いのはいいことだけどさ、歳は確実に取るんだから。その可愛いメイクも格好も可愛らしい話し方も、そろそろ武器にはならないと思うけど?」
「はああっ?! 何その言い方!!!」


(はじまった......)
美和子は「ああー......」と頭を抱える。こうなったらもう何が起こるかわからない。一刻も早く止めなければ修羅場と化してしまう。


「まあまあ落ち着いてよ。人それぞれ生き方があるんだからさ。どれが正解ってことじゃないじゃない。沙紀も梨花子も、自分らしく生きてていいと思うよ?」


「......はあ?」
すると、今の今まで言い合っていた二人の標的は一瞬で美和子に変わった。


「美和子はいいよね。若いうちに結婚して、子供も作ってさ。旦那さんも大手証券会社の証券マンでしょ?言うことないじゃない」
「ほんとだよね。こっちが男に混じって闘ってる時に、ママ友会で優雅にランチとかしてるんでしょ?」
「美和子は女の幸せっていう幸せを全部手に入れてる気がする!」
「そうそう!」


「えー......」
仲裁に入ったつもりが、ケンカをしている同士にタッグを組まれて攻撃されるという、思いもしない反撃に、美和子は面食らう。完全なるとばっちり。『昨日の敵は今日の友』とはよく言ったものだ。


早くに結婚したからこそできなかったことだってたくさんあるし、優雅なママ友会なんて存在しない。実際は、子供のための面倒ごとが山ほどあって、神経をすり減らす日々だ。
美和子はそんな気持ちを独身の二人にわかってたまるものかと思ったものの、ぐっと堪える。


美和子はひと呼吸置くと、何か空気を変えるアイテムはないかと視線を巡らせ、テレビのリモコンを見つけた。


(今日は確か......水曜日よね!)
「よ~し、TVでも見ようか!」
美和子はリモコンを手に取ると、電源をオンにして素早くチャンネルを7に設定する。
画面に映し出されたのは『THE カラオケ★バトル』だ。
歌のプロや、全国の歌に自信のある人たちが、カラオケマシンの採点で自慢の歌声を競い合う番組で、美和子が毎週、翔太と共に楽しみにしている番組だった。


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毎回、さまざまなテーマで老若男女が闘いを繰り広げているが、どうやら今日の放送は18歳以下の人たちが競い合う『U-18歌うま甲子園』らしい。
MISIAの「Everything」のイントロが流れ出した。
高校生になったばかりであろう女の子が、両手でしっかりとマイクを握り、歌い出しを待っている。


沙紀と梨花子は、美和子の突然の行動に不満そうにしていたが、少女の歌声を聴いた途端、ハッとしたように画面に釘付けになる。
まだあどけなさが残る少女からは想像もできないような力強い歌声だが、寄り添うような優しい歌い方に、すっかり三人とも心を掴まれてしまった。


「懐かしいね......この歌」
ふいに沙紀がつぶやいた。
「そうだね。昔よく歌ったよね」
梨花子の表情が、自然と和らいでいく。
「梨花子、私のためにこの曲を熱唱してくれたじゃない?」
沙紀と梨花子は歌っている少女に、短大時代の自分たちを投影しはじめていた。


短大に入ってすぐのオリエンテーションで、一緒のグループになったのをきっかけに仲良くなった三人は、何をするにもいつも一緒で、暇さえあればカラオケに行っていた。
沙紀に初めての彼氏ができたと知った梨花子は、嬉しさのあまり当時十八番だったこの曲を親友のために歌い上げた。
「おめでとう」の言葉を途中にはさみながら、最後は号泣しながらの熱唱だった。


「最後は、私も美和子ももらい泣きしちゃってさ。でも......嬉しかったな」
沙紀はそう言いながら、グズグズと鼻を鳴らしはじめる。
「誰かに彼氏ができるたびにこの曲、歌ったよね。美和子の結婚式でも歌ったし」
梨花子も手に持っていた薄ピンク色のハンカチを目頭に当てながら言う。


そんな二人の様子を見ていて、美和子まで目頭が熱くなる。


「ねえ。......今から歌いに行かない?」
美和子が提案すると、沙紀と梨花子の表情が一気に華やいだ。
「いいね。梨花子、この曲ひさびさに歌ってよ」
「うん! もしかしたらそれが験担ぎになって、いい人できるかも」
すっかりカラオケのテンションになった三人は、リビングの片付けもそこそこに、バッグを手に取ると、玄関を飛び出した。
はしゃぐ姿はまるで、あの頃の三人のように。
消し忘れたテレビの画面の中で、少女がこの日の最高得点を叩き出していた。


(第二話へつづく)


作/穂科エミ
イラスト/大野まみ

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