【朝日杯FS】レジェンドは終わらない 未来の飛躍を予感させる弾丸のような末脚

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2021.12.20

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2021朝日杯FS(GI)ドウドュース優勝 武豊が初制覇 写真:東京スポーツ/アフロ

ドウデュースが先頭に立って朝日杯FSのゴールを迎えた瞬間、阪神競馬場にふと温かい風が流れたような気がした。レースを制した人馬を称える拍手や歓声とはまた違う、温かみがそこにあったように思う。

 その温かみのある風を生んだ一因となったのは、ドウデュースでこのレースを制したレジェンド・武豊の存在だろう。94年のスキーキャプテンで2着に敗れたのをはじめ、朝日杯FSに挑戦すること22回で未だに勝ち星を挙げていなかったのだ。

 94年以降の武豊の朝日杯FS成績を見ると[0・5・2・14]。2着が5回もあったように決してチャンスがなかったという年があるわけでもない。巡り合わせとは言うものの、ここまでくるとこのレースとの相性の悪さを疑ってしまうだろう。

 迎えた今年のパートナーはデビュー前から親交が深かったというキーファーズ代表取締役社長である松島正昭氏率いるキーファーズが所有するドウデュース。

デビュー戦からその手綱を任され、いずれのレースも序盤から好位に付け、騎手の意のままに動いて早めにスパートをかけて押し切るというパターンでここまで2戦2勝と無傷のまま朝日杯FSに挑んできた素質馬である。

だが、今年は相手が悪かったように思えた。というのも出走15頭中、ドウデュースと同じ無敗馬は6頭。しかも中にセリフォスやジオグラフなど、すでに重賞を制した2頭もいる。

単勝オッズ10倍を切る馬が4頭もいるというレベルの高い混戦模様のまま、今年の朝日杯FSはレース当日を迎えることになった。

アルナシームが出遅れた以外は出走15頭が横並びでスタートを切った...... ように見えたが、逃げてペースを自分のものにしたいカジュフェイス、トゥードジボンらが前に付ける一方、馬群はやや細切れに。前半3ハロンのタイムは34秒3と直近2年よりは緩やかだったものの、それでも前が厳しい流れになったというのは各馬の動きを見るとよくわかる。

迎えた直線。カジュフェイスらが必死で粘る中、外から猛然と追い込んできたのが1番人気のセリフォスとダノンスコーピオンの無敗馬2頭。

そしてその2頭を見て火が付いたのが伏兵のトウシンマカオ。先頭集団が固まりだしたところでそろそろ勝負が決まるかと思われた中で、猛然と追い込んできた人馬がいた。

武豊とドウデュースだ。

前半3ハロンの速いペースを見るにつけ、勝負は直線に入ってからと腹を括った武豊は迎えた直線で外に出すと、右でステッキを一発。するとドウデュースもこの叱咤激励には火が付いたのか、直線で猛然と追い込んできた。

496キロの均整の取れた馬体が伸びてくるその姿はまるで弾丸のよう。気が付けばドウデュースは残り200mの時点でセリフォスらと並んで先頭争いに加わり、力でねじ伏せて、朝日杯FSのゴールを先頭で駆け抜けた。

ゴール目前、武豊は珍しくガッツポーズをした。

積もり積もった惜敗にピリオドを打ち、達成は不可能かとも思われた自身のGI完全制覇へのカウントダウンもホープフルSを残して残り1つ。

来年の春には再びこの馬の鞍上として今度は得意中の得意としているクラシック制覇を目指すことになる。これから訪れるやるべきことが待ち遠しいと言わんばかりのガッツポーズだったのかもしれない。

「なかなか勝てなかったけれど、今年はチャンスだと思っていた」――

レース直後に武豊はこう語った。初騎乗の時から大成することを予感していたというように誰よりもドウデュースを高く評価していたのが競馬界のレジェンドである彼だった。

2022年の春、ドウデュースは武豊を背にして、果たしていくつタイトルを積み重ねるのか......来年のクラシック戦線が早くも楽しみになってきた。

 ドウデュースだけが輝きを放ったかのように見えた今年の朝日杯FSだが、直線での攻防はここ数年でも屈指の見応えを誇るものだった。1番人気に推されたセリフォスは内が伸びない馬場状態を考慮して直線早めに外に持ち出すというロスのあるレースをしながら僅差の2着。

最後の直線では200m近くドウデュースと競り合ったのを見てもこの馬の勝負根性もなかなかのものだというのがよくわかる。距離の融通は利かないかもしれないが、この馬も将来はビッグタイトルを取るだけの実力は秘めているように思う。

 セリフォス同様に重賞を制してここに挑んだ2戦2勝の無敗馬、ジオグラフは直線で外にはじかれた不利もあって5着に完敗。ドウデュースと同じく1800mしか走っていない中で迎えた一戦だったが、道中の様子を見るとマイルの流れはやや忙しかった様子。一発逆転を狙って直線勝負に賭けたが、前にいたドーブネにぶつかる形でロスしたことも響いたか。

 それでも、直線に入ってからの脚で最もインパクトを感じたのはジオグラフだった。最終的には5着止まりだったが、上がり3ハロンの時計はドウデュースと同じメンバー最速タイの34秒5。まだまだ粗削りとはいえ、あの末脚には何か可能性を感じさせた。

 スターホースが続々とターフを去っていく12月は未来のスター候補たちが続々と顔を出してくる......もしかしたらゴール直後に感じた温かい風は武豊への祝福だけでなく、2022年の競馬界を担う若駒たちへのエールだったのかもしれない。


■文/福嶌弘