ラヴズオンリーユー 受け継がれる、ド根性 ~2021年香港国際競走回顧録

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2021.12.13

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ラヴズオンリーユー Photo by Lo Chun Kit /Getty Images

 香港カップをはじめとしたGI4戦に12頭が出走して2勝、敗れた2戦だって、どちらも馬券圏内に食い込む馬が現れるなど、ほぼ期待通りの成績を収めたと言っても過言ではない今年の日本馬たち。

もともと創設当時から日本馬が好成績を収めがちな上、いつになく豪華なメンバーがエントリーしていたとはいえ、異国で残したこの成績は立派の一言に尽きる。

 まずは4戦中、最も手堅いと思われていた香港ヴァーズから。8頭立ての少頭数で展開による紛れが起きづらいと考えられていただけに、単勝1.6倍(日本オッズ)という圧倒的な支持を受けていたグローリーヴェイズの位置取りには驚かされた。

気になるグローリーヴェイズの1コーナー時の位置取りはなんと最後方。向こう正面に入るころには1頭交わしてはいたが、先頭を争うリライアブルゲームやステイフーリッシュとはだいぶ離された位置に。道中の流れも穏やかだっただけに日本での彼を知るものとしてはまさに万事休すの状態に思えたことだろう。

この位置からでは例え、猛然と追い込んできても、東京競馬場よりも短い430mという直線の距離では届かないと思われた。思えばグローリーヴェイズは古馬になってからというもの、上がり3ハロンのメンバー最速を記録したことがなく、それに通じる形で惜敗が続いたという経緯がある。

だが、シャティンにいるときのグローリーヴェイズはまるで別馬。

直線では先に先頭に立ったパイルドライヴァーが先頭に立つと、グローリーヴェイズはそれを追いかける形に。残り200mの時点ではまだ2馬身はあろうかというところだったが、1完歩ずつ、ゆっくりながら確実に捕まえに行くレース運びで残り50mのところで交わして、見事1着でゴールした。

 まるで機械のような正確な走りを見せたグローリーヴェイズ。鞍上のジョアン・モレイラも会心の騎乗だったようで、ゴール直後から派手なガッツポーズで喜びを表していたのが実に印象深い。

 直線が歓喜の声で包まれたのが香港ヴァーズなら、続く香港スプリントはまさかのアクシデントが起こり、直線で悲鳴が起こってしまった。

 戦前の下馬評では日本の若きスプリント王、ピクシーナイトが1番人気の支持を集めたほか、上位5番人気までに日本馬3頭がすべて入るなど、スプリント大国・香港馬たちのお株を奪う人気ぶりとなったが、いざフタを開けてみると、スタートから香港馬たちが大健闘。

先頭をコンピューターパッチ、アメージングスターらで争ったことでペースはかなりのハイペースとなり。日本ではほとんど差しに回ったことがないレシステンシアが後ろからのレースを強いられるほどだった。

そして事件は4コーナーを過ぎたところで起こった。先を行っていたアメージングスターが突如として転倒。それに巻き込まれる形で被害に遭った後方の馬たちもすぐに病院などに搬送された。被害を受け、競走を中止した馬たちの中には1番人気のピクシーナイトらが含まれるなど、波乱のものとなった。

そんなサバイバルレースを制したのは地元香港勢の伏兵・スカイフィールド。落馬事故を迎えて間もなく先頭に立ったのはクーリエワンダーだったが、1頭で抜け出すとあちこちに寄れてしまうのが玉に瑕。あっちへゆらゆら、こっちへふらふらと言わんばかりのレース運びで走りのバランスを崩すと、待ってましたとばかりに襲い掛かった。

そこに最後まで差しにこだわっていたレシステンシアが直線で猛然と追い込むも時すでに遅し。遥か前方でスカイフィールドが勝ち名乗りを挙げていたのだから。

ちなみにこれが引退レースとなっていたダノンスマッシュは落馬事故に巻き込まれ、ゴールした中では最低の着順である8着に大敗。一発勝負とはいえ、レースの怖さを改めて思い知される一戦となった。

香港スプリントの余韻冷めやらぬ中行われたのが、香港マイル。

このレースの戦前の下馬表ではゴールデンシックスティが単勝1.3倍のダントツ1番人気、そして続くのが安田記念を制したダノンキングリーと日本馬が4頭もエントリーしてきたが結果は残念ながら、ゴールデンシックスティの強さだけが印象に残る一戦となった。

スタート直後はダノンキングリーとラッキーエクスプレスがハナを争う形になったが、いつしか自然にダノンキングリーが前に。各馬はそれを見ながら脚を溜めていたが、ダントツ人気のゴールデンシックスティはそのさらに後ろ。直線での爆発力に賭ける形になった。

そうして迎えた直線。スローな流れは脚を溜めていた馬たちにとっては災いした感があったが、ゴールデンシックスティはそんな中でも懸命に追いすがり、残り200mの時点でついに先頭に。その後は追いかけてくる後続馬たちを懸命に振り切って見事にゴール。

香港史上最強馬との呼び声高い彼の激走に胸を熱く打たれた。ちなみに日本勢ではサリオスの3着が大健闘と多くのメディアから取り上げられた。

 大トリとなったのが毎年恒例の香港カップ。

そしてこのレースでは、日本が誇る稀代の名牝、ラヴズオンリーユーがこのレースを最後に現役引退すると発表している。

無敗でのオークス制覇後、自身の適性を求めて海外レースへの積極的な挑戦が印象深い彼女だが、ラストランとなったここでも何一つ変わらぬ。堂々とパドックを周回する様子はまさに女王の風格が漂っていた。

 スタート直後、カーインスターとボリショイバレエの2頭が果敢にハナを切って先頭に立とうとすると、ラヴズオンリーユーは普段よりもキモチ前のポジショニング。先行勢をいつでも捕まえられると言わんばかりの位置に付けてのレースとなったが、意外にもこの位置取りが直線ではアダになった感もあった。

迎えた最後の直線、ラヴズオンリーユーは内を突く感じで伸びてきたが、それに外からかぶせてきたのがヒシアグネス。これまでの道中の位置取り等を見るとヒシイグアスの方が脚を溜めていた感があっただけに、一発逆転を狙っての位置取りだったのかもしれない。

しかし、こうしたレースを見せた時にこそ、ラヴズオンリーユーの真骨頂が見られる。内で粘って先頭に立っているロシアンエンペラーを捕まえたのが残り150mの辺りで、外から被ってきたヒシイグアスとの叩き合いを制して、ラヴズオンリーユーは引退レースを勝利で飾った。

 それにしても、3頭叩き合いの中で最も難しいとされる真ん中から抜け出して、引退レースを飾ったラヴズオンリーユー。その可愛らしい馬名とともにあの根性溢れるレース運びをこれから生まれる子供たちに受け継がれていってほしいものである。


■文/福嶌弘