【オークス】ユーバーレーベン 執念で成しえた4度目の挑戦

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2021.5.23

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ユーバーレーベンが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ

 同じ相手に何度も負けても、「今度は勝つ」とあきらめずに次の勝負に臨める馬はどれだけいるだろう。

 ユーバーレーベンのこれまでの戦績を見て、ふとそんなことを思った。

 今は亡き、岡田繁幸氏が期待をかけていた素質馬はその期待通りにデビュー戦を快勝。その舞台は東京競馬場の芝1800mだったため、マイネル軍団の悲願とも言えるクラシック候補生として早くも注目されたが、その3ヵ月後に挑んだ札幌2歳Sでユーバーレーベンはソダシと出会う。

 初顔合わせとなったこのレース、ユーバーレーベンは後ろからレースを進め直線では猛然と追い込んできたが、先に先頭に立ったソダシをクビ差捕らえられずに2着。上がり3ハロンのタイムではこちらの方が0.1秒上回っていたのに。

 続くアルテミスSでもユーバーレーベンの前にはソダシがいた。札幌2歳Sの時と同じく、先に抜け出したソダシを後方からユーバーレーベンが追いかけるという展開になったが、初の1600m戦で戸惑ったのか、ユーバーレーベンは伸びきれずに9着に完敗。もちろんこの時もソダシが勝った。

 次にユーバーレーベンが走ったのは2歳女王決定戦の阪神JF。この時も当然、ソダシはいた。アルテミスSでの大敗が響いたか、ソダシが3.2倍の1番人気だったのに対し、ユーバーレーベンは単勝30.0倍の6番人気と大きく差が開いていた。

 だが、レースでは先に抜け出したソダシをまたも後方からユーバーレーベンが猛然と追い込むという内容で0.1秒差届かない3着。

上がり3ハロンのタイムはソダシが34秒2だったのに対し、ユーバーレーベンはメンバー最速となる33秒6。ついでに言えば大敗したアルテミスSの時だって、上がり3ハロンのタイムならユーバーレーベンの方がソダシよりも速かった。

早めに先頭に立つことで、後続の追撃をことごとくねじ伏せるソダシに対し、愚直なまでに後方一気の末脚で交わそうとしたユーバーレーベン。彼女自身も強いことはよくわかるが、ソダシとの対戦成績はこれで3戦全敗。普通に考えれば、勝負付けはもう済んだように見えた。

 だが、ユーバーレーベンは決して「打倒ソダシ」をあきらめたわけではなかった。年が明けて3歳、クラシックの舞台で巻き返すべく、陣営はこの馬にピッタリな条件である1800mのフラワーCから桜花賞というローテーションを組んで、打倒ソダシを目指した。

桜花賞直前でアクシデントに見舞われたため、結果的には桜花賞を回避してフローラSへと駒を進めたが、それでもめげずに前を向き、オークスの舞台で「打倒ソダシ」を目指した。

 迎えたオークス当日。澄み渡る青空の下でソダシの純白の馬体は今日も輝いていた。そんなソダシを負かすために17頭が静かに闘志を燃やしていたが、中でも最も「ソダシに勝ちたい」と思っていたのは最も多く対戦してきたユーバーレーベンだったことだろう。

前走のフローラSでは454キロとデビュー時よりも馬体が減ってしまっていたが、オークスではプラス8キロと回復。張りのある漆黒の馬体はソダシの白さとはまた違う魅力を感じさせた。

 スタート直後、いつものように好位に付けたいソダシをマークしようとする馬たちが密集したことで1コーナーに入るまでに各馬が密集してしまい、ユーバーレーベンは後ろからのレースに。

クールキャット、ステラリアがハナを争い、そのすぐ後ろをソダシが付けたことで前半1000mは59秒9というちょっと速い流れに。

その後ペースは少し落ち着いたとはいえ、4角を過ぎるころには再びペースアップ。ユーバーレーベンの鞍上、ミルコ・デムーロはレース後「位置が後ろになりすぎて失敗したと思った」と語ったが、結果的にユーバーレーベンにとっては追い風となった。

 迎えた最後の直線。逃げるクールキャットを捕まえようとソダシがスパートを掛けたが、速い流れを先行したことが響いたか、いつものように伸びない。

新緑のターフに白い馬体のコントラストは美しく映るが、今回ばかりは直線で伸びあぐねるソダシの姿を残酷にも際立たせてしまうものだった。

 ソダシが苦しんでいる中、上がってきたのがユーバーレーベンだった。

 何度追っても追っても届かなかった最大のライバルに並んで、一気に交わす。愚直なまでにこだわった後方一気の差し脚を生かして先頭に立つと、遅れて迫ってきたアカイトリノムスメ、外から飛んできたハギノピリナらの追撃を振り切ってゴール。

デビュー戦以来、およそ11ヵ月ぶりの勝利はマイネル軍団の悲願であるクラシック制覇を果たすだけでなく、自身が何度挑んでも超えられなかったソダシの壁を突き破る大きな1勝となった。

 無敗の白毛馬に挑むこと4戦、何度もあきらめずに後方から差すというレースでついにソダシを破ったユーバーレーベン。あきらめずにいれば、どんな願いも叶うことを自らの走りで示してくれた。

 ちなみにユーバーレーベンとはドイツ語で「生き残る」という意味。それに引っ掛けてか、レース後のミルコ・デムーロのコメントもまた秀逸だった。

「人生は難しい。いいことと悪いことがたくさんあります。わからないからがんばりたい」

 先がわからないからこそ人生は難しいし、面白い。勝ったユーバーレーベンはもちろん、今回が初黒星となったソダシ、そして秋にリベンジを期すライバルたち――今年の牝馬クラシック戦線からますます目が離せなくなりそうだ。


■文/福嶌弘