【エリザベス女王杯】アカイイト キャリア20戦目の大一番で出会ったパートナー

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2021.11.15

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アカイイト 写真:日刊スポーツ/アフロ

「不器用な馬だなぁ」――エリザベス女王杯のレース後、アカイイトの戦績を振り返った際、思わず漏らしてしまった一言である。

ディープインパクトの後継であるキズナの初年度産駒として生まれた彼女。この馬自身、父にキズナ、母父シンボリクリスエスというちょっと重厚な血統構成を持っている馬だったので、軽い芝でのスピード勝負はどうかな?という印象があった。

だが、アカイイトの戦績をよく見てみると、実に興味深い点があることに気が付く。末脚のキレを示す上がり3ハロンの時計が毎回のように速いのだ。

エリザベス女王杯前の全19戦中、アカイイトがメンバー最速の上がり3ハロンの時計を記録したのは12回、しかも約半数の5回は33秒台という速さを誇る。

今年2月の飛鳥Sでは32秒6という父どころか、祖父のディープインパクトですら顔負けとも言える驚異的な末脚を繰り出している。

それだけ切れる末脚を持っているにもかかわらず、彼女はどうしても勝ち切れなかった。これまでに挙げた4勝すべては上がり3ハロン最速の末脚を記録したときだが、それでも8回は取りこぼしている。

その原因のひとつと思われたのが3歳秋から顕著になってきた出遅れ癖。

ローズSや府中牝馬Sの時のようにスタートで出遅れると、道中は思うような位置に付けられないままで直線を迎えることになり結果、猛然と追い込んでも届かないというレースばかりを繰り返した。

もともと重厚な血統の持ち主なだけに、スピード勝負で分が悪いのは致し方ないところもあった。

そのためか、これまでアカイイトは大舞台での活躍とは無縁だった。デビュー2戦目で勝ち上がったものの、次に白星を挙げたのは春のクラシックが終わった後の3歳8月。

キャリアを通じて連勝したこともなければ、重賞を走ったのだってたったの2回。いずれも2回とも12番人気7着という結果だったので、とてもじゃないが牝馬限定戦とはいえGIのエリザベス女王杯へのエントリーはムチャな挑戦なように思えた。

だが、そんなムチャな挑戦がアカイイトにとって、かえって良かったのかもしれない。そう思えたのはパドックのVTRを見返した時だった。

今年のエリザベス女王杯を一言で表現するなら、レイパパレとアカイトリノムスメのGI馬2頭による2強対決。

単勝オッズでもこの2頭が拮抗し、3番人気のウインマリリンは少し離れたオッズになっていた。その割に単勝で10倍を切る馬が5頭もいるというところにこのレースに隠れていた混戦っぷりが見え隠れする。

そんな中、アカイイトは我関せずという雰囲気で堂々と周回。10番人気という低評価も手伝ってか、ヘンに気負いすぎることもなければ、強敵相手に怖気づくこともないというある種、理想的な周回を見せてくれた。

そして迎えたスタート。

先行してペースを作りたいレイパパレの思惑を阻止するかのようにハナを奪いに行ったのがシャムロックヒルとロザムール。宝塚記念、オールカマーともに最後はガス欠気味でゴールしているようにスタミナ面に一抹の不安があったレイパパレは無理に競りかけず2番手集団に。

それをマークする形で前にウインマリリン、後ろにアカイトリノムスメという具合で人気馬が固まった状態になった。ちなみにアカイイトはこの時、後ろから5頭目という位置取り。良くも悪くもいつも通りのポジショニング――

この時は誰もがそう思っていた。

1000mの通過タイムは59秒ジャスト。平均ペースよりもちょっと速い流れになったが、この流れに我慢できなくなったかのように動き出したのがレイパパレ。1番人気の重圧か、それとも実力ナンバーワンを誇示するための意地か、新パートナーであるクリストフ・ルメールの制止を振り切るかのように上がっていった。

1番人気馬の思わぬ早仕掛けにライバル馬たちも焦ったのか、ウインマリリンやアカイトリノムスメらはレイパパレに合わせるように上昇。

その結果、後半のラップタイムを見ると12秒5よりも遅い時計が一度もないという行きつく間もない締まった流れに。真のスタミナを要求される展開になったことがアカイイトにはハマったのかもしれない。

さて、そのアカイイトはと言えば3角過ぎからいつものように始動。

この日が初騎乗だった幸英明にさえ「最後は伸びてくれると信じていた」と言わせるほどに愚直なまでの末脚を生かすべく、阪神内回りコースに対応したロングスパートを敢行したが、これが前にいた人気馬が早めに動いていくという展開にもマッチして予想以上の結果を得ることになった。

そうして迎えた直線、アカイイトはレイパパレを交わして先頭に立つと、あとは後続を振り切る形でゴール。追い込んできた2着のステラリアに2馬身という決定的な差をつけて、見事に女王の座を掴んだ。

10番人気の伏兵がこれだけ鮮やかなレースをするとは驚きだが、アカイイトからしたらいつも通り、自分の唯一無二の武器である末脚を生かしたレースをした結果のこと。

レース振りやこの日も最速だった上がり3ハロンの時計を見ると普段通りのもので、特別なことは特になかったように思えてくる。

だが、たったひとつだけ、アカイイトには特別なことがあった。時に不器用にすら映る一途でまっすぐな末脚を愛してくれたベストパートナー、幸英明に出会えたことだ。

その不器用さゆえにいくらか遠回りをしたかもしれないが、キャリア20戦目で出会った延べ13人目となるパートナー・幸英明との勝利......もしかするとアカイイトが紡ぐ物語はまだ始まったばかりなのかもしれない。


■文/福嶌弘