【NHKマイルC】20年ぶりに現れた”青い目のサムライ”シュネルマイスターV!勝負を分けた「もう一呼吸」

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2021.5.9

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シュネルマイスターがソングラインをハナ差捕らえ優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ

 クラシックレースへの出走権がない外国産馬が目指すためのレースとして創設され、その目論見通りに第1回から6回までは外国産馬が勝利。

その顔触れもシーキングザパール、エルコンドルパサー、そしてクロフネと後のスターホースのオンパレード。非常に華やかなレースとしてNHKマイルCは注目を集めるようになった。

外国産馬のクラシックレース出走を解禁すると、外国産馬は勝てなくなった。クロフネが勝った第6回までの外国産馬の成績は[6・6・4・48]だったが、2002年以降は[0・3・2・45]。

3番人気以内に支持された7頭はただの1頭も馬券圏内に入ることができなかった。ここ2年は外国産馬の出走自体がゼロ。もはや「外国産馬のダービー」という呼称は使われなくなっていた。

だからだろうか、今年のNHKマイルCに外国産馬として3年ぶりに出走してきたシュネルマイスターは戦前からオールドファンによる妙な注目を集めていた。

父は現役時代にマイルGIを4勝したキングマン、母もドイツのオークスを制したセリエンホルデというドイツ生まれの超良血馬。夏の札幌でデビューすると、中団から脚を伸ばすという本格派な勝ちっぷりで快勝。

その後は暮れの中山で行われたひいらぎ賞でもインコースから馬群を割って2連勝。若駒らしからぬ折り合いの良さ、そして荒れた馬場をものともしない切れ味ある末脚と、久々に外国産馬から大物が出たと話題になった。

これが25年ほど前ならクラシックへは目もくれず、マイル戦線へと舵を取ったことだろう。だが、現在は外国産馬でもクラシックレースが目指せる時代。

3歳の緒戦として陣営が目指したのは牡馬クラシック第1弾の皐月賞への道。その中でも最も重要なプレップレース(前哨戦)である弥生賞へと駒を進めた。

シュネルマイスターの丸みのある馬体は典型的なマイラーの馬体そのもの。父の産駒も中距離戦ではパッタリということを考えても、とても2000mの距離はこの馬には合わないと思われたが、結果はタイトルホルダーの2着。

最後の1ハロンは完全に脚が上がっていたが、それでもホープフルS勝ち馬のダノンザキッドの追撃を振り切った。結果こそ初黒星となったが、この馬の強さを改めて示すことになったのは間違いない。

皐月賞への出走権を得たのにもかかわらず、陣営は皐月賞へは目もくれず、NHKマイルCへと矛先を向けた。

「クラシックレースに出られないから、NHKマイルCを目指す」ではなく、「クラシックレースにも出られるけれど、NHKマイルCを目指す」は似て非なるもの。

外国産馬にクラシックレースへの門戸が開かれて20年、シュネルマイスターのように積極的な考えでNHKマイルCを目指した外国産馬は久しく現れなかったように思う。

迎えたNHKマイルC当日。シュネルマイスターは朝日杯FSの覇者グレナディアガーズ、そしてニュージーランドTを圧勝したバスラットレオンとの3強と目され、グレナディアガーズに次ぐ2番人気に支持された。

東京コースは初めてだが、長くいい脚を使えるこの馬には最適なコースで、ましてや得意なマイル戦。実力を誇示するには最適な舞台と言えるだろう。

 バスラットレオンがスタート直後に落馬するという波乱の展開となったが、ピクシーナイトとホウオウアマゾンが先団を形成。そのため、見た目はさほど速そうには見えなかったが前半3ハロンの通過タイムはなんと33秒7というハイペースに。

そのため4コーナーを5番手以内で回った馬のほとんどは掲示板にすら入れない大敗を喫してしまった。

 GIらしい締まった流れのまま迎えた最後の直線、最初に抜け出したのは1番人気のグレナディアガーズだった。朝日杯FSを制して世代の王に君臨した馬は「かかってこい」と言わんばかりに先頭に立った。

2歳王者の意地で押し切ろうという決意を感じたが、いかんせん府中の直線は長すぎた。坂を上がって残り200mを過ぎたところで脚色が鈍り始めてしまった。

 そこで動いたのが伏兵・ソングラインだった。

 桜花賞では不完全燃焼でレースを終えた彼女は、得意のマイル戦にこだわって牡馬相手のNHKマイルCを選択。レースの序盤から1番人気のグレナディアガーズを前に見る形でレースを進め、直線ではここしかないというところで捕まえた。

桜花賞の時とは異なり、脚色にも余裕がある。2歳王者を力でねじ伏せ、4年ぶりとなる牝馬のチャンピオン誕生かと思われた。

 この時、ソングラインの外から咆哮が聞こえた。
「勝つのは俺だ」という、力強い咆哮が。
 
 シュネルマイスターだ。

 ソングラインよりもさらに外、もう一呼吸置いてから鞍上のクリストフ・ルメールは左鞭を入れた。出走馬の中で最も遅く追われたことでシュネルマイスターは馬名通り「スピードの達人」となったのだ。

残り50mのところまではまだソングラインが半馬身リードしていたが、それを覆す驚異的な末脚でソングラインをハナ差だけ差し切って勝利。20年ぶりとなる外国産馬の制覇を成し遂げた。

 勝ち時計1分31秒6はレース史上2番目の速さ。これだけ完成度の高いレースを見せて勝利したシュネルマイスターに対し、ルメールはレース後「まだ子供っぽいところがある」とコメント。

あれだけの強さを見せてまだ発展途上というところに底知れぬ魅力を感じさせる。

 思えばNHKマイルCを制した外国産馬のクロフネやエルコンドルパサーはその後も圧倒的な強さで競馬ファンの心を打つようなレースを見せてくれた。

果たして20年ぶりに現れた"青い目のサムライ"シュネルマイスターは今後、どんなレースを我々に見せてくれるのだろうか。


■文=福嶌弘