【皐月賞】横山武史 父譲りの勝負勘が生み出した無敗のビクトリーロード

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2021.4.18

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無敗で皐月賞を制したエフフォーリア 横山武史騎手 写真:日刊スポーツ/アフロ

「今だ!」――今年の皐月賞の4コーナー、横山武史のアクションを見ると、こう叫んでいたのではないか?と思えてならない。

トライアルレースの弥生賞、スプリングS、そして若葉Sと3レースとも1番人気馬が敗れたこともあり、今年の皐月賞は戦前から混戦と称された一戦に。

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出走16頭すべてにチャンスがあるとされたが、大本命馬エフフォーリアの鞍上がデビュー5年目の若武者、横山武史だったというのも混戦模様に輪をかけたと言えるだろう。

名手・横山典弘の三男にして昨年の関東リーディング騎手に輝くなど、若手のホープとして期待される存在である横山武史だが、これまでGIの勝ち鞍はゼロ。

掲示板にこそ入ったことはあっても3番人気以内の馬に騎乗した経験はなく、今回のエフフォーリアのような有力馬の鞍上としてGIに臨むのは自身初めてのこと。ましてやクラシックレースの皐月賞にも初騎乗ということもあり、「馬はいいが、ヤネが不安」という声が少なからずあった。

だからだろうか、馬券の発売開始以来、エフフォーリアは単勝3倍台をウロウロして、直前にはダノンザキッドに1番人気の座を明け渡した。

昨年の関東リーディング騎手が鞍上だというのにも関わらず、無敗馬が1番人気を譲るのだから、横山武史のGI騎乗経験・実績の乏しさが最後の最後までファンに不安視されたと言える。

 だが、これが却って横山武史を落ち着かせたように思う。2歳王者のダノンザキッドを迎え撃つ立場ではなく、挑戦者として挑む立場に変わったことで肩の荷もだいぶ下りたことだろう。追われる者より追う者の方が強いのは勝負の鉄則でもある。

 タイトルホルダーが好スタートを決め、ワールドリバイバルとの先行争いを展開する中でエフフォーリアは隣のダノンザキッドとほぼ同じ位置に。

本来ならば馬場のいい外に持ち出しておきたいところだろうが、隣枠に入った1番人気のダノンザキッドと川田将雅がそれを許さず、さらにこの2頭をマークするかのようにアサマノイタズラ、レッドベルオーブらが外からやってきて被さるような形に。結局エフフォーリアは内に閉じ込められる形になってしまった。

 1000mの通過タイムは60秒3という平均ペース。それを考えると3番手集団に付けたエフフォーリアの位置取りは決して悪くない。むしろ往年のシンボリルドルフさえも彷彿とさせる堂々たる横綱競馬にも見えたが、いかんせん進路があるかどうか。

ましてやこの日の中山芝の馬場コンディションは外の方が伸びる傾向にある。今から外に出すのはほぼ不可能で、インコースを突くにしても動くに動けない......3角で各馬が動いた時にポジションを下げた際、このまま終わってしまうのでは?とさえ思わせた。

 ところが、勝負の女神はエフフォーリアに微笑んだ。先行していたワールドリバイバルが失速し、その隣にいたタイトルホルダーが外へ進路を取ったほんの一瞬、エフフォーリアの前に道ができたのだ。

まるでモーゼが海を割ったかのようにあまりにキレイに開いたビクトリーロードに向かって、横山武史はためらうことなくエフフォーリアを追い始めた。もしこれよりも仕掛けが早ければワールドリバイバルに接触しただろうし、遅かったらタイトルホルダーに締め出されてその道は閉ざされていたはず。

ほんのわずか一瞬、絶妙なタイミングで横山武史はこのコースを突いた。父譲りの勝負勘の良さが発揮されたことが今年の皐月賞の明暗を分けたと言えるだろう。

結果、エフフォーリアはインコースをピタリと回ったことで最短距離を走ってタイトルホルダーを捕まえて先頭に立つと、後はそのまま後続をグングンと突き放して完勝。2着に粘ったタイトルホルダーに3馬身差という決定的な差をつけて無敗の皐月賞馬に輝いた。

 デビュー5年目にしてGIジョッキーになった横山武史はインタビューで開口一番「サイコーです!」と叫ぶと、その後も終始ニコニコ顔でインタビューに答えた。

見るからに嬉しそうな様子はマスク越しでも伝わってくるほどで、その姿は勝負師ではなく、22歳の青年そのもの。愛嬌ある顔立ちはまるで若い頃の父を見ているかのようで、31年前にメジロライアンを駆ってあと一歩届かなかった父の無念を晴らしたかのようにも映った。

 続くダービーは間違いなく1番人気で臨むことになる。今までのように挑戦者としてではなく、挑戦を受ける立場として迎える大一番...

横山武史とエフフォーリアの真価が問われるのは5月の府中でのことだろう。無敗ながらまだまだ発展途上な人馬のこれからに期待が高まる。

それにしても馬券を獲ったかどうかは関係なく、すべての競馬ファンが心の底から横山武史に「おめでとう」と言いたくなるようなインタビューはどこか幸福感に溢れていたが...それもそのはず。

なぜならエフフォーリアの馬名の意味はギリシャ語で「強い幸福感」の意。レース後に周囲を幸せにしてくれるニューヒーローの誕生を心から祝福したい。


■文/秋山玲路